ジャガーFタイプ V8 S(FR/8AT)
汗臭くていいじゃないか 2013.07.21 試乗記 「Eタイプ」以来、ジャガーが50年余りの時を経て世に問うた2シータースポーツカー「Fタイプ」。その“本気度合い”を知るために、箱根のワインディングロードで5リッターV8スーパーチャージドユニットを解き放った。爆音に恐れをなす
夕日を浴びて伊豆の山道を下りて来たころにはすっかり上機嫌。この歳になってもクルマ好きは実に単純で、車が良ければ今日という日が充実した1日だったと素直に思う。久しぶりに汗ばむほどに、本気になって山道を走った感じがする。
ラグジュアリーとかエレガントという言葉を使う前に、やはりジャガーはドライビングのクオリティーで語られなければならない。格好はいいが似たり寄ったりのマーケティング用語を話す人間が多くなった自動車メーカーの中にあって、ジャガーは昔かたぎの“クルマ屋”が残っている会社だと感じていたが、今も変わらずそうなのだろう。そうでなければこの「Fタイプ」のような車は生まれないはずだ。半世紀の時間を超えて“E”の次の“F”の文字を与えられた2シーターであるからには当然期待していたけれど、それ以上にジャガーFタイプは骨太なスポーツカーだった。
もっとも、走り始めた最初の印象はあまり芳しいものではなかった。1.9m余りもある幅広いボディーは街の中では気が重いだけだし、非常に造りの良い幌(ほろ)とはいえ、斜め後ろの視界はどうしても限られる。
何よりも首都高速に入って普通に加速したら、運転している自分でもびっくり仰天するほどの爆音が壁に反響するではないか。乗り心地の変化を試そうとダイナミックモードのスイッチをいじっていたが、それを作動させると「アクティブ・スポーツエグゾースト・システム」も一緒にオンになるようだ。そのたけだけしい排気音はどうしようかと狼狽(うろた)えるぐらい。
しかも後で分かったことだが、加速中のみならず、勢いよくスロットルを閉じた時もバラバラパンパンという、昔のハイチューンエンジンのアフターファイアのような爆発音をまき散らす。最新の直噴エンジンがアフターファイアを起こすはずもないから、一瞬どこか壊れているのではないかと疑ってしまった。これも演出なのだろうが、それにしてもちょっとやりすぎだ、とあきれながら逃げるように人気のないオープンロードを目指したのだった。
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飛ばしてこそのジャガー
周囲の車が少なくなって気兼ねなく右足を踏み込めるようになると、街中では持て余し気味だったスーパーチャージャー付き直噴5リッターV8エンジン495ps(364kW)/6500rpm、63.7kgm(625Nm)/2500rpmががぜん生気を取り戻す。定評あるZF製8ATが滑らかかつダイレクトに引き出すパワーは強大で、オールアルミ製の割には1810kgとそれほど軽くないボディーを自在に加速させる。0-100km/hは4.3秒、最高速300km/hを誇るという。
頼もしいのは足まわりがその強大なパワーをしっかりと受け止めている点だ。アダプティブダンパーを装備する「V8 S」の乗り心地はもちろん硬いけれども、ガチガチに締め上げられているのではなく、滑らかさとその奥にある筋肉質の足腰を同時に感じさせるタイプ。直接的なハーシュネスが伝わらないことからもサスペンションがスムーズに動いていることがうかがえる。
電子制御可変ダンパーシステムには、どのモードを選んでも帯に短し襷(たすき)に長しといった中途半端なものもまま存在するが、ジャガーは以前からアダプティブダンパーの採用に積極的で(昔はCATSと称していた)、先代の「XJサルーン」では既にオールアルミボディーと可変ダンパーの組み合わせを手なずけていたのだ。山道でも姿勢変化はごく小さく、そのいっぽうで荷重変化にも正確に応えてくれる優れたバランスを備えている。
また極めて正確なステアリングは、流れるように続く中高速コーナーで真価を発揮する。間髪入れずに向きを変えるのではなく、ほんの一瞬の溜めがあって、その次の刹那にスッと切れ込む感じといえばいいだろうか。その気持ちの良いリズム感と、4本のタイヤが今どこを通っているか、それこそ295/30ZR20という極太のリアタイヤの外側何cmが路肩からはみ出しているかまで、手と腰に正確にダイレクトに伝わってくる精密なインフォメーションのおかげで、飛ばすほどにワイドなボディーが小さく軽く感じるようになるから不思議だ。
走っているうちに、6年ほど前、オールアルミに生まれ変わった「XKクーペ」の試乗会が南アフリカで行われた時のことを思い出した。大きな声では言えないが、それは非常にペースの速い試乗会だった。つまり、それほど飛ばせる車だったということだが、このFタイプはその上をいく。
ちなみにDSCのボタンを押してトラクションコントロールの介入を抑えればパワーでリアを振り出すことも容易であり、しかもアクティブデフの効果でその先のコントロールも余裕をもって行える。ジャガーはやはり走ると素晴らしい車、いやアグレッシブに飛ばしてこそ輝く車である。
欲を出さないスポーツカー
抜群のドライビングダイナミクスを備えていることは、実はそのパッケージングに表れていると言える。Fタイプの全長は4470mmで「ポルシェ911カレラ」よりわずかに短いのに対して、全幅は1925mmと10cm余りも広く、だいぶ正方形に近いディメンション。ホイールベースとトレッドの関係で言えば、ミドシップの「アウディR8」に近い感覚だ。しかも電動トップの状態に左右されない独立したトランクを持つものの、開口部は広いが浅く、小さ目のキャリーオンバッグでさえ収められないような形状だ(容量は約200リッターという)。そこにジャガーの潔さというか、覚悟が表れている。
その辺の方針については、ちょうど『カーグラフィック』誌の7月号のインタビュー記事でデザインディレクターのイアン・カラム自身が語っていた。いわく、「他のメーカー、特にドイツ勢は実用性とパッケージングについて厳格だ。対してジャガーはもっと自由にパフォーマンスとスタイルを重視する」 まさしくその通り、最小限の実用性を保持しようとする911とは違うものを目指しているのである。
欲を言えば、煩雑に見えるクロムメッキのシートアジャストスイッチや、ソフトな素材で操作時の切れ味に欠けるシフトパドル、それにステアリングホイール上にダミーカバーを残してある点など、エレガントにもスポーティーにも見えず中途半端な細部を、素晴らしいドライバーズカーとしての実力に見合うようにもう少し何とかしてほしい。いや、細かいところはこの際よしとしよう。ジャガーFタイプは最近乗った中でベストのスポーツカーである。これで1250万円は安い。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプ V8 S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1310mm
ホイールベース:2620mm
車重:1810kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:495ps(364kW)/6500rpm
最大トルク:63.7kgm(625Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y (後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.1km/リッター(JC08モード)
価格:1250万円/テスト車=1438万6000円
オプション装備:エクステンデドレザーパック+プレミアムレザーインテリア(35万8000円)/プレミアムレザーパフォーマンスシート(40万円)/施錠付き小物入れ(9万5000円)/ヴァレイモード(1万1000円)/トレッドプレート(イルミネーション付き)(4万5000円)スポーツカーペットマット(2万6000円)/オートエアコン(左右独立調整式、空気清浄機能付き)(8万5000円)/メリディアン770W サラウンド・サウンドシステム 14スピーカー(20万円)/コンフィギュラブル・ダイナミック Dynamic-I ディスプレイ付き(15万円)/アクティブスポーツエグゾーストシステム スイッチ機能(1万円)/アダプティブフロントライティング(8万8000円)/ジャガースマートキーシステム(7万5000円)/レッドブレーキキャリパー(4万5000円)/リアパーキングコントロール+リアカメラパーキングコントロール(10万円)/20インチ Cyclone ブラックフィニッシュアロイホイール(19万8000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:5611km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:337.2km
使用燃料:59.5リッター
参考燃費:5.7km/リッター(満タン法)、6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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