トヨタ・ハリアー プレミアム“アドバンストパッケージ”(FF/CVT)/ハリアーハイブリッド プレミアム プロトタイプ(4WD/CVT)
正常進化したパイオニア 2013.12.27 試乗記 高級クロスオーバーSUVというジャンルを切り開いた「ハリアー」の3代目がデビューした。国内市場専用モデルとなったニューモデルの魅力を探った。トヨタの地力を感じる
これはコロンブスの卵なのである。だれもがやれるはずだったのに、だれもやらなかった。日本という極東の島国の中心にある三河のトヨタ町一番地から生まれた。たぶん、自動車の常識というものに欧米人ほどとらわれていない日本人だからこそ可能だった。「高級クロスオーバーSUV」のパイオニア。トヨタがそう誇らしげに位置づける「ハリアー」が、およそ1年の空白期間を経て、国内市場専用モデルとして復活した。3代にわたる、ちょっと前までのヨーロッパ車のような正常進化の歴史に、初代ハリアーのコンセプトの正しさが見てとれる。男子たる者、タキシードを着たライオンたるべきではないか。
3代目ハリアーは、前述したように国内市場専用というところがミソで、国内市場専用であるがゆえにグローバルマーケットというものを意識していない。だからこそ、ヘンに力が入っていない。トヨタの地力を感じさせる、中型クロスオーバーSUVとして、フツーの人々から愛されるできばえ、といえる。実際、2013年11月13日に発表され、月販目標台数2500台に対して、すでに2万台の受注があるという。一番安い2リッターのFFで272万円から、販売のメインとなるであろうハイブリッドで361万円から、という高級車である。といって超高級というわけではない。「手の届く上質な高級感」というのが開発陣の狙いなのである。なにしろ、本来はハリアー3代目を名乗る可能性だってあった現行「レクサスRX」ときたら、2.7リッターのFFで432万円、ハイブリッドだと561万円もする。
忠実で頼もしい存在
ボディーは日本国内の使い勝手を考慮して、先代2代目ハリアーより若干小さくなった。ホイールベースが55mmも縮んだのが特徴というべきで、それは「ヴァンガード」のプラットフォームを流用しているからなのだ。スタイリング上の必然から、新型ハリアーの方がヴァンガードより150mmも全長が長いけれど、2660mmのホイールベースは同一である。ちなみに「RAV4」のロング版をベースとするヴァンガードは、新型ハリアーと入れ替わるように2013年11月に生産が終了した。合掌。
パワートレインは、2リッターと、2.5リッター+電気モーターのハイブリッドの2本立てである。2リッターはアイドリングストップ機能と組み合わせた新開発のCVTを採用する。駆動方式はFFのみならず、電子制御カップリング式4WDの設定もある。最高出力151ps/6100rpm、最大トルク19.7kgm/3800rpmを発生する2リッター直4は「ノア/ヴォクシー」や「プレミオ/アリオン」等でおなじみのもので、2代目ハリアーの2.4リッターからダウンサイジングが実施されている。
この2リッターFFの装備充実バージョンで、富士スピードウェイ近くの山道を登って下った。30分程度の試乗ながら、急な坂道もなんのその、ボディーサイズの割に十分な動力性能をもっている。さほど速くはないし、スポーツカーのようなハンドリングとは無縁だけれど、車重1640kgと見た目よりも軽量なのと、新開発のCVTがいい仕事をしている。なにより一定以上のサイズのクルマのみがもつ鷹揚(おうよう)さが美点だろう。サーファーのおにいさん、おねえさんから、おじいちゃん、おばあちゃん、元サーファーのパパとママ、あるいは盆栽、陶芸、農業、サッカー、近頃流行だというボルダリング等、アクティブな趣味とライフスタイルをもつ老若男女にとって愛犬のような存在になるに違いない。穏やかだけれど、忠実で頼もしい大型犬という感じ。ちなみにハリアー(harrier)とは、英語でタカ科のチュウヒという鳥の意で、だからこそタカのマークが入っているわけだけれど、じつはフォックスハウンドに似た、でもそれより小型の猟犬の意もある。
地道なカイゼンの結果
ハイブリッドモデルに関しては、ナンバー取得前であったため、富士スピードウェイの敷地内の道しか走ることができなかった。あっという間に100㎞/hに達する速さを備えているけれど、あいにく構内の道路は直線距離も短いわけで、これからというところで加速をやめざるをえない。2リッターFFより、クルマがしっかりしている感はある。乗り心地は、路面がいいのでわからないけれど、よさげではある。車重は2リッターFFより150kg以上重い。それがいい方に効いている。
パワートレイン自体は「エスティマハイブリッド」などと基本的には同じで、2.5リッター直4のアトキンソンサイクルエンジンは最高出力152ps/5700rpm、最大トルク21.0kgm/4400-4800rpmを発生する。フロントに143psと27.5kgmを生み出す電気モーターと制御システム、リアに68psと14.2kgmの電気モーターとニッケル水素電池を備える。滑りやすい路面ではリアのモーターが活躍してくれるはずだ。トヨタで「E-Four」と呼ぶ電気式4WDシステムである。エンジンとモーターの出力&トルク、さらにシステム出力197ps、おまけにJC08モード21.8㎞/リッターという燃費は、エスティマハイブリッドより少なくとも数値では上回っている。地道なカイゼンが施されているのだ。
電子制御技術の採用にも積極的で、上から車両を見下ろしたような映像をナビ画面に表示できたり、レーンデパーチャーアラートといったドライビングサポート機能が用意されていたりもする。内装には見事な合成皮革とウッド調プラスチックパネルが用いられていて、「手の込んだ風合い」が醸し出されている。素材は合皮だけれど、ステッチはホンモノで、合皮の裏にはウレタンが貼ってあって、触るとへこんだりする。高級感をつくり出すべく、肌触りにもこだわっている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
現代の「ニッポンのファミリーカー」
思えば、初代ハリアーがデビューしたのは1997年の師走のことだった。1997年といえば……思い出すなぁ。Wikipediaによれば、1月には松田聖子が神田正輝と結婚し、香港がイギリスから中国に返還され、ダイアナ妃が事故死したりした。世界初の量産ハイブリッド車、「プリウス」もデビューした。セダン中心の自動車ヒエラルキーが壊れてきていて、世の中なんでもあり、という感じにはなってきた時代だったと思う。
そんななか、初代ハリアーはライオンマンのキャラクターと「WILD but FORMAL」というキャッチフレーズのCMで鮮烈な印象を残した。運転してみると、「MILD and NORMAL」で、おそらくだからこそ多くの人々の支持を得た。「カムリ」のプラットフォームを流用し、着座位置こそ若干高いものの、カムリ同様のスムーズネスをもっていた。なにしろ、それまでそういう中型クロスオーバーSUV は世の中に存在しなかった。メルセデス・ベンツが「Mクラス」を発売したのはハリアーと同年のことだけれど、ハリアーと比べるとそれははるかにマジメなオフローダーだった。「BMW X5」の登場は2000年、「ポルシェ・カイエン」は2002年のことである。北米ではレクサスRXとして成功をおさめたハリアーは、確かに高級SUV市場を切り開いたのだ。
私には目に浮かぶ。ハリアーの後席でスヤスヤと眠る男の子の姿が。その子はきっと大きくなって、ウチのハリアーのことを懐かしく思い出すに違いない。いまの時代のニッポンのファミリーカーとして、新型ハリアーは幸せをいっぱい積んでいる。そういう感じがする。
(文=今尾直樹/写真=小林俊樹)
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ・ハリアー プレミアム“アドバンストパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1835×1690mm
ホイールベース:2660mm
車重:1640kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:151ps(111kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:19.7kgm(193Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100H/(後)235/55R18 100H(ブリヂストン・デューラーH/T 687)
燃費:16.0km/リッター(JC08モード)
価格:360万円/テスト車=371万3400円
オプション装備:マイコン制御チルト&スライド電動ムーンルーフ(10万5000円)/アクセサリーコンセント(8400円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:894km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
トヨタ・ハリアーハイブリッド プレミアム プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1835×1690mm
ホイールベース:2660mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:152ps(112kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:21.0kgm(206Nm)/4400-4800rpm
フロントモーター最高出力:143ps(105kW)
フロントモーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
リアモーター最高出力:68ps(50kW)
リアモーター最大トルク:14.2kgm(139Nm)
タイヤ:(前)235/55R18 100H/(後)235/55R18 100H(ブリヂストン・デューラーH/T 687)
燃費:21.4km/リッター(JC08モード)
価格:392万円/テスト車=476万5250円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万1500円)/スペアタイヤ(1万500円)/シート表皮<本革>(23万3100円)/レーダークルーズコントロール+インテリジェントクリアランスソナー+プリクラッシュセーフティーシステム(10万5000円)/アクセサリーコンセント(6万3000円)/SDナビゲーション+JBLプレミアムサウンドシステム(40万2150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:715km
テスト形態:サーキット構内路
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。