ホンダ・フィットRS(FF/MT)
成熟した大人の「RS」 2013.11.13 試乗記 登場以来、好調な売れ行きが伝えられるホンダの人気コンパクトカー「フィット」。そのスポーティーモデル「RS」の走りをじっくりと検証した。れっきとした「レーシングスポーツ」
ホンダの主力小型車であり、稼ぎ頭でもある「フィット」。その利便性や快適性に対しては、『webCG』でもその内容を紹介してきたが、今回はホットモデルである1.5リッター「RS」の、“走り”をじっくりと検証する。
ところで、この「RS」というイニシャルは「レーシングスポーツ」の略称ではない。ホンダ自身はこれを初代「シビック」の時代から「ロードセーリング」と呼んでいるのである。
ある種のダマし? うーん、そうと言えなくもない。これは「レーシングスポーツ」をイメージさせながらも、「いやいや、『ロードセーリング』ですから」と逃げを打てる、体のいいマジカルワードではある。
実際2代目フィットの「RS」はそういうクルマだったと思う。1.5リッターのVTEC。唯一のMTモデルという肩書に胸をワクワクさせながら乗り込んだら、思いの外、優等生で肩すかしを食らった覚えがある。乗り心地もすこぶる良かった。
意地悪な言い方をすれば、ちょっとスパイスが足りない感じがした。もっともホンダの肩を持つならば、このRSは最上級モデルとして、初代フィットの安っぽい乗り味(重心が高いコンパクトカーのボディーを支える必要性や、このクラスのクルマに費やせるコストを考えれば当たり前)から脱却する必要があった。
しかし3代目では、とうとうホンダの、抑えきれない衝動があふれ出てしまった。シャシーの完成度もさらに上がり、上級モデルの役目は「フィットハイブリッド」に押しつけることができたから、思わずやっちゃったんだろうなぁ……。このRSは、れっきとした「レーシングスポーツ」になっていたのである!
いや……興奮があふれ出てしまったのは筆者のほうか。レーシングといったら、ガッチガチのビュンビュン系に間違われてしまう。そっちは「type-R」の分野。フィットRSは、それよりもうチョット大人の「レーシングスポーティー」に仕上がっていた。でも、ほんとに「チョット」なところが、ホンダらしくてかわいらしい。筆者は、ホンダ自身も本当は、「RS」の二文字にレーシングスポーツの魂を込めたかったのだろうとにらんでいる。
あの頃のホンダが帰ってきた!
その内容をざっとおさらいすると、エンジンは132psを発生する1.5リッターの直噴i-VTEC。トランスミッションは6MTとCVTの2本立てで、今回の試乗車は前者となる。
このBセグメントにおいて、欧州勢はターボが主流だが、ホンダはフィットの基軸を全て自然吸気(NA)エンジン(+ハイブリッド)に置いた。
とにかく乗った瞬間から、この1.5リッターi-VTECには驚かされる。
何度も言うが、現代のトレンドは低中速トルクに主眼を置いたエンジン特性にある。だから欧州勢は、小排気量エンジンにターボやスーパーチャージャーをくっつける。
しかし「そんなことNAで十分できる」とでもいうかのように、フィットRSは低中速のドライバビリティーを確保しながら街中をスイスイ走る。これに乗ってしまうと、むしろ「NAエンジンではできないから、欧州勢はターボを使うのかもなぁ」と思ってしまう。
そしていざアクセルを踏み込めば、高回転までブンブン回る。過給器の力を借りずとも、欲しい性能と、欲しい燃費は手に入る。だから「あとは楽しもうぜ!」と言われているみたいだ。
とはいえ最高出力の発生回転数は、6600rpmと(ホンダにしては)低め。そのどこが高回転型エンジンなんだ! とツッコミたい人もあるだろう。しかし実際の回転上昇感は、紛れもないホンダの高回転フィールで、「シビックSiR」といったら褒めすぎだが、かつて「CR-X」で1.6リッターZCユニット(135ps/6500rpm)を味わったユーザーが乗ったら、「ホンダが帰ってきた!」と涙するかもしれない。
これは120psから15psも上がったエンジンパワーに対して、1-2速は同じレシオながら、3速(1.253→1.303)と4速(0.948→1.054)をクロス化したトランスミッションの影響も大きいと思う。ちなみに5速(0.853)、6速(0.727)、ファイナルギア(4.625)、タイヤサイズ(185/55R16)は旧型RSと変わりない。
気持ち良くて実用的な小型車
それに対して足まわりは、はっきり好き嫌いが別れるだろう。好き嫌いというよりは、「イエス(買って良し)/ノー(買っちゃダメ)」だ。もちろんそれを発言するのは、財務省である奥さま。
高速道路を巡航する限り、55偏平というクッション性の高いタイヤを履かせていても、RSの乗り味はゴツい。フロントの高い剛性感は、安心感に直結する要素だから良いとしても、同等のボリュームで固められたリアは突き上げが硬く、そのハーシュネスをまともに喰(く)らったら、安心してマックのホットコーヒーが飲める保証はない。トランスポーターとしても優秀なフィットだけに、荷物を満載すればその乗り心地も落ち着くのかもしれないし、距離をこなしたらもっと良くなるのかもしれないが、まずはこの乗り心地が「カミさんを口説くための第一関門」になると思われる。
ただしそのハードルさえ飛び越えてしまえば、フィットRSは、コンパクトカーとは思えないほど上質で、痛快な走りを披露してくれる。
高い荷重領域に入ると、硬めに感じたフロントサスペンションは懐深くストロークして、ハイグリップというよりはコンフォート系タイヤであるブリヂストンの「トランザ」を、しっかりと路面に押しつける。
対してリアもこの速度域に入ると硬さが取れて、しっとりと路面に追従しだす。つまり「走りの領域」に突入しても、背の高いフィットをグラグラさせないために、リアサスペンションをある程度までは固める必要があったのだ。
その走りは、子供っぽいものではなく、成熟した大人のレーシングである。
走りヲタクである筆者としては、「スイフトスポーツ」以外にも、こうした気持ち良くて実用的な小型車が出たことをうれしく思う。もう一度、「あの頃のホンダ」を味わいたいなら、RSというグレードは文句ナシでお薦めできる。
すっごく気持ちの良いホンダである。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ホンダ・フィットRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1695×1525mm
ホイールベース:2530mm
車重:1050kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:132ps(97kW)/6600rpm
最大トルク:15.8kgm(155Nm)/4600rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・トランザ ER370)
燃費:19.0km/リッター(JC08モード)
価格:180万円/テスト車=208万円
オプション装備:Hondaインターナビ+リンクアップフリー(22万円)/あんしんパッケージ(6万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2023km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:302.3km
使用燃料:--
参考燃費:14.3km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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