MINI ONE(FF/6AT)
ブレない存在 2014.08.28 試乗記 3代目となった新型「MINI」に、エントリーグレードの「ONE」が登場。試乗を通して実感した、「愛されキャラ」であり続けるための秘訣(ひけつ)とは?思い浮かぶはあの歌声
箱根まで往復して、家に帰り、新型MINIのカタログをつらつらと眺めるにつけ、私はそれまでの疑問符をすっかり忘れて、う~む、これはいいなぁと思い始めていた。とにかくオプションがいっぱいある。MINI ONEの場合、ボディーカラーはソリッドの白とオレンジの2色のみが標準で、6色あるメタリックはすべてオプション。ホイールはスチールが標準で、6種類のアロイホイールが用意されている。私だったら、どれにするか、とあれこれ夢想するうちに、MINIと私の生活というものが浮かんでくるのだった。
MINIとは、ひとつの個性である。少なくとも私が試乗したMINI ONEの広報車は、いわゆる「いいクルマ」かどうか、ということで申し上げれば、強固なボディーの剛性感以外は賛同できかねる部分があった。けれども、そんなことはMINIにとって問題ではない。最も重要なのは、MINIのままでいることなのである。とりわけ、MINIブランドにあって、最も安価かつ最も燃費のよいモデルであるところのONEを選ぶ人にとっては。
そういうクルマづくりをBMWのMINIは実行している。だれもグッド・ガールを求めていない。♪Let it go! MINIのままの姿見せるのよ~。英語の歌詞にはこうある。
I am ONE with the wind and sky
無理やりでもなんでも、なんとかともかく、21世紀のこんにちにおいてなお、MINIであり続けることを選んだクルマ、それが現代のMINIなのだ。
であるからして、私がここで申し上げる、「乗り心地が悪くない?」というような感想は悪口雑言でもなんでもない。まるでラバーコーン・サスペンションみたいにゴムの塊感があって、よい路面を高速で走る場合は気持ちよいけれど、そうでない場合は、終始上下動がある。もし、このような評価をマイナスであると考え、快適性をアピールしたいのであれば、どうしてわざわざオプションの16インチ、ランフラットタイヤを広報車に履かせたりするものでしょう?
ラバーコーン・サスペンション!? それこそミニ! だって、これはMINIなのだから。
♪Let it go!
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良くも悪くも今どきのエンジン
ONEの最大のポイントは、新設計の1.2リッター直列3気筒ターボエンジンである。直噴で、吸気側と排気側の両方に可変カム機構のダブルVANOSを備えるこれは、出力をあえて控えめ(102ps/4000rpm)にし、トルク重視(18.4kgm/1400-3900rpm)のセッティングを施した最新の高効率エンジンである。オプション満載の試乗車には、「スポーツ」「ミッド(ノーマル)」「グリーン(エコ)」の3択ができるドライビングモードとダイナミック・ダンパー・コントロールがセットでついていたわけだけれど、どのモードを選ぶにせよ、2000rpm以上回っていれば、ターボラグをほとんど感じることなく加速態勢に入ることができる。ノーマルモードだと、100km/h巡航は6速トップでちょうど2000rpm、スポーツだと1段ギアが落ちる。だから、どっちにせよ、右足を踏み込むだけでギューンッと行ける。その分、2000rpm以下に回転が落ちてしまったときのギャップはデカい。
ま、それも味のうちである。21世紀の宿命、と受け入れるほかない。台風が次々と来襲し、集中豪雨や竜巻が頻発する時代にあっては、CO2排出量は少ないにこしたことはない。1.2リッター3気筒ターボの導入で、1.6リッター4気筒(前期モデルは1.4リッター4気筒)を積んでいた先代ONE比で燃費が向上し、6段MTでJC08モード20.2km/リッター、試乗車の6段ATで同19.2km/リッターを達成していることを大いに寿(ことほ)ぐべきである。それでいて、高速道路を得意種目にしているのだ。アッパレ技術の勝利である。
ステアリングは重くて、フィールがない。それなのに、微妙な操舵(そうだ)の領域で、驚くほどクルマの向きが変わる場合がある。凸凹路で跳ねたりしても、向きが変わるからご用心。よそ見厳禁である。もちろん運転中はよそ見厳禁ですけど、少なくとも試乗車は直進安定性より、クイックに感じるハンドリングを重視している。これもまた♪MINIのままの姿見せるのよ~Let it go! を選んだ宿命なのだろう。
と語ってきた私ですが、じつのところ3代目BMW MINIを見た途端、こう思った。
こんなのはミニぢゃない!
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自動車界初のキャラクター商品
だって、これは大きすぎる。先代に比べて、98mm長くて44mm幅広く、7mm背が高くなった。3821mmに達した全長は、依然4m以下であるとはいえ、どうなの? サー・アレック・イシゴニスがつくったオリジナル・ミニは全長およそ3mしかなかった。だから、小型車の革命だったのぢゃ! 今度のMINIは着ぐるみを着たふなっしーみたいぢゃないか。
これも、あんた、なにいってるの、という話である。イシゴニスのミニなんて、55年も昔だからできたこと。21世紀のいま、対人衝突の規制をクリアするためにはこうせざるを得なかった。サイズが大きくなった分、居住空間とラゲッジルームは拡大したのである。なんの困ることがありましょう。おまけに5ドアも出る。早晩、現行MINIの3ドアよりも小さい、MINIのMINIが出ることは疑いない。
MINIは、自動車界初のキャラクター商品である。その先駆けは、歴史的にいえば、1987年に登場した「日産Be-1」であった。思い出すなぁ。発表会でサティのピアノ曲が静かに流れていたことを。
イギリス本国では単に古いだけと見なされていたミニが、極東の島国ではカワイイという理由でもてはやされた。1959年生まれのミニは、当時すでにして新車で買えるクラシックカーだった。それはつまり、ある種の人々にとって自動車というのは「いいクルマ」である必要はない、ということを証明していたのである。日産Be-1は一時のブームで終わってしまったけれど、BMWはそれをビジネスとして成功させた。カギはこの歌にある。
Let it go! 自分を信じて
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
MINI ONE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3835×1725×1430mm
ホイールベース:2495mm
車重:1170kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:102ps(75kW)/4000rpm
最大トルク:18.4kgm(180Nm)/1400rpm
タイヤ:(前)195/55R16 87W/(後)205/45R17 88W(ハンコック・ヴェンタス プライム2)
燃費:19.2km/リッター(JC08モード)
価格:240万円/テスト車=393万5000円
オプション装備:ダイナミック・ダンパー・コントロール(7万7000円)/マルチファンクション・ステアリング(4万5000円)/スポーツ・レザー・ステアリング(3万4000円)/ランフラット・タイヤ(3万円)/16インチ アロイ・ホイール ビクトリー・スポーク<6.5J×16ホイール、195/55R16タイヤ>(22万円)/コンフォート・アクセス(4万5000円)/クロームライン・エクステリア(2万4000円)/リアビュー・カメラ(3万9000円)/電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(14万円)/ETC車載器システム内蔵自動防眩(ぼうげん)ルーム・ミラー(6万9000円)/シート・ヒーター(4万5000円)/助手席シート・ハイト・アジャスト(9000円)/カラーライン<ダーク・トリュフ>(1万5000円)/インテリア・サーフェス<ダーク・シルバー>(2万7000円)/MINIドライビング・モード(2万9000円)/MINIエキサイトメント・パッケージ(2万3000円)/LEDヘッドライト+LEDフロント・フォグ・ライト(13万2000円)/ドライビング・アシスト(11万4000円)/パーキング・アシスト・パッケージ(12万3000円)/ヘッド・アップ・ディスプレイ(5万8000円)/ナビゲーション・パッケージ(17万8000円)/メタリック・ペイント<アイスド・チョコレート>(5万9000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2286km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:602km
使用燃料:43.3リッター
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/14.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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