ダイハツ・コペン ローブ(FF/CVT)
マジメなコンパクトカー 2014.10.17 試乗記 新骨格構造「D-Frame」と“着せ替え”可能な「DRESS-FORMATION」の採用など、ユニークなコンセプトが話題の軽オープンスポーツカー「コペン」。CVTモデルに試乗し、その走りを確かめた。CVTのほうが魅力的
今回の取材について電話してきた編集担当のKさんが「コペンはCVTなんですけど……」と、ちょっと申し訳なさそうなトーンだったのは、私も「マニュアルは七難を隠す」と思っているクチであることを知っているからだ。いきなり結論めいたことを書かせてもらえれば、新型コペンはCVTのほうがトータルで魅力が高いクルマだと思った。どんなにツマらないクルマでも、MTであれば走りの印象は1〜2割はアップする……と私は信じて疑わないが、新型コペンは例外である。
コペンは基本的に日本専売のスポーツカーである。つまり、数あるクルマのジャンルのなかでも、利益を出すのがもっとも困難なタイプのクルマだ。だから、内外装デザインや樹脂外板の車体構造などを、惜しげもなく専用にしている点は称賛に値する。しかし、そのいっぽうでパワートレインやシャシー方面の大物コンポーネントは、当然ながら、既存品を巧妙に流用して使っている。
エンジンも専用にチューンしなおされているそうだが、基本的には実用エンジンらしい全域トルキーな特性である。同時に新型コペンは今どきの軽自動車として絶対的に軽くはないので、パワーウェイトレシオで飛びぬけているわけでもない。
新型コペンのMTもシフトフィールまで踏み込んで改良したという。とはいっても、ギアボックス本体を新開発できたわけではないので、既存の5段のまま。シフトフィールもさすがに「絶品」というほどでもないし、そもそも5段というのは今どきの小型スポーツカーとしてはちょっと物足りない。
CVTはその点、そもそも余裕しゃくしゃくではないエンジントルクをうまく引き出してくれる。マニュアルモードにすれば7段になるので、コーナー曲率に合わせたエンジンブレーキやトラクションの選択肢も多い。ほぼすべての場面で、より活発に走るのはCVTのほうなのである。
開発目標は欧州Bセグメント
新型コペンの開発を率いたチーフエンジニアの藤下氏は、操縦安定性(操安)畑の出身。ダイハツきっての「走りのプロ」であり、まるごと一台を任されるのは今回が初だったという。
そんな藤下氏に以前インタビューさせていただいたときも「会社が私に新型コペンをやらせるということは“そういうこと”だと理解しました」と振り返っている。ここでの「そういうこと」とは、もちろん走りを突き詰めるということだ。
新型コペンを任された藤下氏はまずポルシェを筆頭とする国内外のスポーツカーを集めて、開発チームの面々に試乗させた。
なかでも当時最新のポルシェは徹底的に試乗させたとか。そのココロは「新型コペンを軽のポルシェにする」といった大言壮語をしたかったわけではなく、「ポルシェといっても、今はこんなに乗りやすい。だから、コペンもスポーツカーだからといって、勝手に神経質なクルマにするな」という藤下氏のメッセージだったという。
新型コペンはFFだから、乗り味を突き詰めるうえでの具体的なサンプルとなったのは、ポルシェでも、「マツダ・ロードスター」でもなく、欧州Bセグメントだった。「欧州コンパクトなみの操安と乗り心地と質感」が、新型コペンの具体的な開発目標だったのだ。
藤下氏によると、新型コペンの操安開発でもっとも参考にしたのは、「フォード・フィエスタ」(時期的にいうと厳密には先代モデル)だったそうだ。「ワインディングロードを走るときのクルマの姿勢と、インフォメーションの伝え方」において、藤下氏の理想にフィエスタがもっとも近かった。
FF車のお手本らしいハンドリング特性
新型コペンはそういう藤下氏のインタビュー内容に「なるほど」と思わせる仕上がりである。スポーツカー……などと気負って挑むと、単純なステアリング反応は意外なほどマイルドで、肩透かしを食らった気分になるかもしれない。ただ、それこそ新型コペン、藤下氏の意図するところである。
そのかわり、ターンインで前荷重を意識すると、じわりとノーズを沈めてフロントタイヤはきっちりとグリップする。コーナー途中でもスロットル操作や軽いブレーキングによる荷重移動だけで、微妙な走行ラインを選べる。こうしたFF車のお手本らしいハンドリング特性は、なるほどフィエスタにも似た新型コペンの美点といっていい。
ただ、よくできたBセグメントと比較すると接地感が薄めなのは、左右幅よりも前後長で接地面を稼いでいる独特のタイヤサイズによるところが大きいだろう。重厚感がないかわりにやけにパリッと軽快な味わいは、古典的な意味でのスポーツカーフィールとは異なるが、エコカー時代のスポーツカーといわれれば、なるほどそうなのかも。誤解を恐れずにいえば、どことなく「BMW i3」にも似たステアリングフィールである。
コペン専用に細かく手が入っていても、基本特性そのものはいかにも実用車っぽいコペンのエンジンだが、唯一「やったかいあり!」なのは、エンジン音である。適度にずぶとくヌケのいいサウンドは、なかなかにエンスーなのだ。
シフトパドルがあったなら
ただ、新型コペンの新型たる利点は、ワインディングロードより高速道路でのほうが顕著である。車体の剛性感も力を入れて開発されただけのことはあり、オープンのまま大きな段差を乗り越えても、ずしんと硬いが、ミシミシといった低級音が出ないのはさすが。高速直進性もオープン時の風の巻き込みも優秀で、「『ソニカ』にあったレーダークルーズコントロールがあればいいのに」と思ってしまった。
先代のティアドロップ型シルエットを否定した新型スタイリングには、賛否両論があるところだろう。まあ、今後もいくつかの着せ替えパネルが発売される予定だが、フレーム構造を見るに、先代のようなヒップラインは望めそうにない。
先代のティアドロップデザインはノーズを低くできない宿命を逆手に取ったアイデア賞だったが、こういう尻下がりフォルムはどうしても揚力が発生する。「先代の空力特性だけはどうしても是正したかった」とは藤下氏の弁。走りのプロはマジメなのである。
新型コペンは、ワインディングロードに持ちこんで青筋を立ててコーナーを攻めるだけでアドレナリンが大量分泌される類いのスポーツカーではない。オールラウンドでの質感やバランスや快適性を重視したマジメなコンパクトカーなのだ。まあ、それこそ藤下氏が求めた「長く乗っても飽きないスポーツカー」のキモなのだろう。そうした新型コペンは、やはりCVTで気負いすぎずに付き合うのが似合う。
まあ、変速プログラムもコペン用にチューニングされたCVTは、Dレンジのままでもタイトな変速で、適度な荷重移動も利いて扱いやすい。ただ、欲をいえば、マニュアルモードを駆使できるシフトパドルをぜひ……といいたいところだが、現行ダイハツ軽にはシフトパドルを持つクルマがない。さすがに少量販売コペン専用にシフトパドルを新開発しろというのは酷だ。「ムーヴ」や「タント」に乗っていてシフトパドルが欲しいと思ったことは一度もないが、新型コペンに乗ると「ムーヴにシフトパドルがあったらよかったのに」とツッコミたくなってしまった。
(文=佐野弘宗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ダイハツ・コペン ローブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1280mm
ホイールベース:2230mm
車重:870kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/50R16 75V/(後)165/50R16 75V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:25.2km/リッター(JC08モード)
価格:179万8200円/テスト車=185万7600円
オプション装備:マルチリフレクターハロゲンフォグランプ(1万800円)/ブラックインテリアパック(3万2400円)/純正ナビ・オーディオ装着用アップグレードパック(1万6200円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:5464km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:219.3km
使用燃料:15.1リッター
参考燃費:14.5km/リッター(満タン法)/14.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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