BMW 218dグランツアラー Mスポーツ(FF/8AT)
ただの派生モデルにあらず 2015.07.21 試乗記 “7人で乗れるBMW”「2シリーズ グランツアラー」の、ディーゼルモデルに試乗。そのミニバンとしての実力や、いかに? 走りの質感とあわせてリポートする。初物づくしのBMW
BMW初のFF車、「2シリーズ アクティブツアラー」から派生したのがグランツアラーである。所帯じみたイメージを嫌うBMWの自称は「7人乗りMPV(多目的車)」。でも、ちまたでは最初から「BMW初のミニバン」と呼ばれている。
しかし、「2シリーズ」というのはもともと「1シリーズ」の2ドアクーペから始まった新設シリーズである。ドアが2枚になると“ひとつ上”になる点では、「3シリーズ」と「4シリーズ」、「5シリーズ」と「6シリーズ」の関係とも同じかと了解していたら、2シリーズにはまったく成り立ちの異なるFFプラットフォームも参入した。
ひとくちに「ビーエムの2シリーズに乗っている」と言っても、高級FRコンパクトクーペからFFミニバンまであるわけで、とても同じシリーズとは思えない品ぞろえである。
BMW初のミニバンには、さらにもうひとつ“お初”がある。輸入ミニバン初のクリーンディーゼル搭載車という売りだ。アクティブツアラーにも追加された2リッタークリーンディーゼルモデル、「218d」がグランツアラーには最初からラインナップされる。ガソリンエンジンには1.5リッター3気筒と、2リッター4気筒があるが、クリーンディーゼルにお値打ち感を持たせる戦略はグランツアラーも同じで、379万円から始まる218dは、1.5リッターガソリンを積む218iの21万円高に抑えられる。
今回試乗したのは、218dの「Mスポーツ」(426万円)である。
ディーゼルのデキにうなる
BMW初の7人乗りミニバン、輸入ミニバン初のクリーンディーゼルという、2本柱のなかで、まずエンジンについて触れると、これはすばらしいパワーユニットである。
最高出力150ps、最大トルク33.7kgm。同じ2リッター4気筒ディーゼルターボでも、日本仕様のMINIにはこれまでなかったチューンで、変速機ももちろん、MINIの6段ATに対して、グランツアラーには8段ATが付く。
いわばBMWの太鼓判が押されたFFディーゼルユニットは、ひとことで言うと上等だ。コロコロしたアイドリング音を車外で聞いていると、ガソリンエンジンでないことはわかるが、乗って走りだせば、ディーゼルのデの字もない。いや、わずか1250rpmから最大トルクを出すのはディーゼルならではなのだが、その恩恵を感じるだけで、ネガはない。「豊かなトルク」というけれど、そのおかげでスルスルスルッとシームレスにスピードを上げるさまは、まさにお金持ちになった加速感である。
富士山麓で行われた試乗会は、持ち時間90分。撮影を考えると、高速道路へ足を伸ばす余裕はなかった。どのメディアの乗り手もその条件は同じで、およそ燃費にいい走り方はしていないはずだが、それでも試乗車のトリップコンピューターは、17km/リッター台の平均燃費を示していた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
取りえのシートは子ども用
外観のイメージはほとんど変わらないが、グランツアラーのボディーは5人乗りのアクティブツアラーより22cm長く、9cm高い。ホイールベースも11cm延長されている。
だが、この日、比較のために用意されていたアクティブツアラーと乗り比べてみると、セカンドシートまでの居住まいは変わらなかった。13cmの前後スライド機構を持つ点もアクティブツアラーのリアシートと同じである。
グランツアラーはその後ろに格納式のサードシートを持つ。3列7人乗りだから、ミニバンの資格ありというわけだが、そのサードシートは子ども用だ。2列目を一番前に出しても、大人向きのニールームは現れないし、着座姿勢は直接、床に座るような体育座りそのものだから、子どもといえども、長時間押し込められるのはツラそうだ。ドイツの子どもはしつけがいいのだろう。
全長と全高の拡大がもたらした御利益は、むしろ荷室の容量アップで、かさモノも長尺物もなんでも来いの高い収容能力を誇る。
サードシートはなかなか見事なカラクリで簡単に床下に隠れる。荷室側壁のレバーを引くと、モーターが一瞬ウナり、セカンドシートの背もたれが前に倒れて最大荷室に変わるなど、小技も利いている。
乗れば伝わる高級感
試してみると、グランツアラーは子ども用のサードシートを持つルーミーな5座ワゴンだった。フル7シーターを期待していた人にはお気の毒だが、じゃあ、アクティブツアラーと大して変わらないかといえば、決してそうではない。
ホイールベースの延長と、重量増のおかげで、グランツアラーのほうが明らかに乗り心地がいい。腰から下の動きにより落ち着きがあるのだ。
218dの場合、車重とエンジン性能とのバランスもグランツアラーのほうがいいと思った。この日乗った「218dアクティブツアラー ラグジュアリー」の車重は1530kg。「218dグランツアラー Mスポーツ」より110kg軽く、快速ハッチであることは間違いないが、低速トルクの力強さは少々やりすぎで、雨上がりのぬれた路面でちょっと深めにアクセルを踏みつけると、ホイールスピンが止まらないほどである。その点、グランツアラーはほどほどで、乗り心地のよさとともに、より高級な乗り味を与えてくれる。
ボディーの機能性で最も近いライバルは「フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン」だろう。しんねりむっつりしたトゥーランより、遊びぐるまとしての華があること、クリーンディーゼルが選べることなどがグランツアラーのアドバンテージだが、価格は高い。試乗車はオプション込みで530万円と知って、目玉が飛び出そうになった。でも、いいけど高いのはBMWの常である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
BMW 218dグランツアラー Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1800×1640mm
ホイールベース:2780mm
車重:1640kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150ps(110kW)/4000rpm
最大トルク:33.7kgm(330Nm)/1750-2750rpm
タイヤ:(前)205/55R17 91W/(後)205/55R17 91W(ブリヂストン・トランザT001 RFT)
燃費:21.3km/リッター(JC08モード)
価格:426万円/テスト車=530万円
オプション装備:ルーフレール(4万6000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(20万9000円)/電動フロントシート(12万円)/アドバンスド・アクティブ・セーフティ・パッケージ(13万円)/コンフォート・パッケージ(13万3000円)/アドバンスド・パーキング・サポート・パッケージ(4万3000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)/メタリックペイント(7万7000円)/パーフォレーテッド・ダコタ・レザーシート+フロントシートヒーティング(22万1000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1169km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。


































