第411回:【Movie】「万博でもいい、たくましく育ってほしい」!?
大矢アキオのミラノエキスポ訪問記
2015.08.14
マッキナ あらモーダ!
食の博覧会
イタリアのミラノでは、2015年5月1日から2015年10月31日までミラノ国際博覧会(ミラノエキスポ)が開催されている。テーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを」で、万博史上初めて「食」に焦点を当てている。
会場面積は1.1平方キロメートルで、東京ドームに換算すると約23個分である。参加している国と地域・国際機関は148にのぼる。
食の万博と聞いて、懐かしいハムのCMを思い出し「万博でもいい、たくましく育ってほしい」なとど、くだらないギャグを思いついた。
それはともかく、各国のパビリオンのほとんどには、郷土料理の軽食やお持ち帰りコーナーがある。しかし大抵の品は量が少なめなうえ、一品10ユーロ(およそ1400円)前後もする。容器も多くが紙やプラスチック皿で味気ない。
ちゃんとした食堂も併設されていたりするものの、いきなり数千円コースに跳ね上がるのに加え、今度はボリュームがありすぎて満腹になり、ほかのパビリオンで食べられなくなってしまう。予約推奨の店も多く、限られた時間でまわる足かせになる。
いっぽうイタリア人来場者の多くはといえば、いつものようにパスタ料理などを食べたあと、コーヒー会社が企業出展したバールで、いつものように食後のエスプレッソコーヒーを傾けている。それを見て「せっかくいろいろな国の料理が味わえる機会なのに、なんだかねえ」と笑ってしまったボクだが、派手なパビリオンに隠れているCO-OP(コープ)、つまりイタリアの生活協同組合のパビリオンを訪ねたときのことである。館内の片隅にドーナツを発見した。日本円にして200円前後。安い・早い・うまい。気がつけば、前述のイタリア人と同様、日ごろ食べ慣れた味に安らぎを求めていた節操のない筆者であった。
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コスパの高さはどっちが上?
会場で列に並ぶ間、数人のイタリア人リピーターから聞いた話によると、人気のパビリオンは2つある。まずは開催国であるイタリア館である。連日2時間待ちというが、その労苦に値するかどうかは、動画をご覧のうえ各自の価値観でご判断いただこう。
そしてもうひとつは、ずばり日本館だ。ボクが行ったときは1時間待ち。どちらかというと国民の共感視点で構成したイタリア館とは対照的に、こちらは外国人に対する情報発信に徹した内容といえる。
5つに分かれた展示のひとつ「DIVERSITY」では、日本の食文化に関するさまざまなコンテンツ画像が部屋中央のタワーから滝のように流れ落ち、興味のある画像にタッチすると、関連する情報が来場者のスマートフォンに自動的にダウンロードされる。
最後に通されるライブシアター「LIVE PERFORMANCE THEATER」も話題だ。未来の食堂を想定したホールで、ダイニングテーブルに座った各来場者がテーブル上のタッチスクリーンのメニューを箸でタッチすると、全員が選んだ人気料理の結果がリアルタイムでスクリーンに表示される。これがほかのパビリオンとは一線を画したミュージカル風の演出で進行する。デモンストレーターのかけ声に合わせ、来場者も一緒に「いただきます!」と日本語で声をあげるのは、ネイティブ日本人のボクとしては少々気恥ずかしかったが、隣に座っていたイタリア人女性などは大いに興奮していた。あまりに盛り上がりすぎて、ホンダのパーソナルモビリティー「UNI-CUB(ユニカブ)」が何台も走り回っているにもかかわらず、大半のビジターはそれに気づいていなかった。
日本館見学のあと、真向かいにあるカタール館もついでにのぞいてみることにした。順路がひととおり終わったあと、建物を出ると「あなたの名前、アラビア語で書いてあげます」という立て札がある。各自名前を告げると女性がサインペンですらすらと書いてくれ、文字の上下がわからなくならないように、建物のイラスト入りスタンプを「ポン!」と押してくれるだけ。それでも、15分待ちくらいの行列ができていて、子供だけでなく大人も盛り上がっている。
ハイテク全開で気合満々の日本館と費用対効果はどちらが高いのか、しばし考え込んでしまった筆者であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
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2015ミラノ国際博覧会(その1)
2015ミラノ国際博覧会(その2)
(撮影と編集=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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