日産NV400(FF/6MT)
運転する楽しさがある 2014.12.24 試乗記 クルマとはその国の生活と文化を運ぶもの。“グローバル化”が進んでいるとはいえ、その形は同じではない。スペインで生産され、欧州を中心に販売されている大型の商用ワゴン「日産NV400」が持つ世界を、300kmあまりの試乗を通じて味わった。全長5.6×全幅2.1mの大型ワゴン
NV400って何だ? と訝(いぶか)る人もいるだろう。顔はちょっと「NV200」に似ているけれども、この迫力はサイズだけのもんじゃない。おおらかでガイシャっぽい雰囲気はどこから醸し出されているんだろう? と思う人は感性の豊かな人だ。
実はこのクルマは欧州車で、車両の特装・特架を手がける老舗メーカー、トノックス(横浜市保土ヶ谷区)が輸入・販売する、特装車の架装などに使われる多目的なベース車両である。生産はスペインで行われ、商品企画はルノーと思われるが、輸入はフランスからではなく、右ハンドルを入れるために英国日産自動車から、というストーリーらしい。日本生産のいわゆる逆輸入車ではない。
ワンボックスとマイクロバスの中間的なミドルサイズボディーには、3人乗りと7人乗りの2つのモデルが用意されている。テスト車のシートレイアウトは2列で、写真のように前3人乗り、後ろ4人乗りとなっており、フルサイズのハイバックシートが横に4つ並んでいる光景は壮観だ。ただし実態は貨商車なので、リクライニングなどのシート調整機構はなく、表皮も簡素なもので済ませてある。
だが、この空間的な余裕は、他の大型ワゴンなどとは比較できないほど広大で、大家族のファミリーユースにも最適だ。4人が横に並んで話ができるという体験は、3列シート車とはまったく趣を異にする。その後方には子牛が運べるほどの大きな荷室がある。3人乗りの方は後席が備わらない分だけ、さらに荷室が大きく使える。
スリーサイズは全長5550×全幅2070×全高2480mmで、ホイールベースは3682mm。車両重量は2140kgに達する。この大きなボディーを引っ張るエンジンは2.3リッター直4ターボディーゼルで(日産とルノーが共同開発したボア85.0×ストローク101.3mmのM9T型)、125psと31.6kgmを発生する。なお、この車両は欧州の排出ガス規制「Euro5」適合にとどまるため、トノックスが日本に輸入後、グループのディーゼルエンジン排ガス対策のノウハウを用いて日本の排ガス規制をクリアさせているという。ギアボックスは6段MTまたは6段のセミオートマチックが組み合わされる。それをフロントに横置きして前輪を駆動する。
運転のしやすさは予想以上
近寄ってみると、NV400は小山のように大きい。3トントラックに乗るような印象もあり、最初はちょっとサイズに臆するところもあるが、実際に走りだしてみると案外ラクに運転できることを知る。
ご覧のように高く座るシートゆえに、前方視界はいい。一方、後方視界はなきに等しい。バックドアが“メタル窓”なのでルームミラーがなく(!)、まったく直視できないのだ。それに加えて、ボンネットも見えず、自分の目で車両の幅を確認することもできない。室内幅から判断すれば、運転感覚としてはそれなりにボリューム感がある。また高さもあるので、その結果として幅だけが不当に強調されることはない。よって、前に向かって走る限り、特に幅が広いなとか、長さがあるなと自覚する術(すべ)はない。
サイドミラーは上下2段になっていて、比較的よく見える。しかし、そこで確認できるのは、車両の後部が“追尾”してくるということだけだ。したがって、車両の頭さえ通れれば、どこにでも入っていけそうな気になってしまう。逆に言えば、見える範囲では、長さや幅を意識せずに感覚だけで走れるから、いっそのこと大きなサイズを忘れてしまうことも可能だ。山間部の狭く曲がりくねった道では、後輪が時折センターラインを踏むのがミラーで見てとれ、そんな時にはやっぱり長く、幅広なクルマなんだということを思い出す。
また、このクルマの運転のしやすさは、動力性能的に活発で、力があり、動きのレスポンスがいいということも関係しているだろう。エンジン排気量と重量の関係から考えると、もっと動きが鈍重なクルマであるようにも思えるが、その点ではまったく予想は外れる。ターボパワーは実に頼もしく、ラグなどの“間接感”はない。アイドル回転からすぐ立ち上がるトルクの特性も自然。また、上はさほど盛り上がる感覚はなく、適当に下降するから、上のギアへと送るタイミングも適切に選ぶことができる。
マニュアルギアボックスは操作しやすく、ドライバーの意思を忠実に反映してくれる。ギア比は適切で6段はクロスしているので、順繰りに同じような操作を繰り返せばいい。トラック感覚とはいえ、この辺のフィーリングはスポーツカーと同じだ。この軽快感を得る上でFFであることも大きな利点となっており、その身軽さは実際に運転してみないと信じられないほどである。
この日は「フィアット・パンダ4×4」が同行したが、山岳路ではなんとそのパンダより速く走れた。この事実からも、NV400がいかに運転しやすいクルマかを想像していただきたい。
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FFレイアウトが軽快感を強調
このサイズの商用車はFRレイアウトを取るものが多く、NV400も欧州ではFR仕様を選ぶことができる。駆動輪が後ろだと、動き出す瞬間は全体の重さが後軸に集中し、それに加えて後輪の駆動は長いプロペラシャフトを介して行うから、動き出しがヨイショ、ドッコイショといったモッサリした風情になるのが普通だ。その点、FFはスッと出る。それは乗用車でも同じで、図体(ずうたい)のデカイFR車より、FF車の方が概して身軽で軽快なことが多いものである。
そして大きく重いクルマは、動きが鈍い方が操縦感覚に合っていて、動かしやすいのでは? と考える人もいるかもしれない。しかし、実際には大きな慣性重量は、動き出すにしても止まるにしても挙動の遅れを累積させるから、鈍重さを予測して操作するとさらに動きはもたついてしまう。そうした無駄な部分は、可能な限り省略してある方がスッキリする。この点からも、パワー源からいくつもの伝達機構を介してタイヤに伝えるFRよりも、中間を省略してより直接的に駆動輪を動かすFFの方が軽快感を演出する上で有利ということがいえる。
さらに、後ろから押すよりも、前で引っ張る方が直進安定性に有利なことはいうまでもない。機関車がけん引する列車も、考え方によっては前輪駆動と見なすことができる。このNV400の場合は、2トンを超す重量の約6割が駆動輪荷重となるので、発進時のホイールスピンなどはまったく心配無用だ。トラックなどの大きなクルマも、時間とともにこうなりつつあるのだろうか。
このサイズの商用車としてはより一般的なFRであっても、無駄な動きは少ない方が運転しやすいことは明らかだ。その時、各部の剛性がヤワだと作動は頼りなくなる。固くしっかりした高剛性ゆえのソリッド感は、挙動に遅れが少ないので軽快。その一体感のある動きは、運転のしやすさに通じる。作りがダルで、動きに無駄があると挙動は遅れるから、余計デカさが気になってしまう。
とにかくNV400はスッと反応するので、大きさを持て余さないで済む。FFゆえの挙動に加え、車体もサスペンションもしっかりしていて高剛性ゆえに巨体を感じさせない運転のしやすさがある、と言ってしまおう。
優雅な乗り心地
NV400の全長は5550mm。それに対してホイールベースは3682mmもある。このホイールベースの長さによってオーバーハングが詰まり、それによってヨー慣性が小さくなって安定を得ているだけでなく、旋回方向を反転させた時に、操舵(そうだ)に対して遅れのない機敏な動きを約束してくれている。
このロングホイールベースは、もちろん乗り心地にも貢献している。ピッチング方向の動きが少なく、ボディーの姿勢は終始フラットで、後輪サスペンションには駆動機構などの重量物がないので、動きが軽快にして収まりもいい。後輪荷重が軽いだけならポンポン弾むことも予想されるが、後輪は遠く後方に離れているだけに、前輪との連携は周期が長いゆったりとした動きに結びつき、優雅で落ち着いた乗り味を実現している。これはヒトを運ぶだけでなく、大事な荷物を運ぶにしても有効な特性といえる。
当リポーターの興味の大半は、どんな種類のクルマに対しても乗って面白いかどうかということに集中する。だからどんなに高度で難しい内容であっても、クルマが勝手にやってくれてしまうようなものは好まない。なぜならそれがオモシロいとは思えないからだ。
その点、このNV400は過度にお節介なところもなく、ドライバーの意思通りに動かせるし、不足分があるとすれば自分であとから手を加える余地が残されているし、基本的な部分の要領はきちんと押さえられている。そんなところに魅力を感じる。普段使いには大き過ぎるクルマかもしれないが、「大で小を兼ねることができる状況の人」にはおススメである。
この大きなクルマが、都内から筑波山までの往復330kmほどで12.5km/リッターも走った。その燃料経済性の良さを知って、新しい可能性を見いだす楽しみも悪くないかも……と思ってしまった。老後にクルマで全国走破を企てているような人は、コレでキャンピング仕様を作るのも一興か。簡易な家財道具を積んでも、コレなら住めます。今では道の駅が全国に整備されているし、1年くらいなら路上生活(?)も悪くなさそう。685万8000円という価格はちょっと高いけれども、リセールバリューも高そうだ。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
日産NV400
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5550×2070×2480mm
ホイールベース:3682mm
車重:2140kg(車検証記載値)
駆動方式:FF
エンジン:2.3リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:125ps(92kW)/3500rpm
最大トルク:31.6kgm(310Nm)/1250-2500rpm
タイヤ:(前)225/65R16C/(後)225/65R16C(ミシュラン・アジリス)
燃費:--km/リッター
価格:685万8000円/テスト車=685万8000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1605mile(2582km)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:203.7mile(327.8km)
使用燃料:26.3リッター
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)

笹目 二朗
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