アウディQ3 1.4 TFSI(FF/6AT)
穏やかなアウディ 2014.11.27 試乗記 「アウディQ3」に1.4リッターターボエンジンを搭載したFFモデル「1.4 TFSI」が登場。日本初導入となる“非クワトロ”のQ3に託された役割とは? 走りの実力とともにリポートする。日本ではシリーズ初の前輪駆動
試乗を終え、さあ原稿を書こうかというときに、衝撃のニュースが飛び込んできた。アウディQ3が本国でマイナーチェンジを受けたのだ。しかもその顔は、良く言えば次世代のアウディのファミリーフェイスを予感させるような、うがった見方をすればBMWのような、グリルとヘッドランプをつなげたデザインを取り込んでいる。
こんなタイミングで従来型Q3の原稿を書かねばならないなんて。でも紹介するのは、日本では2014年8月に追加されたばかりのモデルなので、ニュース性はあると信じて書き進めることにする。
ニューモデルの名は「Q3 1.4 TFSI」。末尾にクワトロの4文字が付かないことで分かるとおり、日本仕様のQ3では初の前輪駆動車になる。他のQ3は「RS」を除き、すべて2リッターターボエンジンを積んでいたから、その点でも異なる。
価格は390万円。4WDのクワトロはエンジンが2リッターになるので比較しにくいけれど、170ps仕様が446万円、211ps仕様は518万円する。似たような車格の「A3スポーツバック」では、1.4リッターのシリンダーオンデマンドを装備した前輪駆動車と、1.8クワトロの中間になる。
なぜここへきてQ3に前輪駆動モデルが追加されたのか。消費税アップで販売が伸び悩んでいるから、ではない。2014年度上半期の販売台数で見ると、多くの輸入車ブランドが前年同期比で台数を落としているのに、アウディは3.9%増加している。それ以外の理由が大きそうだ。
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ライバルはSUVだけではない
その理由を勝手に分析するなら、ようやく日本でもSUV=4WDの図式から脱して、ファッションとして捉える人が増えてきたこと、SUVやクロスオーバーだけでなく、「メルセデス・ベンツBクラス」や「BMW 2シリーズ アクティブツアラー」といった5シーターハイトワゴンが台頭してきたことあたりかもしれない。
国産車のハイトワゴンが、軽自動車を除けばほぼ3列シートのミニバンなのに対し、輸入車は2列シート5人乗りも多く、独自のカテゴリーになりつつある。「シトロエンC4ピカソ」も新型では5シーターが追加された。限られたスペースをギチギチに使わず、ハイトワゴンとしての余裕を楽しむスタイルが輸入車のユーザーに合っているのかもしれない。
ただ、アウディはブランドイメージ的にハイトワゴンは作りそうもない。3列シートも大型SUVの「Q7」でまかなっている。となると、前輪駆動のQ3は5シーターハイトワゴンのライバルも見据えた車種ではないかという気がしたのだ。
エクステリアやインテリアは、以前乗った「2.0 TFSIクワトロ」とほぼ同じだ。今回の取材車は、最近のジャーマンプレミアムブランドが取材、撮影用に用意するクルマとしては珍しく、オプション装着が控えめだったので、 235/55R17という穏やかなタイヤサイズやファブリックシートが目立つかもしれない。ただ、後者についてはファブリックの質感やブラウン系カラーのセンスなど、さすがアウディと言える仕立てになっていた。
前席は、以前乗ったQ3に装着されていた「S lineパッケージ」のスポーツシートよりもむしろ硬めで、お尻やももに圧迫感を覚えたが、サポート性能は見た目以上だった。後席は身長170cmの僕にとっては余裕のスペースで、格上の「Q5」と同等だ。アウディ伝統の縦置きパワートレインを継承するQ5に対し、エンジンを横置きとしたメリットが生きている。
キャラと見た目が合っている
1.4リッターエンジンは150ps/25.5kgmを発生する。2リッター170ps仕様の最大トルクは28.6kgmだから、排気量ほどの差はない。それに車両重量は1470kgと、140kgも軽くなっているから、加速性能はまったく問題なかった。
「Sトロニック」と呼ばれるデュアルクラッチトランスミッションは、ギア数が2リッターの7段に対して6段になるものの、100km/hはDレンジで約2000rpmに抑えられている。JC08モード燃費も17.4km/リッターを記録するから、これで十分と言えるだろう。
多くのSUVは4WDを基本としているのか、前輪駆動では加速時のトラクション不足に悩まされるモデルもある。しかしQ3に関してはまったく問題なかった。ただMQBプラットフォームを使うA3に比べると、乗り心地やハンドリングからは、ひと世代前の車台を使っていることを教えられる。
ドライビングモード切り替え機構を持たなかった取材車では、乗り心地は硬く、小刻みな揺れが目立ち、荒れた路面では足が跳ね気味になって、コーナーでの接地感はもう一歩を望みたくなった。それでも2リッターのクワトロに比べれば、鼻先が軽くなっているので身のこなしは自然になっており、過度なインチアップを抑えたタイヤは鋭いショックを巧みに和らげてくれた。
もうひとつQ3をドライブして感じたのは、アウディとしては珍しく、ウエストラインに対してシートが高めで、開放的な気分が味わえることだ。適度な加速や素直なハンドリング、主張し過ぎないエクステリアやインテリアともども、穏やか気分で付き合えるアウディと言える存在だった。そんなキャラクターには、今の顔のほうが似合う。
(文=森口将之/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
アウディQ3 1.4 TFSI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4385×1830×1595mm
ホイールベース:2605mm
車重:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最大出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)235/55R17 99V/(後)235/55R17 99V(ブリヂストン・デューラーH/Pスポーツ)
燃費:17.4km/リッター(JC08モード)
価格:390万円/テスト車=444万円
オプション装備:オートマチックテールゲート(8万円)/MMI 3G+<マルチメディアインターフェイス>(26万円)/APSリアビューカメラ(20万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1174km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:316.4km
使用燃料:30.1リッター
参考燃費:10.5km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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