日産デイズ X(FF/CVT)/日産デイズ ハイウェイスターG(FF/CVT)
クルマ好きとしての評価は…… 2013.07.08 試乗記 軽乗用車市場での飛躍を期し、日産が満を持して投入した新型車「デイズ」。軽トールワゴンのど真ん中を狙ったという、その仕上がりを確かめた。日産と三菱の初の共同作業
「まずは直球ど真ん中を目指しました」
これは、日産が三菱との合弁会社NMKVを設立してまで挑んだ初の自社開発軽自動車「デイズ」の試乗会において、商品企画の担当者から出た言葉だ。
実はこのひと言、僕の質問に対する答えだった。その質問とは、「『キューブ』のような個性的な形は考えなかったんですか?」というもの。
試乗会場になった横浜の本社に到着する直前、ほかの方がドライブするデイズとすれ違った瞬間、サイドビューをチラ見して「ムーヴ」? と思ってしまったのだ。具体的に言えばマイナーチェンジ前のダイハツ・ムーヴに似ている。
ただ今回に関しては、仕方なかったとも言える。なにしろ日産と三菱という、今までは他人だった者同士による、初の共同作業なのだ。結婚披露宴みたいに、格式を重んじる体裁になってもやむなし。ここは日本だ。
それに実車を観察すると、デイズならではの部分もあった。立体感だ。限られた寸法内でなるべく広いキャビンを得ようと頑張る軽自動車は、どうしても外板が平板になりがち。ところがデイズはノーズが絞り込まれ、サイドには抑揚が付けられているなど、自動車っぽい。
ドアを開くと、前後ともサイドシルの前半が一段低くなっていて、足の運びがしやすい。ここまでしなくても乗り降りに不満はないけれど、ここまでするのが日本のものづくりである。さすが気配り王国ニッポン! と思いつつドアを閉めた僕は、無意識のうちにもう一度ドアを開け、再び閉めた。
後席の乗り心地は軽の中でも随一
というのも、ドアの閉まり音が「バンッ」という瞬間的なものではなく、「バオン」と余韻を残した響きだったので、半ドアかと勘違いしてしまったからだ。でもそのうちに慣れて、これもデイズの個性だと納得するようになった。
インテリアは、標準車では明るいながら色味を抑えたアイボリーを起用していて、落ち着いている。「ハイウェイスター」も黒一色ではなく、シートやフロアカーペットにダークブラウンをあしらった、他のハイウェイスターに通じるコーディネートを施して、オトナっぽいワルさをうまく表現している。
センターパネルのタッチパネル式エアコンスイッチは、短い試乗時間では、運転中に凹凸のない操作系を扱うことに戸惑った。たしかに温度調節は上下で異なる音を発するなどの配慮はなされているが、個人的には安全性を重視して、中級グレード以下に付くダイヤル式エアコンを選びたい。
やや硬めの前席は、十分なサイズと厚みを持つことに加え、640㎜のヒップポイントによる視界のよさ、奥行きのあるインパネ、サイドウィンドウまでの空間的な余裕などが、実際の広さを超えた「広さ感」をもたらしてくれる。
後席は、スライドを最後方にすれば身長170㎝の僕が足を組めるほどだが、これはライバル車も同等であり、驚きには値しない。それよりも印象に残ったのは、前席よりソフトな座り心地。軽自動車の後席では1、2を争う安楽さだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ターゲットは40代女性
ターボ仕様は8月発売とのことなので、今回は自然吸気仕様のみに乗った。そのエンジンはライバルと比べると、最高出力、最大トルクともに控えめで、発生回転数が高い。そのためなのか、CVTのトルク伝達が絞り気味なのか、やや元気がない。とりわけ30㎞/hあたりまでの加速がおっとりしている。
セレクターレバー横のボタンを押してDsモードにすると、アクセルを踏んだ瞬間に高回転まで回るようになるけれど、発進加速は大差なし。ただ50~60㎞/hになると不満を感じなくなって、ゼロヨン加速はライバルと同等というメーカー側のアナウンスにもうなずけた。
ボディーの剛性感はかなり高い。しかも全車共通設定のサスペンションはソフトなので、足がよく動く。街中を流すだけならラクチンだ。ただし自然吸気仕様にはスタビライザーは付かないので、交差点を曲がる程度でもグラッと傾く。
乗り心地は14インチホイール/タイヤを履く標準車より、15インチのハイウェイスターのほうが、おそらくはタイヤによる燃費追求が控えめなためだろう、グリップだけでなくコンフォート性も上だった。
びっくりしたのが軽自動車初のアラウンドビューモニター。「こんな小さなクルマに必要なんですか?」と思ったが、むしろ小さなクルマほど、必ずしも運転がうまい人ばかりが乗るわけではないからという説明を聞いて納得した。
それを含めて、デイズはwebCG読者とは違う世界に住む人々のための軽自動車ではないかという気がした。実際、メインターゲットに据えた40代の女性たちは、この加速でも十分で、ソフトな足は好評という。
なので、クルマ好き的には横滑り防止装置とフロントスタビライザーを備えたターボ仕様が出るまで、このクルマの評価は「待ち」にしたい。たとえ初球が直球ど真ん中であったとしても。
(文=森口将之/写真=向後一宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
日産デイズ X
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1620mm
ホイールベース:2430mm
車重:830kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6500rpm
最大トルク:5.7kgm(56Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピア EP150)
燃費:29.2km/リッター(JC08モード)
価格:122万100円/122万100円
オプション装備:のみ
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
日産デイズ ハイウェイスターG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1620mm
ホイールベース:2430mm
車重:840kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6500rpm
最大トルク:5.7kgm(56Nm)/5500rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピア EP150)
燃費:29.2km/リッター(JC08モード)
価格:137万9700円/140万700円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムサンフレアオレンジ>(2万1000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。