第113回:メルセデスAMG GT S(後編)

2015.08.14 水野和敏的視点 水野 和敏

中身はかくも贅沢

メルセデスAMG GT(以下、AMG GT)に対する私の第一印象は、「ユーザーが持つ高級スポーツカーイメージを優先している」というものでした。しかし、ボンネットを開けてエンジンルームのチェックを始めると、その思いは徐々に変わらざるを得ませんでした。「中身はきちんと、必要な技術を投入して作られているスポーツカー」という側面に気づいたからです。

ボディーのフロント部にはさまざまなメンバーが通され、サブフレームと言ってもいいくらいの、車体の補剛(ほごう)構造まで作ってボディーのねじり剛性を確保しています。サポート用のバーが多用され、言うなれば3次元的に剛性を向上させています。もちろん、左右ストラットの間には、途中の変形をきちんと防止したクロスメンバーが渡され、V8エンジンはまるでその間を“縫う”かのように搭載されています。メルセデスはAMG GTのボディーを「スペースフレーム構造」と称していますが、なるほど、納得です。

少し付け加えて説明すると、スペースフレーム構造とは、アルミや鋼管で造った3次元のフレーム構造体のパイプ部分にボディーパネルを張って造り上げた車体構造で、カーボンコンポジット製のモノコックが出てくる以前に、レーシングカーなどに使われていました。

これを造り上げるには「パイプ溶接などにより、パイプ本体や継ぎ手部分に生じる、熱変形をうまく分散させながら製造する」などの特殊な、そして高度な製造技術が要求されます。

エンジンルームの例でいうと、通常のモノコックボディーなら、ストラットの荷重は、車体下部に設けられるサイドメンバーとストラット上部に配置されるアッパーメンバーで支えられるのですが、AMG GTにはアッパーメンバーはなく、精密に造られた3次元のフレーム構造により、ストラットから入るフロントタイヤの荷重を支えています。高額なクルマだからこそ許される贅沢(ぜいたく)な作りです。モノコックボディーが当たり前の時代に、本当に興味深いことをしますね!

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