アウディA4アバント2.0 TFSIスポーツ(FF/7AT)
アウディらしさの再定義 2016.06.21 試乗記 アウディといえば四輪駆動のクワトロにとどめを刺すが、FFモデルも決して侮ってはいけない。「A4アバント2.0 TFSIスポーツ」に乗れば、透明で清涼感に満ちた新しいアウディが味わえる。「らしさ」が再定義されていることに気づくはずだ。FFにはFFの良さがある
アウディA4が新しくなった。外観イメージはそのまま継承しつつ、中身はプラットフォームごとすべて刷新され少し大きくなった。アバントとはワゴン形式を意味するアウディ流の呼称で、同社のスローガン「技術による先進」のさきがけとなった「アウディ100」の時代からそう呼ばれている。
アウディ100は空力特性の権化ともいえ、実用車であっても空気抵抗の重要性を世に知らしめた歴史的な名車だ。そして今やA4アバントでは、Cd値=0.26というクラス最良のレベルを実現している。数値そのものはセダンの方が0.23とさらに小さいが、空力重心の位置が後方にくるワゴンボディーの方が横風安定性などは有利か。
A4に搭載されるエンジンは排気量2リッターの新しい4気筒直噴ターボで、クワトロ用の252psとFF用の190psの2種が用意される。今回試乗したのは後者で、JC08モード燃費は18.4km/リッターに向上している。組み合わされるギアボックスは7段Sトロニックのみ。
ところでアウディといえば四輪駆動のクワトロがその代名詞でもあるが、シンプルに前2輪を駆動するFFモデルも決して侮ってはいけない。駆動輪と操向輪が同じであるがゆえ、前2輪さえしっかりミューが確保されている路上にあれば、後輪は水の中だろうがそろばん玉の上だろうがお構いなしに脱出できる。
四駆は能力が高いだけにドライバーが過信しやすいともいえるし、後軸はそのままに、前輪の動きだけでノーズを横移動させたいような場面ではFFにかなわない。切り返してUターンできない行き止まりのようなタイトな状況では有利だ。それに価格が少し安いのも魅力である。
自動運転がここまで近づいてきた
動きだして間もなく、ハンドルを持つ手に奇妙な反応があることに気がつく。電動アシストを持つパワーステアリングゆえ、何かの電気細工がしてあるのだろうと思って観察すると、なんとコーナーで自動的にハンドル操作してくれるし、直進時にレーンを逸(そ)れようとすると修正までしてくれる。これは自動操縦の前触れ的なトライアルの一環なのだろう。
間違いでないかさらに試していくと、カメラで路上の白線を読んで作動する仕組みなので、あくまでもきれいな左右2本の白線を読みとれることが前提であり、点線や黄色線などはダメ。また細かいことを言えば、カメラで白線を読んでから実際に作動するまではタイムラグもあるから、スムーズにいかずカクッと曲がる。だから現段階ではやはりハンドルに手を添えていないといけない。
このアクティブレーンアシストは、まだ重箱の隅をつつけるレベルには達しておらず、ドライバーに操作を催促することで、安全運転に協力しようという段階だ。とはいえ、実験車ではなく量販車でもここまで来ているのか……と実感した。
アウディは技術をウリにするメーカーである。新型車のリリースを興味津々で読む。実はクルマに乗ったのが先で、リリースはその後で送られてきた。試乗も短時間ゆえ、その全容をつかむだけの余裕がなかったし、ここに印象を全部書き出すだけのスペースもない。
よって特別気になった点のみ記すことになるが、まずはこのパワーステアリングの件が1つ目。次は7段Sトロニックの印象だった。
実益もファンもある「フリーホイーリング」
ATの多段化と、負荷が軽いときに駆動を断ってニュートラルで転がし、燃費を稼ぐのは最近の流行。昔はギアを抜いて転がす……などという走法はエコラン競走以外はご法度とされていた。しかし今やポルシェもメルセデスもクルマが判断すればニュートラルで転がす。作動したかどうかはタコメーターを注視していれば分かる。
アウディの7段Sトロニックでは、それを機械任せではなく自分でもできる。セレクトレバーをNに戻すのではなく、ステアリングホイール裏にあるパドルで操作できるので簡単にして便利。これなら7速が8速のように使えるし、ATの退屈な運転に飽き飽きしてるドライバーにも遊ぶ楽しみを加えた。
長い下り坂などで次なるコーナーに備えて速度を落としたくないような状況では、エンジンブレーキが利き過ぎて、再度スロットルを踏んで加速するようなこともある。そのまま速度低下なく流せれば、燃費にとっても有効。そんなときにチョンとパドルを引くだけで動力を断てるということは、より微細に操作できて、機械任せの隙をつける。面白みの少ない自動変速機であっても、ドライバーが積極的に参加できる余地を与えてくれたことに拍手。
過去に、同じハルデックスカップリングを使っても、サプライヤー任せではなくちゃんとしたフルタイム4WDに仕上げてしまったアウディ技術陣の成果を思い出す。彼らはドライバーの心理や要求をきちんと理解したクルマに仕上げるチューニング能力にたけている。
新しい感覚のアウディ
A4の開発の主要テーマとして、走行抵抗の削減が挙げられている。フリクションの低減に関しては、新エンジンにおける改良が著しい。変速機の7段化もあって、エンジン回転を上げることなくスムーズで静かな加速を味わえ、しかも普通の実用走行ならば、高速道路も含めて2000rpm以下で十分周囲の流れについていける。エンジン回転を上げずにギアボックスに仕事をさせるチューンはディーゼルを思わせる。2リッターと大きめの排気量で低速トルクを確保し、高回転域では「Sモデル」並みのさらなる高性能と高レベルで両立させている。この方が小排気量ターボよりも効率的という判断なのだろう。
そうなると、低いギアで回転を上げて楽しむことは燃費にはよくないからいけないことなんだ、と罪悪感を持ってしまいそうだ。もちろん無視することも自由だ。緩急自在に静かで滑らかに行われることは今まで以上であり、どちらかというと勇ましく金属感のあるエンジン音だったアウディらしさは姿を潜めた。
軽量化については、足まわりをはじめとしてアルミ部品が多用されており、剛性アップも同時に実現している。スッと動きを開始するレスポンスの良さは拡大されたボディーサイズを感じさせない身軽さだし、バネ下の重さが軽くなったので、太く大きなタイヤが無用に暴れることなくスッキリした乗り心地を提供してくれる。
ことほどさように洗練度を増し、より快適になったことは喜ぶべきことながら、今や600万円と高価になってしまった。上級志向は当然の成り行きであり、内容もそれなりに向上しているので納得はできる。名前も外観もまさしくアウディながら、「らしさ」をいったん昇華させて、ドイツ車風味の豪快さやアクの強さを封印し、模範解答でまとめたような無色透明で清涼な新アウディ感覚となった。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
アウディA4アバント2.0 TFSIスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1840×1435mm
ホイールベース:2825mm
車重:1580kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:190ps(140kW)/4200-6000rpm
最大トルク:32.6kgm(320Nm)/1450-4200rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:18.4km/リッター(JC08モード)
価格:585万円/テスト車=662万5000円
オプション装備:ボディーカラー<グレイシアホワイトM>(8万5000円)/S lineパッケージ<S lineバンパー+ドアシルトリムS lineロゴ+S lineエクステリアロゴ+ヘッドライニング ブラック+デコラティブパネル マットブラッシュトアルミニウム+アルミホイール 5ツインスポークスターデザイン 8J×18+スプリントクロス/レザー S lineロゴ+S lineパッケージ コントロールコード>(35万円)/マトリクスLEDヘッドライトパッケージ<マトリクスLEDヘッドライト+LEDリアコンビネーションライト+LEDインテリアライティング+ヘッドライトウオッシャー+バーチャルコックピット>(34万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3080km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:225.5km
使用燃料:20.8リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/12.9km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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