ポルシェ・カイエンターボS(4WD/8AT)
こいつに後ろにつかれたら…… 2013.07.15 試乗記 最高出力は550ps! ドライバーに物理の法則を忘れさせる、「カイエンターボS」の途方もないパフォーマンスを支えるものとは?パワーアップより軽量化
最近アップされた、僕の先輩・青木禎之さんによる「ポルシェ・ケイマンS」の記事に「21世紀初頭にシュトゥットガルトの救世主ことSUVの『カイエン』が出てからこっち、ポルシェをして『ピュア・スポーツカー・メーカー』と呼びにくくなったのが残念だが、それでも最も“正しい”ポルシェといえば、ケイマンだろう」と書かれていて、100%同意するのだが、利益率の高いカイエン(この会社に利益率低い商品ないけど)なかりせば、“正しいポルシェ”も進化させられないというもの。さしずめカイエンは正しいポルシェを生み出すための正しい対策といったところか。青木さん、お元気ですか?
カイエンは2代目になって、自社のスポーツカーに似たとは言わないが、同じ系統の顔つきが採用された。大型SUVで大事な“いかつさ”でいったら先代(の特に後期)に軍配が上がるかもしれないが、僕は新型のほうがよいデザインだと思う。あのポルシェのSUVという感じがするから。
エンジニアリング的にも進化を遂げており、140kgのダイエットに成功(欧州仕様)。「911」も「ボクスター/ケイマン」もモデルチェンジで軽くなったが、カイエンもその方向に進化した。コストに折り合いがつくのなら、軽量化によって失うものはないのだから軽いに越したことはない。もはや高級なスポーツカーもSUVも、これ以上パワーを向上させても一瞬の中間加速を増すだけというところまで行き着いてしまっているので、軽量化して燃費を稼ごうという考えなのだろう。軽いから結果的にパフォーマンスも上がるのだが。
カイエンには、3.6リッターV6、3.0リッターV6スーパーチャージャー+電気モーター、4.8リッターV8、4.8リッターV8の速い方、4.8リッターV8ターボ、そして今回の4.8リッターV8ターボの速いほうを積む「ターボS」と、6モデルもある。すべて電子制御4WDで、8段ATと組み合わせられる。ユニークにもV6では6段MTを選ぶことができる。先代も「GTS」のMTを日本仕様に設定したことがあった。ポルシェユーザーにはSUVだろうが何がなんでもMTしか認めないという人がいるのだろうか。いそう~。
鬼に金棒の電子デバイス
ポルシェは911などにも必要に応じて積極的に走りをコントロールする電子制御を組み込むメーカーだが、スポーツドライビングに不利な形をしているカイエンターボSに対して、自社の威信にかけてハイテク電子制御満載でコントロールする。
備わるのは、
・PDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール)……乗り心地とハンドリングの両立を目指しスタビライザーの効力を加減するシステム。
・PTVプラス(ポルシェ・トルク・ベクトリング・プラス)……リアデフをコントロールしたり内輪にブレーキをかけたりしてコーナリング性能を向上させるシステム。
・PTM(ポルシェ・トラクション・マネージメントシステム)……前後左右へのトルク配分をコントロールするシステム。
・PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメントシステム)……ダンパーの減衰力をコントールするシステム。エアサスと協調し、車高調整やセルフレベリングも担うシステム。
・PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム)……いわゆる横滑り防止装置。
走りには関係ないが、コーナリングライトや車速に応じた照射をつかさどるPDLS(ポルシェ・ダイナミック・ライト・システム)というのもある。必ず「ポルシェ~」で始まるので、だんだん「もうわかったよ!」と言いたくもなるのだが、似た機能であっても、よそとはひと味違うというポルシェのプライドを表現しているのだろう。
走ってみると、各種電子デバイスの効果は絶大で、カイエンは軽量化を果たしたとはいえ2270kgもある巨体にもかかわらず、小さなコーナーから大きなコーナーまで思ったとおりに曲がってくれる。効果を確かめるのに、何もぶっ飛ばす必要はない。交差点を徐行+αの速度で曲がるときにも、軽い身のこなしを感じることができる。エアサスによる車高調整装置やPTMのおかげで、必要なオフロード性能を備えつつも、これは完全にオンロード向けスポーツだ。
期待を裏切らないドライバビリティー
加えて、最高出力550ps/6000rpm、最大トルク76.5kgm/2250-4500rpmという化け物のようなパワーを、これまたPTMが最適な配分で4輪に伝えるので、加速は発進から中間まで途方もない。あなたが一級品のスポーツカーに乗っているか交機や高速隊でないのなら、山や高速でこのクルマに張り付かれたら、SUVのくせに生意気だ! とジャイアンみたいなことを言わず、道を譲ったほうがいい。
パワーやハンドリングだけのモンスターというわけでもない。人々がポルシェと名がつくものに期待するだけのドライバビリティーも備わっている。例えば、アクセルやステアリングといった操作に対する反応の正確さや、ステアリングホイールをはじめとする操作系の取り付け剛性など、カイエンはSUVのなかにあって異例にカッチリしている。最も動力性能の高いターボSだからなおさらそうなのだろう。全体から受ける印象は、911のそれらに対して薄いオブラート1枚追加といったところか。一点、ブレーキがオーバーサーボ気味なのは、911に比べ、だれが乗るかわからないクルマだからだろう。
長時間乗っていると、SUVということを考えればもう少しリラックスさせてほしいと感じるときもあった。V6かハイブリッドあたりを選べばまた印象も異なるのだろう。だが、全モデルでそれをやったら並み居るライバルに埋没してしまうことをポルシェはよく理解している。計測した街乗り燃費が5km/リッター程度にとどまったのを確認した際、このクルマが物理の法則に左右されない魔法ではないということがわかって、少しホッとした。
(文=塩見 智/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ポルシェ・カイエンターボS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4845×1955×1700mm
ホイールベース:2895mm
車重:2270kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.8リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(405kW)/6000rpm
最大トルク:76.5kgm(750Nm)/2250-4500rpm
タイヤ:(前)295/35R21 107Y/(後)295/35R21 107Y(ミシュラン・ラティチュード スポーツ)
燃費:11.5リッター/100km(約8.7km/リッター)(欧州複合モード)
価格:1977万円/テスト車=2285万円
オプション装備:スポーツデザインパッケージ(82万円)/オートマチックテールゲート(11万6000円)/プライバシーガラス(8万3000円)/バイキセノンヘッドライト・ブラック(PDLS付き)(8万3000円)/ガラスルック・テールライト(9万円)/ポルシェ・セラミックコンポジットブレーキ(PCCB)(153万8000円)/レザー仕上げインテリアパッケージ(29万6000円)/カーボン3本スポーク・マルチファンクションステアリングホイール(ヒーター付き)(5万4000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3042km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:298.3km
使用燃料:60.3リッター
参考燃費:4.9km/リッター(満タン法)

塩見 智
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。


































