第58回「今の日本車に欠けてしまったもの」
2014.07.18 水野和敏的視点人が持つノウハウこそが価値を創造する
トランクの開け閉めひとつ見ても、アウディが本気で質感にこだわっていることがわかる――連載第55回と56回で「アウディA3セダン」を取り上げたときに、こんなことを言いました。「ずいぶん細かいことにこだわるんだな」と感じた読者の方がいるかもしれません。
A3セダンのトランクリッドには、ぜいたくにもダンパーが装備されていて、しかもそのチューニングが素晴らしい。「バシャン」と安っぽく閉まることがありません。しかし、それだけではないのです。トランク開口部(ボディー側)の縁に硬めのゴムを取り付け、トランクリッドをボディー側にグッと押しつけて剛性体の一部にしている。こうすることで、リアタイヤから入る振動が原因となるリアウィンドウとルーフパネルの共振が抑えられるのです。
トランクリッドの重さと剛性を使って、ガラスとルーフの共振振動数をコントロールする。すると、ドラミングのように「耳元からゴー」と鳴る耳障りなノイズを消すことができるのです。このようなノウハウを取り入れている日本車は、現状ではありません。
こういうことが、価値あるクルマ造りのために、開発者や企業が持つべきノウハウなんです。このようなノウハウ技術がどれだけ数多く投入されているかによって、完成したクルマの質感や性能はもちろん、中古車の価格までもが変わってくるのです。
私はいつもこう言い続けています。「クルマはどれだけ安く造るかではない。どれだけ価値あるものを創りだせるかだ」と。そしてこの言葉を証明するために「GT-R」を開発したのだと……。
いろいろな技術や部品が複雑に入り組み、それらが複合して商品の価値をつくりだすクルマにとって、とてつもなく大切なもの、それは「人が持つ固有のノウハウ」です。その大切なものが、「新興国に進出して安く造ればいい。それこそがわれわれの進むべき道、あるべき姿、企業の美徳」というような、テレビや新聞でのマスコミ各社の報道や経済学者やアナリストの評論、経営者の優等生的なグローバル意識などによって置き去りにされ、尊重されなくなってきています。
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