フェラーリ488スパイダー(MR/7AT)
最も魅力的な跳ね馬 2016.09.09 試乗記 エンジンを自然吸気からターボに改めた新時代のV8フェラーリ、「488」シリーズに「スパイダー」モデルが加わった。空を味方につけたミドシップフェラーリの実力やいかに? 東京を抜け出し、一路箱根のワインディングロードを目指した。我慢いらずのスパイダー
これまでに乗ったことのあるフェラーリの中で一番乗りやすく、高性能なのはもとより日常生活も楽しいフェラーリ、それは「488GTB」だ。振り返れば「458イタリア」の時代からすでに今のレベルに達していたと思う。低速で流れている実用速度の街中でもまったく気難しさはなく、とにかく全方位すべてのレスポンスに優れ、敏感で繊細な感覚があり、自分の意のままになるフェラーリとして最上の仕上がりと感じられた。今回試乗したのはそのスパイダーモデルであり、より快適方向に居住空間が拡大された。
かのフィオラバンティが考案した回転式開閉ルーフ「レヴォクロミコ」によく似た構造のオープントップは実にシンプルだ。電動作動でエンジンルーム上部にコンパクトに格納され、外観を見ただけではリトラクタブルトップの存在すらうかがうことができない。試乗当日は突然の雨があり、そのまま少しの区間を走り続けざるを得なかったが、空力特性がいいのか雨水が室内に侵入する気配はまったくなかった。そして安全な路肩を見つけ、停車する寸前からスイッチを押すと14秒ほどでクローズドボディーに変身。多少動いていても作動するし(45km/h以下ならOK)、速度が速いとスイッチは入らない。この辺はあうんの呼吸をよく心得ている。
488シリーズの日常性の高さを味わってしまうと、以前のV8フェラーリは何らかの覚悟がいったことを思い出す。外見のカッコ良さでは、「308/328」系や「360モデナ」なども決して引けをとらない。しかし毎日の普段走りに使うには覚悟しなければならなかった。涼しい顔で走っているように見せる裏には苦労(?)もあったのだ。
乗り心地の良さはフェラーリの伝統
8気筒ミドシップのフェラーリは12気筒を搭載する「テスタロッサ」などに比べて、ボディーがコンパクトなぶん取り回しはよかったものの、ギアボックス内のオイルが温まらないうちは1速に入れたギアが硬くて抜けなくなったり、車両の中心線に向かって斜めに座るシートポジションやペダル配置の不自然さなどにより、「乗るぞ」という覚悟が必要だったりしたものだ。それでもゲートが切られたシフトレバーの操作などは、そこに当ててカチカチ鳴らさず、スムーズに操作できたときには大きな悦びもあった。コツが要るけれども、それゆえの面白さも確かにあったのだ。
乗り心地はあの当時から良かった。フェラーリはKONIのダンパーを使っており、車高調のスプリングはもともとソフトなレートをもち、長いスプリングを縮めて硬い部分だけを使い、微少ストローク域ではむやみに動かさず、縮み側をソフトにして伸び側を強くしたツインチューブ・ダンパー特有のしっとりした動きを特徴とした。速く縮めてゆっくり戻すことにより、姿勢はフラットで、足まわりの動きに節度感のある絶妙な乗り味は、ガス入りダンパーが流行(はや)ってきてやや反発感を加えたものの、あのころからフェラーリは独特の味を持っていた。スポーツカーといえども、乗り心地に関しては大型高級車をしのぐものがあったのである。この乗り味の伝統はそのまま今に受け継がれており、こと乗り心地に関してフェラーリに裏切られたことはない。
現代の磁性流体ダンパーによる乗り心地も悪くはない。しかしバウンドからリバウンドに方向が切り替わる瞬間の動きとして、やや曖昧な領域があることも確かだ。この部分の動きをダルにして、これをあえて良しとする向きもあろう。筆者の好みを言わせてもらうならば、昔のフェラーリで味わえたキッチリ抑えの効いたメリハリある節度感の乗り味が懐かしくもある。
緩急自在なDCT
さらに488になって衝撃を受けたのは、デュアルクラッチ・トランスミッション(DCT)の仕事ぶりだった。単なる自動変速ATと違い、じかに歯車がつながっている感触があり、スロットルを戻すと即座にエンジンブレーキが利いて、この辺のダイレクトな感覚には何の痛痒(つうよう)もない。また無用に上まで引っ張り上げる余計なお世話感もなく、スロットルの踏み加減で即座にシフトアップでき、アップダウンの敏感作動とレスポンスがこれほど繊細な例は他にない。もちろんシフトショックとも無縁だ。またシフトに頼らなくともエンジンパワーはふんだんにあり、そのままのギアでもスッと出てくれて、大げさにシフトダウンなどさせずに一切のタイムラグなしに自然に振る舞える点もいい。とにかく緩急自在な加減速がドライバーの意思通りに行える。
この繊細な感覚こそ458以来のフェラーリの真骨頂とも言え、高価格車だからといって必ずしもこの要求をかなえるとは言いがたいラフな車もある。そういったなかで、この点だけでフェラーリを選ぶ価値はある。これならあえてMTでなくとも我慢できる……とMT至上主義のドライバーにも歓迎されるだろう。
少し言わせてもらうならば、この時の微妙な排気音の変化がドライバーの意思とズレる領域がある。それは電子制御された結果の、イイ方向のものであることはわかるのだが、自分の意思ではないところで発せられた音だけに、“クルマに乗せられている感覚”にどうしてもつながってしまうのである。これは、仮にMTで乗れるのならもっとイイのかなーと思わせる小さな部分である。それはともかく、高性能AT車の評価基準が488の登場によって変わってしまった。コレを超えるAT車は今のところ見当たらない。
オープンボディーの利点だけをプラス
オープンにして走る快感は、いまさら述べるまでもない。前方左右両端にはフェンダーの峰が盛り上がり、その間の谷間から頭上に抜ける空気が頭髪にも触れずに流れていくのは不思議な感覚でもある。エアコンをそのままオンにしておけば、時折冷気も混じって汗ばむこともないし、首筋あたりに時折回り込む涼しさによって、スパイダーならではの空気の流れを感じる。コーナーの横Gによってちょっと風の流れが変わったときにフッとくる涼気は快感以外の何物でもない。明るさと頭上に広がる大量の空気感は、言うまでもなくサンルーフやグラストップとは比べものにならない。また後方に流れる空気を整える背びれのような空力パネルは、乗員にとっての安心感にもつながるし、後方視界を妨げることはなく、邪魔にもならない。これはエンジンフードに外付けされており、隙間から熱気の放流を促す。この下にルーフがしまい込まれていることなど、聞かされなければわからないだろう。わずかな不満を言えば、ヘッドレストまでの距離が遠く、もう少し近くに欲しい。もっとも、これもヘルメット着用でサーキット走行などを考えると納得しなければならない。
スパイダーはルーフを格納する機構など従来比で重量は25kgほど軽量化されている。トップをおさめれば重心高が低くなる感覚はほとんど分からない範囲ながら、地をはう感覚は増幅される。ちなみに給油所などへの侵入に際しては、ノーズを持ち上げる機構を備えており路面干渉の心配はないが、そのままでも困るほど低くはない。この辺の設定がイタリアの高性能車ならではとも言える。フェラーリはいつの時代でも一般路上で使う場合の実用性を犠牲にしていない。それがロードレースで培った実績でもある。
ボディー剛性を含めてクーペ型のGTBと運動性能も変わらない、としたらオープンボディーの利点だけが加わったスパイダーは最も魅力的なフェラーリという事になる。日常の普段使いで何も心配要らないフェラーリ、そして必要とあればいつでもどこでも高性能を引き出せ、尋常ならざる世界へと誘ってくれる。3500万円という車両価格は一応のハードルではあるが、そこを越えられる裕福な人にとっては、リセールバリューも含めて最も価値ある使用頻度の高いフェラーリということができるだろう。
(文=笹目二朗/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
フェラーリ488スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4568×1952×1211mm
ホイールベース:2650mm
車重:1420kg(乾燥重量)/1525kg(空車重量)
駆動方式:MR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:670ps(492kW)/8000rpm
最大トルク:77.5kgm(760Nm)/8000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/40ZR20 103Y(ミシュラン・パイロット スーパースポーツ)
燃費:11.4リッター/100km(約8.8km/リッター、HELEシステム搭載によるECE+EUDC複合サイクル)
価格:3450万円/テスト車=4338万9000円
オプション装備:Goldrake Racing Seats/"SCUDERIA FERRARI" Shields/Aluminum Break Calipers/Exterior Color (Blu Corsa)/20 inch Glossy Chromed Silver Forged Wheel/Titanium Exhaust Pipes/Carbon Fiber Rear Air Ducts/Carbon Fiber Side Air Splitter/Carbon Fiber Front Wing/Carbon Fiber Sill Cover/Carbon Fiber Rear Diffuser/Carbon Fiber Engine Bay Covers/Mostrina Montante B in Carbonio/White Rev Counter/Color upon Request for Leather Upper Area (Nero)/Carbon Fiber Dashboard Trim/Carbon Fiber Driver Zone + LEDs/Carbon Fiber Upper Tunnel/Carbon Fiber Sill Kick/Carbon Fiber Tunnel Bridge/Carbon Fiber Door Panel Trim/Color upon Request for Standard Stitching/HELE Package/Rear Parking Camera/Inner & Out Electro chromic Mirrors/HIFI Premium System/Anti Stone Chipping Transparent Film
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4801km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:230.7km
使用燃料:46.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:4.9km/リッター(満タン法)

笹目 二朗
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