第57回:クルマじゃ逃げられない! 超高速ゾンビの恐怖
『ワールド・ウォー Z』
2013.08.09
読んでますカー、観てますカー
ゾンビは想定外だったボルボの安全装備
ゾンビ映画にはクルマがつきものだ。移動シェルターという重要な役割を果たしている。ゾンビは凶暴で恐ろしい敵だが、死んでいるから動きが遅い。死後硬直で関節はうまく曲がらないし、骨がもろくてすぐ折れてしまう。密閉空間であるクルマに乗り込んで高速移動すれば、とりあえず安全は保たれる。古典的名作『地球最後の男』では、たった一人生き残った男がシボレーのボロいバンで戦っていた。夜になるとゾンビが襲撃してくるが、なんとかしのいだのだ。
クルマの性能が向上すると、それに比例してゾンビも強力になってきた。2007年のリメイク作『アイ・アム・レジェンド』では主人公が「シェルビーGT500」に乗っていて、昔ながらのゾンビの動きでは戦力に大きな差ができてしまう。あまりに楽勝だとスリルもサスペンスもなくなるので、ゾンビの能力強化が必要になったのだ。最新最先端のゾンビ映画である『ワールド・ウォーZ』では、ついに立場が逆転してしまった。超高速ゾンビが無数に増殖し、生きている人間はとても対抗できそうにない。
元国連職員のジェリー(ブラッド・ピット)は、一家で「ボルボV70」に乗っていた。フィラデルフィアの市街地で渋滞にハマっていた時、突然大混乱に巻き込まれる。ゾンビが大挙して襲いかかり、パニックに陥った人々が逃げ出したのだ。クルマの中にいるのだから平然としていればよさそうなものだが、こいつらがやたらに強い。フロントウィンドウにヘッドバットをくらわし、ガラスを打ち破って車内に侵入してくる。これでは、クルマはシェルターの代わりにならない。
ジェリーはV70で脱出を図るが、衝突事故に巻き込まれてしまう。ボルボが誇る数々の安全装備も、さすがにゾンビ襲撃までは想定していない。完全な無法地帯となって交通法規が機能していない中では、平時の備えは役に立たないのだ。
船が一番の安全地帯
そもそも、なぜゾンビが高速で俊敏なのか。世界中で新種のウィルスが猛威を振るい、感染者がゾンビ化する。かまれた人もゾンビになってしまうのはお約束だが、この映画では死んでから復活するまでの時間が短い。かまれてわずか12秒で、新しいゾンビが誕生する。死体ではあるものの、新鮮だ。だから運動能力が高い。人間を見つけると、跳躍してかみついてくる。伝統的にゾンビは力が強く、動きの遅さだけが弱点だった。人間には対抗する手段がなく、世界中の都市が壊滅してしまう。
ジュリーはかつて国連で伝染病の調査にあたっていたため、ゾンビ発生の謎を解いて対策を講ずるよう指令される。子育てのために仕事をやめてすっかり主夫業が身についてきた彼は、首を縦に振らない。家族と一緒に行動してゾンビから守ることが、今の最優先事項なのだ。その気持ちを逆手に取ってきたのが国連事務次長のティエリー(ファナ・モコエナ)である。ジュリーたちが連れてこられたのは空母アーガスで、指令に従うならば一家はここに滞在できるという。断れば、陸に返されることになる。
ゾンビは海を泳ぐという設定ではないので、船にいる限りは安全だ。将来ゾンビが大発生するようなことがあったら、船で逃げるのが一番だということは覚えておいたほうがいいかもしれない。食料と水を用意して海で過ごし、1カ月ぐらい待って戻れば、ゾンビは死体なんだから腐ってドロドロになっているはずだ。
ゾンビの包囲網を突破した乗り物とは?
ジェリーがはじめに向かったのは、感染報告が最初にもたらされた韓国の米軍基地だった。飛行機で降り立つが、そこはすでにゾンビの群れに包囲されている。生き残った兵士たちが防戦するが、多勢に無勢だ。ジェリーはエルサレムがゾンビ防衛を成功させているとの情報を得て、また飛行機で飛び立とうとする。そのためには、ゾンビが待ち構える地域を突破しなくてはならない。ここで救世主となったのは、意外な乗り物だった。
闇の中で、ゾンビたちは半休眠状態でおとなしい。彼らは耳が敏感で、音が聞こえると覚醒し、その方向に突進してくる。クルマで移動したのでは気づかれてしまう。電気自動車があればなんとかなりそうだが、あいにく内燃機関車しかなかったようだ。そこで持ちだされたのが、自転車である。キャビンがなく無防備だから襲われたら終わりだが、こっそり移動するにはうってつけなのだ。
そんなわけで、この映画によって対ゾンビの最強の乗り物はクルマだという図式は成立しなくなってしまった。船と自転車に取って代わられてしまったというのは、クルマ好きとしてはいかにも残念である。ゾンビの進化に対抗して、クルマ側としても対抗策を考えなくてはならない。単にガラスを分厚くするのでは、VIPの乗る防弾仕様車になってしまう。古典的なゾンビには有効だった十字架やニンニクも超高速ゾンビには効き目がないようだし、何かいい考えはないものか……。
『ワールド・ウォーZ』は全世界で大ヒットしているようで、どうやら続編が作られることになるらしい。次回こそは、ゾンビ相手にクルマが活躍する場面を考えてもらえないだろうか。プロデューサーを兼任するブラピさんに、ぜひ検討をお願いしたい。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第288回:自称詩人は中古車で自由を表現する?
『自然は君に何を語るのか』 2026.3.20 「月刊ホン・サンス」第5弾は『自然は君に何を語るのか』。恋人の両親に初めて会う自称詩人は、気まずい空気の中で次第に感情を抑制できなくなっていく。「キア・プライド」が小道具としていい味! -
第287回:宝石を盗んで西海岸のハイウェイを駆け抜けろ!
『クライム101』 2026.2.12 ハイウェイ101で発生する宝石盗難事件はいつも迷宮入り。「ダッジ・チャレンジャー」で素早く逃走する犯人の犯罪心得は、殺さず、傷つけず、証拠を残さないこと。泥棒、刑事、保険ブローカーが華麗なる頭脳戦を繰り広げる! -
第286回:才人監督が描くディストピアのデスゲーム
『ランニング・マン』 2026.1.29 「アルピーヌA290」で追っ手のハンターから逃げ延びろ! スティーブン・キングが50年前に予見した未来は、まさに現在の状況そのもの。分断とフェイクが支配する現実を鋭くえぐった最新型デスゲーム映画。 -
第285回:愛のためにフルヴィアクーペで突っ走れ!
『トリツカレ男』 2025.11.6 夢中になるとわれを忘れるトリツカレ男がロシアからやってきた少女にトリツカレた。アーティスティックな色彩で描かれるピュアなラブストーリーは、「ランチア・フルヴィアクーペ」が激走するクライマックスへ! -
第284回:殺人事件? トレーラーが荒野を走って犯人を追う
『ロードゲーム』 2025.10.30 あの名作のパクリ? いやいや、これはオーストラリアのヒッチコック好き監督が『裏窓』の設定をロードムービーに置き換えたオマージュ作品。トレーラーの運転手が卑劣な殺人者を追って突っ走る!
-
NEW
第957回:伝説のベルトーネが復活 新経営陣が目指すブランドの未来
2026.4.16マッキナ あらモーダ!イタリアを代表するカロッツェリア&デザイン開発会社だったベルトーネ。新たな資本のもとで再起を図る彼らが見据えたビジネスと、新生ベルトーネのクルマの特色とは? 温故知新で未来に臨む名門の取り組みを、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。 -
NEW
BMW M235 xDriveグランクーペ(後編)
2026.4.16あの多田哲哉の自動車放談2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤーの“10ベストカー”にも選ばれた「BMW 2シリーズ グランクーペ」。そのステアリングを握った元トヨタの多田哲哉さんが、BMWのクルマづくりについて語る。 -
NEW
ランボルギーニが新型BEVの開発・導入を撤回 その理由と目的を探る
2026.4.16デイリーコラム第4のランボルギーニとして登場した2+2のフル電動コンセプトカー「ランザドール」。しかし純電気自動車としての販売計画は撤回され、市販モデルはエンジンを搭載してデビューするという。その判断に至った理由をヴィンケルマンCEOに聞いた。 -
レクサスIS300h“Fスポーツ”(FR/CVT)【試乗記】
2026.4.15試乗記「レクサスIS」のビッグマイナーチェンジモデルが登場。もはや何度目か分からないほどの改良だが、長年にわたってコツコツとネガをつぶし続けてきただけあって、スポーツセダンとしてひとつの完成形といえるレベルに達している。“Fスポーツ”の仕上がりをリポートする。 -
第109回:礼賛! 世界のベーシックカー ―でかいタイヤが象徴する“足し算のカーデザイン”に物申す!―
2026.4.15カーデザイン曼荼羅ルーマニアのダチアやインドのマルチ・スズキなど、日本では見かけない世界のベーシックカーに大注目! カーデザインの識者が見いだした、飾り気のない姿に宿る“素のカッコよさ”の源泉とは? 日欧にはびこる足し算のカーデザインに今、警鐘を鳴らす! -
トヨタとホンダのライバル車が同時期に国内デビュー 新型の「RAV4」と「CR-V」を比べてみる
2026.4.15デイリーコラム「トヨタRAV4」と「ホンダCR-V」の新型(どちらも6代目)の国内での販売がほぼ同時期にスタートした。いずれも売れ筋サイズの最新モデルだけに、どちらにすべきか迷っている人も多いことだろう。それぞれの長所・短所に加えて、最新の納期事情などもリポートする。





























