第404回:イタリアンファッションを見れば、次の流行のボディー色がわかる?
2015.06.26 マッキナ あらモーダ!ドライビングシューズも新作続々
世界屈指のメンズモード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(以下、ピッティ)」が2015年6月16日から19日までの4日間、イタリア・フィレンツェで開催された。2016年春夏ファッションの動向をさぐる今回は、1178のブランドが軒を連ねた。その中から、クルマにまつわるものを紹介しよう。
まずは、ドライビングシューズから。
英国「ハリーズオブロンドン」の新作は、日本ではピロー(枕)のクッション素材として知られる「テクノジェル」をインソールに用いたモカシンである。大胆なエンボスはマッサージ効果が期待できるが、通常のソールで履きたいときのためにリバーシブル構造になっている。
一方、これまでレディースの印象が強い「フルラ」が、今期はユニセックスのラインをリリースしたのに合わせて、ドライビングシューズもフィーチャーしている。
スタッフの説明によれば、100%メイドインイタリーで、イタリア伝統の皮革工芸の地域であるフィレンツェで高品質な縫製が行われる。フルラにとって初ジャンルゆえプライスが気になるが、イタリア価格で250~500ユーロ(3万5000~7万円)台になるという。
ある老舗のディスプレイ
次に、前回2015年1月の秋冬コレクションからピッティとコラボレーションを開始したMINIのパビリオンをのぞいてみよう。
2回目となる今回は、6人の新進クリエイターに委嘱した作品を展示した。そのひとつはミラノの「pijama(ピジャマ)」による「♯THEBAG」である。ショルダーストラップは長短2本。長いほうは、助手席のヘッドレストにかけられる。外ポケットは、運転中も簡単に手を入れて中をさぐれるように工夫されている。加えて、キーケースとして使える、同色の小さなポーチも付けた。
機能を追求しながら、クルマ用アクセサリーのムードが漂っていないところがうれしい。素材こそネオプレン(合成ゴムの一種)だが、表皮のパターンはMINIに合わせてイギリスのテキスタイル柄を取り入れたという。
ちなみに「ピジャマ」は、妻でデザイナーのモニカ氏と夫で建築家のセルジオ氏が主宰する、2006年に設立されたバッグ工房だ。セルジオいわく「数カ月前にMINIから声がかかった」という。彼らは、以前から若いブランドが集まるブースにポップで意欲的なバッグ類を出展していて、ボクとしては気になっていたのだが、やはりMINIも注目していたようだ。
一方、いわゆる伝統的な「クラシコイタリア」系が並ぶフロアを歩いていると、あるブースで「ポルシェ356」のノーズが足元からのぞいていた。エミリア・ロマーニャをベースに活動する1962年創業のパンツ専門のサルトリア(仕立て屋)「ロータ」である。創業3代目のミケーレ氏によると、彼の父親で2代目のエミリオ氏とともに、大の356ファンなのだという。
彼らのブースを以前も訪問したことがあるボクとしては、「なんだ、クルマ好きって、早く言ってよ!」と思わず声をあげそうになった。そのフロントフェンダーとノーズは、グラスファイバー製かと思いきや、ちゃんとしたスチール製の本物を使用している。もちろんヘッドライトも本物である。
クルマやアクセサリーを模したパーツを使ったディスプレイは決して珍しいものではないが、さすが創業半世紀以上の老舗らしく、ささやかな造作物にも手を抜かないと恐れ入ったのであった。
クルマにも及ぶか、明るいカラー復活
ところで今回のピッティは「That’s Pitti Color」と題し、ファッションを構成する要素のひとつである「色」をテーマに据えた。
それに呼応するがごとく、会場では昨2014年に次の人気色とされたブルーをベースとした、鮮やかな色が目立った。訪れた人々のいでたちも、伝統的イタリア式サルトの様式を守りつつ、より色に対する冒険を試みたものが少なくなかった。
そこで気になるのは、クルマである。2015年2月にイタリアの中古車専門サイト「AutoUncle.it」が発表したところによると、同サイト内に出品されている中古車80万台のうち、なんと74%が黒、銀もしくはグレーという。
イタリア人にそうした無彩色が好きな理由を聞くと、「明るい色は高級感がないから」という答えがいつも返ってくる。背景には、2000年代以降、黒や銀が似合うドイツ製プレミアムカーのヒットとともに、イタリア製紳士服における復古志向やナチュラルカラーの影響があるのは明らかだろう。
同時に無彩色は、クルマ、ファッションともに華やかな色があふれていた1960-80年代と差異性・新しさを演出するため、最も手っ取り早い手段でもあった。
最近はフィアットの「500L」「500X」や、「ジープ・レネゲード」、そして、ルノーの「クリオ(日本名:ルーテシア)」「トゥインゴ」といったモデルに、ようやく無彩色から脱する動きがみられるようになってきたが、まだまだ根づくまでには至っていない。
暇があれば、イタリアの中古車検索サイトを眺め、そのたび明るい色のクルマが見つからずため息をついているボクとしては、ファッションの潮流が、保守的なクルマ界のボディーカラーにも変革をもたしてくれることを期待している。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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