ルノー・カングー ビボップ(FF/5MT)【試乗記】
おシャレで野蛮 2011.10.27 試乗記 ルノー・カングー ビボップ(FF/5MT)……234万8000円
超個性的なルックスの「ルノー・カングー ビボップ」。乗って分かった、とっても意外なフィーリングとは……?
割り切りの魅力
「ルノー・カングー ビボップ」。ひとことで言えばそれは、第2世代「カングー」のショートホイールベースバージョンである。
実際、同じルノーの「セニック」がベースとなった新型カングーは、先代に比べて格段に大きくなってしまった。普通この手のスペース・ユーティリティー・ビークルは、サイズアップするほど消費者には歓迎されるはずなのだが(ジャーナリストはサイズアップ嫌いが多いけれど)、4mをゆうに超える全長や、スポーツカーばりの1830mmという全幅、2700mmのホイールベースは、先代からの乗り継ぎ組には、さすがにでかすぎるのではないだろうか。
それを反省したのかどうなのか。ビボップは、そのホイールベースをばっさりと2310mmにまで詰めてしまった。中庸がないというか、極端というか。フランス人らしいアバンギャルドな解決策ではあるが、それゆえの面白さがビボップの魅力なのであった。
小さくなった、いや寸詰まりなカングー。しかしながらその車重は、1420kgから1370kgへと、たった50kgしか軽くなっていない。それはビボップが、広いグラスエリアとフロントのサンルーフ、そしてリアのオープントップを持つ“実用的な遊びグルマ”に仕上げられたからだろう。
乗車定員は割り切りの4名。後部座席は座面が小ぶりで、ゆったり座れるタイプではない。だが、左右を独立シートにしている分だけサイドサポートが上がり、エマージェンシーシート以上の性能は期待できる。
そもそもシートを小ぶりにした狙いは、それを折りたたんだり取り外したりと、いざというときの積載能力を上げることにある。ただし実際に重たい座席を取り外すのは難儀であり、トランクスペースを持たないビボップで、日常的な荷物置き場はリアシートになるだろう。とはいえ、いざとなれば大きな荷物だって飲み込んでくれる。外したシートを芝生に置いて、ピクニックを楽しむなんて妄想も楽しくもある。
数字なんか、ほっとけ
搭載される1.6リッターの直列4気筒エンジンは、カングーのものと全く同じ。ただし前述の通り車重は50kg程度しか軽くなっておらず、そもそもが105psと、いまどき驚くほどローパワーなスペック。トルクも15.1kgmと超々平凡な数値で、これが3750rpmという高い回転で生み出される。フォルクスワーゲンをはじめとするドイツ車たちが、いかに実用トルクを低回転で発生させるかに躍起になっていることなど、「あたしゃ知らんよ」という感じである。
しかしその数値さえ教えなければ、ビボップを走らせてあからさまな不満を述べるドライバーは、実はそういないのではなかろうか。目新しさのない、むしろ古くさい形式のエンジンなのに、ビボップはスイーッと進む。街中でのストップ&ゴーも、“ふつーのトルク”と“ふつーのパワー”で、ふつーに走り出すことができる。
感心したのは、高速道路でのドライバビリティーである。実際の走行で使う回転数が、狙い澄ましたかのように最大トルクの発生回転域に入っているのだ。6速があってもいいとは思うが、これなら追い越し車線に入っても、欲しいときにエンジントルクが得られ、流れをせき止めずスムーズに加速することができる。
いまどきの自動車方程式からすれば「エンジン回しすぎじゃね?」なんて言われるのかもしれないが、持ちうる素材の性能をきっちり使いきるあたりは、頭でっかちのエコよりも実生活に即している気がする。
“前のめり”で買うクルマ
そしてなにより、筆者がこのビボップを一番評価したい部分は、足腰の良さである。
それこそ、これだけ“頭でっかち”なディメンションをしているにもかかわらず、ビボップのコーナリングは安定している。車高の高さを逆手に取り、たっぷりとしたサスペンションストロークを使って、前後のピッチング、左右のロールモーメントをゆっくり抑えてくれる。これだけ異様な形のクルマを、破綻なく、しかも気持ち良く走らせることができるのは、ルノーのエンジニアが腕を振るったおかげだろう。ドライバーはタイヤのグリップ状況を感覚的につかみやすく、むしろ積極的にドライブする気持ちになれるはずだ。
このビボップ、心根としては“前のめり”で買うクルマだと思う。
一見おっとりとした癒やし系に見えるが、意外や肉食系。いまどき5段MTしかラインナップしてないあたりに、まずドライバーには積極性が求められる。クラッチペダルの剛性は貧弱で、そのミート感覚も非常に曖昧だが、それを「フランス車っぽいね」と言いながら、気にせずガツンと踏み倒すのがいい。
フロントシートのリクライニング機構が大ざっぱで、一度背もたれを傾斜させると元に戻すのがとても面倒。「やっぱり2ドアは不便かなぁ……」と一瞬腰もひけるが、そんなときはバックドアをガチャリと開けて、「ここからどうぞ」と解決する。そんなアグレッシブさやアバンギャルドさが、ビボップのキャラなのだ。
もちろんゆったりと走っても楽しい。リアのスライディンググラスルーフを開け放てば、後部座席はオープンカーばりの開放感が味わえるから、たまに乗るお友達にそれを味わわせてあげれば、きっと喜ばれる。
ガンガン踏んで、ガンガン楽しむ。オシャレなセンスを持っているのに、結構野蛮。そんな感覚は、ヨーロッパ人そのものなのだと思う。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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