スマート・フォーツーカブリオBRABUSエクスクルーシブ エディション テーラーメイド(RR/5AT)
小さいけれど、全部入り 2014.01.20 試乗記 「スマート・フォーツー」のハイパフォーマンスモデル「BRABUSエクスクルーシブ」に、「スマートBRABUSテーラーメイド」による特別な内外装が施された限定車が追加された。高級車然としたコンパクトカーの魅力を味わった。格安のBRABUSモデル
“小ささ”を楽しめるクルマに乗ったのは、久しぶりだった。軽自動車に乗る機会はよくあるが、あれはむしろ“大きさ”を競い合うジャンルになっている。登場して15年がたつが、「スマート」の核心はまったくブレていない。ミニマムだが、必要にして十分。そして、小さいことのメリットを目いっぱい生かしている。
スマートには現在ガソリンエンジン車と電気自動車があり、エンジンは自然吸気とターボ付きの2タイプがある。試乗したのはハイパワーなターボ版で、BRABUS(ブラバス)によるチューニングが施されたモデル。クーペとカブリオを合わせて220台の限定車なのだ。内外装はフルカスタムオーダープログラムの「スマートBRABUSテーラーメイド」で仕上げられ、高級車然としたたたずまいである。試乗したのは限定80台のカブリオで、お値段は306万円。最廉価モデルの「クーペmhdプラス」が159万円だから、ほぼ2倍である。
それだけの値段をつけるのだから、ドライバーのプライドを満足させる仕掛けは万全だ。フロントグリルやヘッドライトは専用デザインで、6ツインスポークのアルミホイールを装備する。マフラーはデュアルのセンター出しだ。前後左右どこから見ても「BRABUS」のロゴが目に飛び込んでくる。
もちろん室内でもブランドアピールは怠りなく、シートやシフトノブには大きな「B」の文字が刻印されている。スマートに乗っているというより、ブラバスに乗っているという気分にさせられる。「メルセデス・ベンツ」のブラバスモデルを手に入れるのに必要な金額を考えると、エンブレム目当てならばこれは安い買い物だ。
パワーがネガを消す
高級感の演出に欠かせない革パーツは、もちろん万全だ。「エクスクルーシブレッドレザー」と名付けられた深い色合いの革素材をシートやドアトリムに配し、丁寧なステッチを施している。ドアトリムやダッシュボードの素材自体はノーマルと変わらないのは残念だが、そこまで換えるとなるともう100万円ぐらいかかってしまうだろう。
内外装ともブラバスの名に恥じないゴージャス仕様で、これはもちろんうれしい。しかし、このクルマの魅力は、見た目じゃなくて走りなのだ。エンジンのヘッドカバーにも誇らしげにBRABUSのロゴが刻まれていて、1リッターの3気筒ターボエンジンに専用のチューンが施されている。自然吸気が71ps、通常版のターボが84psなのに対し、102psという最高出力を絞り出す。わずか880kgの車両重量にとっては、十分すぎるパワーだ。身もフタもないことを言えば、このハイパワーがこのクルマの魅力の大部分を占めている。
初登場以来、常に不評をかこってきたのがトランスミッションだ。シングルクラッチにつきものの変速タイムラグは、日本ではなかなか市民権を得られずにいる。初期のぎこちなさはかなり改善されたとはいえ、CVTのスムーズさやデュアルクラッチの素早いシフトが標準になってくると、やはりデメリットを感じてしまうのだ。思うにまかせないもどかしさをなんとか制御する喜びを見いだすこともできるが、今もって毛嫌いする人も多い。
しかし、このクルマに関しては心配無用だ。パワーがネガを消してくれる。発進加速は豪快そのもの。ATモードだと1速から2速への変速はやはり少しコツがいるが、多少ラフにアクセルを踏んでも変速ショックは許容範囲だ。首が前後に揺さぶられるような不快な思いをすることはないのである。パワーの恩恵だけではなく、トランスミッション自体にも変更が加えられている。変速スピードは従来のものより20%短縮されているのだ。
クルマの喜びの原点がある
高速道路では、路面への吸い付き具合に感服する。1865mmのホイールベースなので、街中を走っていると動きが少々ピョコタンするのは事実だ。スポーツサスペンションが真価を発揮するのは、高速走行のステージである。ミニバンなどでボディーの大きさを忘れる走りというのはあるが、このクルマの場合、ボディーの小ささ、短さを忘れる。高速コーナーでの安心感は、ディメンションから考えるとたいしたものだ。ただ、やはり風には弱い。橋の上で横風にあおられてひやりとすることもあった。
オープンにする方法は標準車と同じで、実に簡単だ。ボタンを押すとソフトトップがルーフ後端まで開き、一度ストップする。もう一度押すとトランクの上部まで下がってフルオープンとなる。ルーフフレームは手動ではずさなければならないが、トランクにきっちり収納できる。オープンとはいっても、開放感はそこそこだ。体の大部分はボディーに包まれている。だからこそ、風の巻き込みは少ない。試乗した日はそれほど寒くない好天だったので、フルオープンでもマフラーを必要としなかった。シートヒーターを使えば、寒気の中でもそれほどガマンせずにオープンにしたままでいられるはずだ。
オープン時の後方視界は、あまりいいとはいえない。折りたたまれたソフトトップとルーフ後端のバーによって風景が狭く区切られてしまう。さらに悪いのが前方視界である。ルームミラーが絶妙にジャマな位置にあって、特に山道のきついコーナーでは気を遣った。前方の様子を確かめるため、体をずらさなければならない場面が結構多かった。
山道では、やはりパドルを使って走るほうが楽しい。ATモードでもギクシャクすることなく普通に走れたけれど、エンジンの回転数を高く保ちながら急な勾配を駆け抜ける気持ちよさを味わいたい。ボディーの小ささが、ここでは大きなアドバンテージとなる。前後長をまったく気にする必要がないので、少々狭い道でも安心して飛ばすことができる。クラシカルなオープン2シーターとはまったく違うテイストだが、小さいクルマで山道を走るのはクルマをドライブする喜びの原点なのだ。
あまりに楽しくて、山の中を長時間走り回ってしまった。さすがに燃費のことが心配になる。通常モデルの燃費は、JC08モードで自然吸気が22.0km/リッター、ターボモデルが18.0km/リッターと記されているが、ブラバスに関してはカタログに燃費の数字が載っていない。ハイパワーの代償として燃費が悪いのだろうと邪推したのだが、それは間違いだった。満タン法で17.3km/リッターという良好な燃費を示したのだ。高級感と走りに加え、エコ要素までのっかってくる。ブランドと見た目で誤解してしまったが、このクルマは全方位に目を配ったオールマイティーなモデルだったのだ。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
スマート・フォーツーカブリオBRABUSエクスクルーシブ エディション テーラーメイド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2750×1580×1530mm
ホイールベース:1865mm
車重:880kg
駆動方式:RR
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5AT
最高出力:102ps(75kW)/6000rpm
最大トルク:15.0kgm(147Nm)/2500-3000rpm
タイヤ:(前)175/50R16 77T/(後)225/35R17 86Y(ヨコハマ・エス・ドライブ)
燃費:--km/リッター
価格:306万円/テスト車=312万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ダークグレーマット>(6万3000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1289km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:371.9km
使用燃料:21.5リッター
参考燃費:17.3km/リッター(満タン法)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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