第14回:地味なクルマに乗る3人が、悪党上司に猛反撃! − 『モンスター上司』
2011.10.26 読んでますカー、観てますカー第14回:地味なクルマに乗る3人が、悪党上司に猛反撃! 『モンスター上司』
主人公もクルマも平凡だけど
「トヨタ・プリウス」「ボルボ940エステート」「フォルクスワーゲン・ジェッタ」。主人公の愛車がこの3台なんて、きっと地味な映画だろうと思うかもしれない。でも、想像は裏切られる。派手なカーアクションもあれば、美女のお色気シーンもある。そして、恐ろしい殺人映画でもあるのだ。それでいて、上質なコメディでもあり、鑑賞後に爽快な気分になれる。あなたが、誰かの部下であるならば。
このクルマのチョイスが示すように、主人公3人の人生には華がない。至って平凡で人畜無害な小市民だ。プリウスに乗るニック・ヘンドリクス(ジェイソン・ベイトマン)は、1日12時間の労働に耐えて営業部長の座を目指す毎日。デール・アーバス(チャーリー・デイ)は、ボルボ940エステートが愛車。歯科助手として働き、愛する恋人との結婚を待ち望んでいる。カート・バックマン(ジェイソン・サダイキス)は老社長に気に入られ、経理責任者として充実した日々を送る。シルバーのジェッタに乗っている。3人それぞれ、それなりに平穏で幸せな生活のように見える。
問題は、彼らの上司である。ニックが仕える取締役のデビッド・ハーケン(ケビン・スペイシー)は、昇進を餌に無理難題を押し付け、長時間労働を強いている。そして、唯一の希望だった本部長の椅子は、彼の抵抗を封じるためのうそだったことが判明するのだ。
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必見! ジェニファーのエロ歯医者
デールは口腔(こうくう)外科医ジュリア・ハリス(ジェニファー・アニストン)の助手を務めている。彼の悩みは、セクシーな女上司が挑発してくることだ。治療中でもお構いなしに、露骨なセクハラを仕掛けてくる。美女のお誘いなら受けて立てばよさそうなものだが、この男、恋人だけを愛し、何よりも幸福な結婚を望むという特異な体質なのである。
唯一真っ当な会社員生活を送っていたカートだが、老社長の急死で運命は暗転する。新社長になった息子のボビー・ペリット(コリン・ファレル)が筋金入りのバカで、しかも腹黒くて傍若無人、狡猾(こうかつ)な自己中野郎だったのだ。
かくして3人は、憂さ晴らしにビールを痛飲しながら愚痴をこぼしあう。上司さえいなければ、俺たちの未来は明るい。酒の勢いで、彼らはついに殺人計画に思い至る。事故か自殺にみせかけて、互いに相手を入れ替えて殺しを実行すれば、絶対にバレない……。
彼らにもモラルがあるから、一応は躊躇(ちゅうちょ)する。
「上司がどんな悪党でも、殺人はマズい」(デール)
「正当な理由があれば、殺しても罪じゃない。生かしておくほうが、人道に反する」(カート)
むちゃくちゃな論理だが、なぜか観客は納得してしまう。上司役の3人の演技があまりにも突き抜けていて、確かに殺されても仕方がない、と思わされてしまうのだ。
ジェニファー・アニストンのエロ歯科医を見れば、男なら誰もが受診したいと思うだろう。白衣の合わせ目からは常に豊満なふくらみが見えているし、うっかり油断すると耳を舐めてくる。口を開けば飛び出すのはここに書けない四文字言葉だし、揚げ句の果てには麻酔で眠らせて男を自由にもてあそぶ。美人女医に男が抱く妄想のすべてが実現しているではないか。
「ジェッタ vs エスカレード」勝つのはどっち?
コリン・ファレルは、バカで悪趣味という役を喜々として演じている。部屋の中は動物の剥製や美術品のレプリカなどでゴテゴテと飾られており、その中でヌンチャクを振りまわしてヒーローを気取る。会話には知性のかけらも感じられず、毎夜コールガールを家に呼んで痴態を繰り広げるサイテー男だ。
ケビン・スペイシーのパワハラ演技は堂に入っている。部下の些細(ささい)なミスをネチネチと追及し、精神的に追い詰める。自分の利益のためには平気でうそをつき、社員は道具だとしか思っていない。人の尊厳を傷つけることで喜びを得、罠にはめて希望をついえさせる。あまりに真に迫っていて、怖いほどだ。
今まで築きあげてきたキャリアを台無しにしそうなひどい役柄なのに、3人とも本当に楽しそうに演じている。彼らのやり過ぎ気味の怪演が、この映画の一番の見どころだ。ほかにも、主役以外のキャストが実に豪華でぜいたくだ。ドナルド・サザーランドは老社長の役だが、開始早々に死んでしまう。ジェイミー・フォックスはオスカー俳優なのに、なんともけちな役柄で登場する。それでも存在感を示すのが、名優たるゆえんだろう。
クライマックスは、「フォルクスワーゲン・ジェッタ」のカーアクションだ。相手となるのは、「キャデラック・エスカレード」である。実社会でもフォルクスワーゲンに乗る人はなんとなく良い人に見え、デカいSUVのドライバーはコワモテに感じられてしまうが、そのイメージ通りの展開になる。エスカレードを運転するのは、パワハラ上司のデビッド。性格はクルマに乗っても同じで、パワーにまかせて巨体をか弱いジェッタにぶつけ、痛めつけるのだ。
圧倒的に不利なジェッタだが、新たなキャラが現れる。それは、通信カーナビの“中の人”たるグレゴリーだ。言ってみれば、懐かしのトヨタ「G-BOOK」キャラクター、コミュタロウのようなもの。彼が意外な結末を演出する。
上司運が悪いとお嘆きの方には、文句なしにオススメの映画だ。そして、現在上司をやっているという方もぜひ観るべき。部下に殺意を抱かれないためにも。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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