ポルシェ・パナメーラターボS(4WD/7AT)【試乗記】
あくなき進化の到達点 2011.10.20 試乗記 ポルシェ・パナメーラターボS(4WD/7AT)……2736万円
ポルシェの4ドアサルーン「パナメーラ」に、550psの最強グレードが新登場。超ド級のスペックがもたらす、その走りとは……?
「911 GT3」も置き去り!?
お金というのはさみしがり屋なんだそうです。だから、お財布の中にひとりぼっちでいたりすると、すぐにどこかへ消えてしまう。あれはお友だちのところに行くのです。故・桂枝雀師匠のまくらにこんなのがある。お金がお金のたくさんあるところにどんどん集まってくるのは、さみしがり屋だからなのだ。なぁるほど。本題は、「パナメーラターボ」の強化版、「ターボS」である。
高速道路の駐車場で「ポルシェ・パナメーラターボS」に乗り込み、本線へと続く合流車線でフル加速を試みる。リアウイングがスッと立ち上がって左右に広がるのをルームミラーで確認する。はやっ!
格納式リアウイングは90km/hで自動的にせり上がる。“ターボS”は、ローンチコントロールを使うと0-100km/h=3.8秒で加速する。私は使ってないが、それにしたって速いのである。全長5m、車重2トン強の巨艦が、「911 GT3」を上回る突進力を秘めているのだ(ちなみに911 GT3は4.1秒)。
パナメーラターボSは、パナメーラターボの4.8リッターV8エンジンをチューンし、500psの最高出力を10%増しの550psに、71.3kgmの最大トルクを76.5kgm(オーバーブースト時81.5kgm)に引き上げた4ドアGTポルシェの新しいキングである。最高速度は303km/hから306km/hに、0-100km/h加速は4.2秒から前述の3.8秒へと、性能アップが図られている。
2481万円という価格は、2086万円のターボの395万円増し! 超話題の「ダイハツ・ミラ イース」、79万5000円のおよそ5台分でもって、50psと交換されたのだ。「ミラ イース」は79万5000円で52psですけど。
寡黙なスーパーマン
いったいなぜこんなことが起きるのでしょう?
もちろん、足まわりにもたくさんのお金がかかっているからである。「PDCC(ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロール・システム)」やら「PTV Plus(ポルシェ・トルク・ベクトリング・プラス)」やらが標準装備化されている。
大切なことは、いまや1%の超富裕層と99%の貧困層に分化した社会に私たちは暮らしているということだ。たまにはお金持ちの立場に立ってものを考えてみよう。
私たちはもはやお金を望んではいない。それでもお金は向こうからどんどんやってくる。このお金をなんとか消費しなければならない。そうやってお金を世の中に回すのが私たちの責務なのだ。では、何を買えばいいの? おお、ポルシェから新しいモデルが出た。500psが550psになった。1台もらっておきましょう――
550psに強化された最強パナメーラターボSは、じつのところクールなクルマであった。まずもって、エンジンがおとなしい。ターボチャージャーのタービンを軽量なチタニウム/アルミニウム製に換え、マネジメントシステムに手を入れることで、エンジンのレスポンスを30%向上させているというし、排気音が大きくなるスイッチも付いている。そうであるのに、このV8ツインターボはむしろ寡黙で、あり余るトルクをたんたんと供給する。
乗り心地は、筋肉質のマッチョな男性に抱かれているがごとしである。電子制御のエアサスペンションということもあって宙に浮かんでいる感がある。路面からの影響はほとんど受けない。ボディの動きはごく小さく、その足腰の強さは新大関・琴奨菊のごとし。琴奨菊関は毎日20kgの石を抱えてすり足を繰り返すことによって鍛錬したという。パナメーラターボSはニュルブルクリンクを走り回って鍛錬したわけである。その下半身の安定ぶりときたら、レールの上を走るがごとし!
さながらドイツの新幹線
なるほど、この巨大ポルシェは、ほとんど意のままに加速し、意のままに減速するうえ、意のままに曲がって見せもする。おまけにそれらを、汗ひとつしたたらせることなく、寡黙な完璧さでもってやりおおす。
私は運転している、という感覚はある。しかし、私が運転しているモノは、さながらDr. ポルシェ設計事務所がつくったICE、ドイツ製新幹線なのだ。いわゆる官能性はない。いや、新幹線の運転手になりたい、と子どもの頃から願っていたようなかたが乗ったら、鉄分いっぱいのセックス・アピールに大感激するのかもしれない。
まことに技術の進歩に終わりはない。これも故・桂枝雀師匠のまくらだけれど、こういうのをご存じだろうか? 東海道新幹線が開通して、東京〜大阪が3時間になったというので大いに驚いた。それがいまや2時間半。リニアモーターカーが登場すれば、1時間になる。1時間はやがて50分、40分、30分と短くなっていくであろう。30分になれば、東京〜大阪間15分、15分になれば、3分……と枝雀師匠のオチがなんだったか、記憶が定かではないけれど、ポルシェがパナメーラターボからターボSにいたるにあたってやろうとしたのはコレだ。
最高速度を303km/hから306km/hにあげたのは、レースに勝つためではない。4人の大人が東京〜大阪間500kmを移動するのに、1時間39分から1時間37分少々へと1分強短縮したのだ。パナメーラターボSが、その過激な高性能ぶりにもかかわらず、自動車本来のエキサイトメントをストイックなまでに封印し、公共機関を思わせる高速移動ツールに徹しているのは、まさしくレールなきレールを突っ走る高速移動ツールだからである。
(文=今尾直樹/写真=高橋信宏)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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