【F1 2016 続報】第16戦マレーシアGP「捨てる神と、拾う神」
2016.10.03 自動車ニュース![]() |
2016年10月2日、マレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで行われた、F1世界選手権第16戦マレーシアGP。予選2番手からのスタート直後に追突されて最後尾に落ちたメルセデスのニコ・ロズベルグだったが、最後には3位表彰台に立っていたのだから、レースはやってみないと分からない。しかも宿敵ルイス・ハミルトンが無得点という、彼にとって大きな「手土産」まで用意されていたのだから……。
![]() |
![]() |
■残り6戦、問われる挑戦者の真価
前戦シンガポールGPでは、終盤フレッシュなタイヤで猛追を仕掛けてきたレッドブルのダニエル・リカルドを抑え切り、メルセデスのニコ・ロズベルグが今季8勝目を飾った。これで7月の第11戦ハンガリーGPで失ったポイントリーダーの地位を取り戻し、チームメイトで最大のライバルであるルイス・ハミルトンに8点差をつけ、残り6戦に向かうことになった。
3年目のメルセデス同士のタイトル争いは、過去2年と様相が違ってきている。今シーズンの、これまでの2人の勝利数と、このうち連勝となった数をまとめるとこうなる。
ロズベルグ:8勝(開幕から4連勝、第13戦ベルギーGPから3連勝)
ハミルトン:6勝(第6戦モナコGPから2連勝、第9戦オーストリアGPから4連勝)
ロズベルグは、最初の4戦でハミルトンに43点もの大差をつけた。その後ハミルトンが夏休み前の第12戦ドイツGPまでで2連勝+4連勝すると、今度はハミルトンが19点リードと形勢が逆転した。
以前のロズベルグなら、このままハミルトンの勢いに飲まれていたかもしれない。実際2014年には、ロズベルグがチャンピオンシップをリードする展開からハミルトンがシーズン後半に5連勝し、タイトルを決めたということもあった。
だが今年のロズベルグはサマーブレイク明けから3連勝と、失った流れを再び呼び込んだ。ベルギーではハミルトンのパワーユニット交換ペナルティーに助けられたものの、続くイタリア、シンガポールではしっかりと勝利をものにした。
一方のハミルトンは、シーズン序盤の中国、ロシアとマシンにトラブルに泣かされ、その影響はベルギーでのパワーユニット交換による最後尾スタートにまで影響しているものの、度重なるスタートでの出遅れ、またヨーロッパやシンガポールで見せた精彩を欠く走りなど、取りこぼしも多かったのも事実だ。
速さと勢い、そして自信を持つものが、史上最多21戦の長き戦いを制する。挑戦者ロズベルグの真価が問われる残り6戦に入った。
![]() |
■ハミルトン、今季8回目のポールポジションを獲得
1999年から続くマレーシアGPの舞台セパンは、今年大幅なコース改修を受けた。全面的に再舗装されスムーズな路面となったのに加え、熱帯特有のスコールに対応するため排水性の向上が図られた。また最終ターンなどではイン側が1メートル高く盛り土され逆バンクとなるなど、9つのコーナーで一部変更が行われた。マシンやタイヤの性能向上もあったが、今年のラップタイムは数秒単位で速くなった。
予選はハミルトンの独壇場と化し、Q3最初のアタックで記録したタイムで今季8回目、通算57回目のポールポジションを手に入れた。2位はロズベルグだったが、1発目のフライングラップでは自らのミスでハミルトンから遅れること0.911秒の5番手、2回目には何とかタイム更新を果たしたものの0.414秒もの大差をつけられた。シルバーアローの最前列独占は今年9回目だ。
2列目にはレッドブルが並び、マックス・フェルスタッペン3位、ダニエル・リカルド4位。続いて5位セバスチャン・ベッテル、6位キミ・ライコネンとフェラーリが3列目を、7位セルジオ・ペレス、8位ニコ・ヒュルケンベルグとフォースインディア勢が4列目をそれぞれ占めた。予選9位は、このレースでGP出走300戦目を迎えたマクラーレンのジェンソン・バトン。トップ10グリッド最後は、ウィリアムズのフェリッペ・マッサだった。
![]() |
■ハミルトン首位快走、ロズベルグは接触で最後尾へ
予選ではハミルトンの後塵(こうじん)を拝したロズベルグだったが、レースでは早々の不運により大きなハンディを負うことになった。シグナルが消え56周レースが幕を開けると、先頭のハミルトンの後ろでは、オーバースピード気味にターン1に進入してきたベッテルとフェルスタッペン、そしてロズベルグが接触。ロズベルグは一気に最後尾まで後退したのだった。
フロントタイヤが曲がったベッテルのフェラーリはコース脇にストップし、バーチャルセーフティーカーが出された。上位の順位は、1位ハミルトン、2位リカルド、3位ペレス、4位ライコネン、5位フェルスタッペン。やがて徐行が終わると、トップのハミルトンを2位リカルド、3位フェルスタッペンのレッドブル勢が追う展開となった。
9周目にハースのロメ・グロジャンがコースアウトしたことで再びバーチャルセーフティーカーが出ると、この時点で10位まで挽回していたロズベルグやフェルスタッペンらがピットに飛び込み、フレッシュタイヤに履き替えた。
レース再開後は、1位ハミルトンがハイスピードで飛ばし、2位リカルドとの間隔を拡大。3位はライコネンだったが、既に1ストップ済みのフェルスタッペンが急接近、フェラーリは程なくして表彰台から引きずり降ろされた。
![]() |
![]() |
![]() |
■ハミルトン痛恨のリタイア、ロズベルグ3位でポイント差拡大
作戦の違いから一時フェルスタッペンがトップを走っていたが、各車タイヤ交換を済ませ、レースも折り返しを過ぎるころには再びハミルトンが1位、リカルド2位、フェルスタッペン3位というオーダーに戻った。
さすがの最速マシン、メルセデスはどんどん逃げ、38周目には20秒ものマージンを築き上げ、このままハミルトンが優勝するのではと思われた。メルセデスを追いかけねばならないレッドブルはといえば、ペースの上がらない2位リカルドと、フレッシュなタイヤを履くフェルスタッペンが丁々発止とやり合い、メルセデスの独走を手助けしているかのようにも見えた。
残り15周、事態は急変した。首位独走中のメルセデスが突如煙と炎をあげストップ。「オー、ノー! ノー!」というハミルトンの悲痛な叫び声が響いた。ハミルトンの痛恨のリタイアで、この日3度目のバーチャルセーフティーカーの指示が出て、レッドブルには1-2というまたとない幸運が舞い込んだ。
1位リカルド、2位フェルスタッペンは僅差で周回を重ねていたが、チームから双方に「ドリンクを飲んでくれ」(競い合うなの意味か?)との指示が出るとペースを緩め、レッドブルは2013年最終戦ブラジルGP以来となる1-2フィニッシュを達成した。
3位に入ったのは、何とロズベルグだった。コース上でライコネンを抜いた際に不用意に接触したことで10秒加算ペナルティーが言い渡されていたが、4位ライコネンとのギャップを10秒以上キープした状態でチェッカードフラッグが振られ、表彰台の最後の一角を手にしたのだった。
スタートで追突され最下位に落ち、宿敵ハミルトンのリタイアで3位表彰台が転がり込んできたのだから、ロズベルグにとっては「捨てる神あれば拾う神あり」のレースだった。
神に捨てられて終わってしまったハミルトンは、「優勝してチャンピオンシップ再逆転」の夢が、ロズベルグに23点も逃げられるという悪夢に変わってしまった。
そして今回、神に捨てられた後に拾われたドライバーがもう1人いた。ポディウムの頂点に立ったリカルドだ。第6戦モナコGP、チームのミスで勝てたレースを落とした苦い思い出は、表彰台での至福のシャンパンとともに飲み干された。ドライビングシューズに注がれた、勝利の美酒ではあったが……。
次はいよいよ鈴鹿サーキットでの日本GP。1週間後の10月9日に決勝が行われる。
(文=bg)