BMW 320iグランツーリスモ モダン(FR/8AT)
セダンのような、ワゴンのような 2013.08.06 試乗記 ロングホイールベースと5ドアハッチバックのボディーが個性的な「BMW 3シリーズグランツーリスモ」。セダンともワゴンとも違う走り味と、使い勝手の特徴に触れた。開発者泣かせのグランツーリスモ
「BMW 3シリーズ」のファミリーの一員であることに間違いはないとしても、なにやら面妖なディメンションのクルマである。ただし、既存のセダンやワゴンと比べて110mm長いホイールベースに関しては、中国向けにセダンのロングホイールベース版があるそうなので、まだわかりよい。それと同じ(だろう)、と考えればいい。
少しややこしいのは高さ関係。セダン比70mmアップの全高は、純粋にボディーの背丈が高くなったぶんではどうやらない。というのは、タイヤのサイズ。セダン用の標準サイズ225/50R17に対しグランツーリスモは同じく225/50R18で、外径が26mmほどデカい。要は内径が1インチ=約25.4mm大きいぶん。クルマの背の高さに寄与するのは、その半分。
でもって、カタログ記載のグランツーリスモの最低地上高の数字はセダンのそれより25mmだけ大きい(140mmに対して165mm)。ということは、その25mmのうちのほぼ半分がサスペンション側による車高アップぶんだと考えてもよさそうだ。
タイヤ外径とサスペンション側の両方でライドハイトを高くするテは、フォルクスワーゲンが「クロスポロ」で使っている。それのビーエム版。ただしこのクルマの場合、後述するようにバネやダンパーの設定はフツーの3シリーズのそれらよりもソフト&マイルド指向が強い。その意味ではクロスポロのハンタイ。
ホイールベースを長くすると、フツーに考えて車体の剛性は低下する。それをカバーするための手だてを講じるとクルマが重たくなる。そして、グランツーリスモはボディー形態的にワゴンに近い。客室と荷室との間に隔壁(バルクヘッド)がないということでは同じであり、その一方で車体後部の開口面積はフツーのワゴンよりも明らかにデカい。
ということでこのクルマ、乗り心地やオトシン対策や操縦性や安定性の仕上げを担当した人にとってはちょっとかもっと難物だったのではないかと思われる。
見晴らしがよくてナイス
運転してみてオッと思ったのは、着座位置(ヒップポイント=HP)がセダン比ハッキリと高いこと。ひょっとして個体レベルで同じクルマではないかと思われる「320iグランツーリスモ モダン」の試乗記を、ほかでもないこの『webCG』に高平高輝さんが書いていて、それを読むと「約6cm高い」とある。とすると、床からHPまでの高さ、いわゆるヒール段差を、セダン比で3cmかもっと高くしてあることになる。実際に座ってみての印象も、ほぼそんなところ。見晴らしがよくてナイス。最近の乗用車にしてはAピラーの角度が立っていることもあって、いかにもセダンセダンしたセダンを運転している気分になる。
でもやはりセダンではないな、と思わせるのはこれ、やはりというか車体関係に前述のモロモロの影響が出ているもよう。具体的には、車体フロアのブルブル系の微振動が目立つ。同じ3シリーズのワゴン=ツーリングと比べてこちらのほうがさらにワゴンぽい程度に、それは顕著だった。ただし、このあたりに関しては、サスペンションの設定とタイヤの影響も少なからずあるかもしれない。
この「モダン」の場合、バネとダンパーは、いまのBMWのなかでは明らかにソフト&マイルド方向の設定になっている。それに対して、インチアップ仕様のタイヤはいかにもランフラットらしくサイドウォールがカタい(そしておそらく重たい)。この組み合わせが、例えば高速道路のジョイント段差(ドイツにはあまり、またはほとんどないはず)を踏み越えた際の突き上げのキツさをことさら強調してしまってもいる可能性がある。標準サイズのタイヤか、いっそバネとダンパーもカタくしたほうがベター、またはスッキリ快適かもしれない。後ろに人間を乗せて走るときのことをあまり重視しないなら、これでもいいか。
動力性能に不足なし
それとこのクルマ、ハンドルがずいぶんカルい。エコ度の高い制御モードを選んで走っていると、例えば高速道路のカーブで気をつけてそーっとハンドルをきらないとややグラッときてしまうぐらいカルい(スポーツ度の高いモードに切り替えたら手応えが変わるかもしれないけれど、そっちは試し忘れましたスイマセン)。オプション装備(3万5000円)のサーボトロニック、つまりパワステのアシスト量の可変制御の関係だと考えられる。
1660kg(前軸重量780kg+後軸重量880kg:車検証記載値)に対して2リッターガソリン直噴+ターボは、これはどうということはない。もっとクルマが軽かったらもっと動力性能が活発にはなるだろうけれど(それと燃費もいいだろうけれど)、オソくて困る方面の心配は別に要らない。車両重量とエンジンのキャパの額面の関係でいうと、ダウンサイジング度はそんなに高くないともいえる(例えば「フォード・エクスプローラー」のエコブーストは車重2トン超に対して2.0+ターボだし、「シトロエンC5ツアラー」は1.7トン弱に対して1.6+ターボ)。ということでヨユー。そういわれてもまだ心配な場合は、もっとハイスペックなエンジンが載っている仕様を選べばいいでしょう。クルマのキャラクターや用途を考えると、日本仕様にもディーゼルがほしいところではあるけれど。
ワゴンには見えないワゴン、しかもロングホイールベースでロングボディー、ということでこのクルマ、例えば自動車を撮るフォトグラファー(アタリマエだけど撮影車の、ことにワゴンの荷室のデキに関してはうるさい人が多い)のマイカーにいいのではないかと思った。デカい荷室は後席を畳むとさらに巨大になり、それでいて外観的にはドロボー方面の人たちから目をつけられにくいことが期待できる(積んでいる機材のセキュリティー方面に配慮して、あえてセダンを選ぶ自動車フォトグラファーもいるのです)。あるいはそう、デカめのラジコンのヒコーキを飛ばす趣味をお持ちの人にもこれ、いいかもしれない。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
BMW 320iグランツーリスモ モダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4825×1830×1510mm
ホイールベース:2920mm
車重:1660kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:184ps(135kW)/5000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1250-4500rpm
タイヤ:(前)225/45R19 92W/(後)255/40R19 96W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 SSR)
燃費:15.0km/リッター(JC08モード)
価格:514万円/テスト車=655万7000円
オプション装備:イノベーション・パッケージ(36万円)/タービン・スタイリング389 アロイ・ホイール(13万円)/フロント・センター・アームレスト(2万2000円)/ファインライン・アンソラジット・ウッド・トリム、パール・グロス・クローム・ハイライト(4万4000円)/電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(21万5000円)/ストレージ・パッケージ(5万円)/パーキング・アシスト(4万9000円)/パーク・ディスタンス・コントロール(4万3000円)/アダプティブ・ヘッドライト(8万2000円)/地上デジタルTVチューナー(10万8000円)/サーボトロニック(3万5000円)/ダコタ・レザー・シート+シート・ヒーティング(運転席&助手席)(19万9000円)/メタリック・ペイント(8万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2695km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:376.6km
使用燃料:46.2リッター
参考燃費:8.2km/リッター(満タン法)

森 慶太
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。