ホンダ・ジェイド ハイブリッドX(FF/7AT)
これ1台でなんとかなる 2015.04.02 試乗記 3列シートの6人乗り「ホンダ・ジェイド」。「都市発想。」のキャッチコピーで登場した個性派ミニバン(?)の実用性に迫った。とある金曜の昼過ぎ
「取材は週明けの月曜なんですが、クルマは金曜から借りています。週末お乗りになりますか?」
編集部からそんな連絡を受けたとき、二つ返事で誘いに乗った。たまたまその週末に買い物の予定があり、愛車のハッチバックでは心もとなかったからだ。ただ、ミニバンとはいえ、さほど大きくないジェイドに荷物は収まるだろうか? そんな不安をちょっぴり抱えながら、とある金曜の昼過ぎ、私はジェイドを受け取った。
2015年2月にデビューしたジェイドは、6人乗りの“乗用ハイブリッドミニバン”。ホンダのミニバンといえばすぐに「ステップワゴン」が思い浮かぶが、似ているのは床が低いことくらいで、その性格はかなり違う。全高が1530mmと低めで、リアはスライドドアではなく普通タイプ。ミニバンというより、ちょっと背の高いステーションワゴンである。
さっそく運転席に着くと、なにか落ち着かない。「どうして?」と考えながら運転していたら、すぐにわかった。ダッシュボードが広く、まさにデザインはミニバンスタイルなのに、アイポイントがさほど高くなく、囲まれ感のあるスポーティーな雰囲気のコックピットのおかげで、なにやら不思議な感覚を生み出しているからだ。ダッシュボードのデザインに見慣れてくると、ミニバンを運転しているという感覚は消え去ってしまった。
全高1550mmの看板に偽りあり!?
そのまま買い物に出掛けたいところだが、仕事があるので都内のオフィスへと向かう。ジェイドはいつも利用している立体駐車場に止めるつもりだが、少し不安がある。
実は過去にここで駐車を断られたことがあったのだ。看板に全高1550mm以下と書いてあるので、1540mmのクルマなら問題ないだろうと意気揚々と乗り込んだら、「センサーが反応してしまって入れません」と。聞けば安全上の理由から、ギリギリの全高だと受け入れないというのだ。だったら全高1550mm以下なんて書かないでほしいなぁ……。しかも、そういう日に限って、まわりのコインパーキングに空きがなく、駐車場を探し回った苦い思い出がよみがえってきた。
そんなことがあったので、今回は恐る恐るクルマを駐車ブースに進めたのだが、判定の厳しいセンサーに拒まれることなく、無事にジェイドを駐車場に収めることができた。これなら、通勤に使えるぞ!
わが家の場合、ふだんは多くても4人乗り。しかし、たまに6人乗ることがある。本当はミニバンがほしいのだが、通勤を考えると立体駐車場に入るのが第一条件。すべてを1台で済ませようとすると、普通のミニバンは諦めざるを得なかった。でも、ジェイドなら、これ1台でなんとかなりそうである。
労せずエコラン
仕事が済んだのは遅い時間で、この日は都内を抜けて帰宅するだけのドライブになった。信号が多く、そのつながりもよくないだけに、通勤はストップ&ゴーの連続だ。幸い、ジェイドは出足が鈍いどころか、実に軽快。ストレスを感じることなく運転が楽しめる。1.5リッター直噴エンジンと7段DCTを組み合わせたハイブリッドシステムは基本的には「フィット」と同じだが、アトキンソンサイクルをやめ、パワーとトルクを増強したエンジンとしたことで、余裕ある加速を手に入れたのだ。そして、高速でも力不足を感じることはなかった。
面白いのがアクセルペダル。エコドライブをサポートする「ECON」モードで走っている場合、アクセルペダルを踏んでいくとカツンと当たるポイントがある。アクセルペダルを踏みすぎると当然に燃費は悪くなるが、それを防いでくれるのがこの「リアクティブフォースペダル」という機能なのだ。どのくらい踏んでいいのかわかるので、自然にエコドライブできるというわけだ。
ペダルといえば、ブレーキペダルのフィーリングも隠れた魅力のひとつだ。ハイブリッドの場合、回生ブレーキと機械式ブレーキを併用するため、停止直前などに回生ブレーキから機械式ブレーキに切り替わる場面で感触が変わることがある。そのために、スムーズに止まれないというクルマが少なくない。その点、ジェイドの「電動サーボブレーキ」は制動の途中で感触が変わらないので、ハイブリッドカーであることを意識せずに済むのだ。
スポーティーな走り
見た目どおり、その走りっぷりにミニバンっぽさはなく、ステーションワゴンの運転と何ら変わらない。乗り心地はフラットで、荒れた路面ではハーシュネスを遮断しきれないときもあるが、フィットや「ヴェゼル」に比べるとリアがより落ち着いた感じ。これは、ダブルウイッシュボーンのリアサスペンションが効いていて、フィットよりも1クラス上、日本では“お休み中”の「シビック」あたりに相当する実力といえるだろう。しかも、バッテリーなどを収めたパワーユニットをホイールベースの間に収めているため、こう見えてハンドリングは軽快である。
さて、カンジンの(!?)の荷室だが、サードシートを収納し、セカンドシートのバックレストを前に倒すと、フロアをフラットに近づけることができる。ただ、これだと多少スペースが犠牲になるので、さらに荷室を広げるためにセカンドシートをチップアップする。ステーションワゴンとしては実に広いスペースだ。
これだと、セカンドシートの下がくぼんでいてフロアはフラットにならないが、このくぼみに細かい荷物を収め、比較的大きな荷物を上に載せたら、ホームセンターやファーニチャーショップで買った商品がすべて収まり、別途配送を頼む事態を避けることができた。
V字にスライドするセカンドシートは足元が広く、ここが特等席。一方、サードシートは緊急用と考えたほうがいい。私を含め、そう割り切ることができる人にとってこのジェイドは、広くて、使い勝手がよくて、低燃費で、走りのいいステーションワゴンであり、毎日の移動をアシストしてくれるだろう。
(文=生方 聡/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ホンダ・ジェイド ハイブリッドX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4650×1775×1530mm
ホイールベース:2760mm
車重:1530kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:131ps(96kW)/6600rpm
最大トルク:15.8kgm(155Nm)/4600rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)215/50R17 91V(ダンロップSP SPORT 270)
燃費:24.2km/リッター(JC08モード)
価格:292万円/テスト車=299万5600円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムブルーオパール・メタリック>(3万7800円)/ナビ装着用スペシャルパッケージ(3万7800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1850km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:163.8km
使用燃料:12.0リッター
参考燃費:13.7km/リッター(満タン法)/14.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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