ジャガーFタイプ(FR/8AT)
なるほど、C、D、Eに続く、Fだ 2013.08.27 試乗記 ジャガーが半世紀ぶりに市場投入したピュアスポーツカー「Fタイプ」。過去の名車に思いをはせながら、その魅力を味わった。“希代の名車”の魅力をしのげるか
「ジャガーFタイプ」に関しては、いろいろと謝らなければならないことがある。ずいぶんと失礼なことも考えていました。はい。
まずは発表会の場において。
会場となったホールのエントランスには、希代の名車「Eタイプ」のロードスターが飾られていた。スリークなその姿を見た途端、「今度のニューモデルに勝ち目はないな」といきなり決めつけた。ドロップヘッドのEタイプは、問答無用にスタイリッシュで、カッコいいから。
ジャガーEタイプがデビューしたのは、1961年のジュネーブショー。念のため復習すると、Eに先立つ2車種のうち、「ジャガーCタイプ」は、いわば「XK120」のレーシングバージョン。1951年と53年のルマン24時間レースで、優勝を果たした。ちなみに、CタイプのCはCompetitionのC。その前に、Aタイプ、Bタイプがあるわけではない。
続く「Dタイプ」は、モノコックボディーのレースカー。Cの次ということでDになった。1955、56、57年と、ルマン3連勝を飾っている。Dタイプの公道モデルが「XKSS」である。生産工場が火災に遭ったため16台しか作られなかった、幻のコレクターズカーだ。
Eタイプでは市販車が先行したが、先例に倣って、競技用車両も開発された。アルミボディー、アルミエンジンが与えられたライトウェイトEタイプがそれ。もっとも、モータースポーツの世界はすでにミドシップの時代に入っていたので、華々しい活躍はできなかった。
欧州の自動車メーカーが、大事な新型車をお披露目するにあたって、今回のように歴史的なモデルを展示するのはよくあることだ。「そんじょそこらのポッと出のメーカーとは違いますから」といいたいわけ。自動車というものが、移動手段として根源的な差異を打ち出しにくくなった昨今、かつての名車を引っ張り出すのは、最も効果的なブランド差別化の方法である。
弊害もある。自動車メーカーに勢いがないと、「過去の栄光にすがっている」と思われがちなこと。さらに、得てして古いモデルの方が、肝心の新型車より魅力的に見えるという問題もある。ことEタイプの場合、“希代の名車”としてのオーラがすごい! 会場に入る際に、ドロップヘッドのスポーツカーを目にして、だらしなく口元がゆるむ来場者を何人見たことか!!
プアマンズ「カリフォルニア」?
ジャガーが半世紀ぶりに投入する“ピュア”スポーツカーことFタイプ。3リッターV6スーパーチャージャー付き(340ps、45.9kgm)を積む「Fタイプ」(950万円)と、5リッターV8を同じくルーツ式のスーパーチャージャーで過給して495psと63.7kgmを得る「Fタイプ V8 S」(1250万円)に大別される。
披露されたジャガーFタイプを見ながら、「ああ、これは“プアマンズ”カリフォルニアであるな」と、賢(さか)しらに考えていた。カリフォルニアとは、もちろん「フェラーリ・カリフォルニア」のこと。
どちらもアルミボディーを持ち、V型エンジンをフロントに搭載するFR車。ディメンションを確認すると、Fタイプは、カリフォルニアに近い数値で構成されている。具体的には、50mm短いホイールベースに、93mm長く、23mmワイドで、2mm高いボディーを載せる。いずれも手のひらに収まる大きさの違いだ。そのうえ、かたやソフトトップ、こなたハードトップという違いはあるが、屋根を自動開閉する仕組みを持つ。空力を考慮すると、フォルムが似てくるのは避けがたい。
Fタイプが、ピュアな2シーター(シートの後ろにカバンを置くのも厳しい)であるのに対し、フェラーリが曲がりなりにも「プラス2」のリアシートを持つのは、折り畳んだハードトップを荷室上部に収納するためである。Fタイプの場合、プラス2の位置にソフトトップを収めることになる。ラゲッジスペースがトップの開閉に左右されない良さはあるが、かといって、Fタイプの荷室に余裕が生じるわけではない。むしろ、薄く、複雑な形状で、ゴルフバッグやキャリーケースはおろか、「二人のための小旅行」に必要な荷物を積むのも厳しそう。ピュア2シーターのため、キャビンに荷物置き場がないのに加え、Fタイプの実用性には疑問符が付く。リッチなオーナーといえども、いつも荷車を同行させるわけにはいくまい。
会場に用意されたFタイプの室内をチェックしながら、「実用上、シートの後ろに物置がないのはツラいなァ」と、わかったようなことをつぶやいていた。
驚くのは、Fタイプの価格である。フェラーリ・カリフォルニアは2480万円からだから、8気筒のFタイプはザックリ半額。V6に至っては、「ポルシェ911」より安い! 「廉価でカッコいいクルマをつくるのは、サー・ウィリアム・ライオンズの得意技だったから……」と、返す返すも失礼な感想に終始した、Fタイプとの初対面でありました。
派手な演出に迎えられ……
試乗車は、3リッタースーパーチャージドのV6モデル。スッキリした後ろ姿に比して、フロントの造形は少々“トゥーマッチ”。個人的には、ジェフ・ローソンが手がけた初代「XK」のような、ソフトでロマンティックな外観こそジャガーらしいと思うのだが、革新的なデザインをまとった「XF」が出てからこっち、リーピングキャットは、そうした懐古的なスタイルとはキッパリ決別したのだ。
空力を意識したという埋め込み式のオープナーを引いてドアを開ける。真っ赤な革張りシートの派手なこと! 座面、背もたれとも、大仰なサイドサポートがうねっている。と、それはともかく、やはりカバンの置き場に困る。幸いにも、僕の足が十二分に短いので、シートを前に出すことで、スポーツシートの後ろに薄いスペースをつくることができた。
着座位置は低い。開いたドアから手を伸ばせば、地面に届きそう。ミラーを合わせ、スターターを押す。あいさつがわりの、エンジンの咆吼(ほうこう)。「定番の演出」とメモっていると、センターコンソール上部のエアコン吹き出し口がせり上がって来た。XFのような円筒形ではなく、コンベンショナルなレバー式のシフターを備えるFタイプは、シフターではなく、ブロワーが自動で立ち上がるのが自慢のようだ。
走り始めると、このクルマ、大きいね。横幅はミラー抜きで1925mmもある。ダブついた湯船に浸かっているようだ。V6は饒舌(じょうぜつ)で、アクセルペダルを少しでも踏み増すと、たちまち声を高め、「これでもか!」とばかりにレスポンスの良さを主張する。押しつけがましく、スポーティー。都内を走りながら、「ずいぶん派手なパレードカーだ」と感心する。ロンドンの兜町というかウォールストリートというかシティーあたりで、ヒュー・グラントばりのニヤついたイケメンが流していると似合いそう……と、180度真逆の存在である東洋人は苦々しく思うのであった。
走らせてみないとわからない
そんなFタイプへの悪感情(!?)が変化したのは、高速道路に乗ってからだった。英国のスーパースポーツは、巡航時の乗り心地が素晴らしい。ジャーマンプレミアムのように、ガッシリ鍛えた鋼のボディーで路面からの入力をガンガンはね返す……のではなく、アルミボディーのなんとなく鈍い反発を感じさせながら、道路の凹凸をしなやかにいなしていく。20インチを履いた足まわりは、街なかでは硬めと感じられる設定だが、ハイスピードクルージング時の不快な突き上げはよく抑えられる。
加速も気持ちいい。アクセルをベタ踏みしてみると、8段という多段ATの利点を生かして、エンジンの一番いい回転数を多用しながら、伸びやかに1810kgの車体を速度に乗せていく。胸がすく。これは注意しないと、いつの間にかとんでもない速度で走っていることになりそうだ……。
山道に至り、いざ屋根を開けて走り始めると、もうFタイプに夢中になった。コンソールのレバーを「Dynamic」モードにすると、排気音はますます高まり、エンジン、トランスミッションのレスポンスが、「極限!?」と思われるほど鋭くなる。2ペダルMTの、シフトダウン時の回転合わせに感心するのは珍しくないが、Fタイプの場合、シフトアップの早さにもビックリ! 「ブッ」というような音を発してたちまちギアが上がり、しかもパワーバンドを大きく外さない回転域にタコメーターの針を着地させる。目のさめるような加速が途切れない。
ハンドリングもいい。ステアリングはシャープで、前輪は路面を切り裂くかのごとく正確にラインをたどる。後輪は力強くクルマを前へ押し出していく。次のカーブが待ち遠しい。前後輪の役割分担をハッキリさせた古典的「FRスポーツ」のお手本だ。路肩に寄りすぎないよう、慎重にアプローチ。街なかでは幅が広すぎと感じたシートは、意外やしっかり体をサポートしてくれる。舵角(だかく)一定、高めの速度を維持したまま曲がる心地よさ! どこかダブついていたボディーは、いつの間にか運転者の体に張り付いている。“曲がり”を終えて、短い加速。クルマが軽い!
「この感覚、何かで体験した記憶が……」と沸騰した頭の片隅で考えて、思いついた。「そうだ。『マツダ・ロードスター』だ」。ジャガーFタイプは、“超”が付くほど高性能で上等な、マツダ・ロードスターだったのか。
クルマをスペックで判断し、販売戦略に当てはめて理解したつもりになっていた自分が恥ずかしい。豪華な装備や安易な演出を皮肉な気持ちで眺めながら、その実、幻惑され、本質を見誤っていた。自動車は、走らせてみないとわからない。当たり前のことだ。ジャガーの新しいスポーツカーのすみかは都会に違いないけれど、決して生まれ出た場所を忘れてはいない。なるほど、このクルマは、C、D、Eに続く、Fなのだ。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1310mm
ホイールベース:2620mm
車重:1730kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.8km/リッター(JC08モード)
価格:950万円/テスト車=1220万4000円
オプション装備:シートメモリーパック(15万円)/プレミアムレザーパフォーマンスシート(60万円)/プレミアムレザーインテリア(24万8000円)/カラーシートベルト<レッド>(3万5000円)/シートヒーター(3万7000円)/スポーツサンバイザー<ミラー付き>(7000円)/施錠付き小物入れ(9万5000円)/トレッドプレート<イルミネーション付き>(4万5000円)/ムードランプ(5万5000円)ステアリングホイールヒーター(3万6000円)/スポーツカーペットマット(2万6000円)/オートエアコン<左右独立調整式、空気清浄機能付き>(8万5000円)/メリディアン380W サウンドシステム 10スピーカー(16万5000円)/アダプティブフロントライティング(8万8000円)/ジャガースマートキーシステム(7万5000円)/リアパーキングコントロール+リアカメラパーキングコントロール(10万円)/アクティブスポーツエグゾーストシステム+スイッチ機能(36万円)/レッドブレーキキャリパー(4万5000円)/メタリックペイント(15万5000円)/20インチ TURBINE シルバーフィニッシュアロイホイール(29万7000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:5878km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:329.5km
使用燃料:59.6リッター
参考燃費:5.5km/リッター(満タン法)、6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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