アウディR8スパイダー 5.2 FSIクワトロ(4WD/7AT)
より快適に、より官能的に 2016.11.30 試乗記 540psの5.2リッターV10エンジンを搭載する、アウディの新型「R8スパイダー」に試乗。アルミとカーボンからなる最新世代の骨格を備えたスーパースパイダーは、より快適に進化したばかりでなく、乗り手の魂を激しく揺さぶる官能性をも手にしていた。スペイン・バルセロナからの第一報。洗練と荒々しさが同居する
より洗練されたクルマ作り――世界中の自動車メーカーにとって、これが極めて重要なテーマとなっていることは間違いないが、同じことはスーパースポーツカーについてもいえる。より静かで、より乗り心地が快適で、より運転しやすいクルマ……。そうした概念をスポーツカーの世界に持ち込んだのは初代「ホンダNSX」の功績であると私は信じているが、2007年にデビューした初代「アウディR8」は、NSXが作り上げたこのトレンドを新たな次元に引き上げたモデルとして忘れることができない。
初代R8はとてつもなく静かで優しい乗り心地のスーパースポーツカーだった。しかも、アウディ自慢のフルタイム4WDシステム“クワトロ”を活用して抜群のスタビリティーを実現。たとえサーキットをフルスロットルで攻めていてもドライバーに緊張を強いない、まるでよくできたスポーツセダンのようなドライビングフィーリングを持ち合わせていた。もちろん、そんな走り方をさせれば並のスポーツカーを凌(しの)ぐ速さを見せつけるのだが、全開走行時でもドライバーは手に汗を握ることがなく、心拍数も平常時とまるで変わらずに済むところがR8のすごさであり、スポーツカーに血のたぎるような興奮を求めるファンには物足りなさにつながりかねない点だった。
ところが、先ごろ日本でも発売された新型R8クーペは大きく変わっていた。一般道をゆっくり流したときの快適性は初代R8と大きく変わらないのに、ワインディングロードを攻めれば背筋がゾクゾクするような興奮と適度な緊張感を味わえる。そしてその走りには、ある種の荒々しささえ認めることができた。洗練と荒々しさが両立した新型R8クーペの世界観は私には大きな謎だったのだが、先ごろスペイン・バルセロナで行われたアウディR8スパイダーの国際試乗会に参加して、自分なりの答えが得られたように思うので、ここで報告しよう。
エンジンは540psの5.2リッターV10のみ
いまどき、オープンモデルの追加を想定しないでスーパースポーツカーを開発する自動車メーカーはまれだろう。2代目アウディR8スパイダーもR8クーペと同時並行的に開発が行われたはずで、当然のことながら両者の成り立ちは極めて近い。
ボディー構造は、アルミ製スペースフレームを基本としながらカーボンコンポジットでこれを補強した最新世代のASF(Audi Space Frame)を採用。新型R8クーペの80kg増しに相当する1720kgの車重と、初代R8クーペに匹敵するねじり剛性を実現したという。
新型R8がデビューした当初、私はそのホワイトボディーの写真を見て、アルミ製スペースフレームの表面に一部カーボンパネルを貼り付けただけと勝手に想像していたが、今回、試乗会場に展示されていたカットモデルを見て、それが大きな間違いだったことに気づいた。センタートンネル、サイドシルの後半部分からBピラー相当部分まで、左右のシートを支えるフロアパネル、そしてリアバルクヘッドを含むボディー構造がいかにも頑丈そうなカーボンコンポジット・パーツとして一体化されており、これが周囲のアルミ製スペースフレームと強固に結合されていたのである。これであれば、オープンボディーにもかかわらず先代クーペ並みのねじり剛性を達成したというのも納得できるような気がする。
オープン化に伴い、6つの閉断面を組み合わせた形状のアルミ製サイドシルは板厚を増して剛性を高めたほか、横転時の安全性を確保するためにAピラーなどを補強。さらにヘッドレストの後側にはポップアップ式のロールバーが装着されている。
パワートレインは同じV10 5.2リッターでも540psと610psの2タイプが用意されるクーペと異なり、スパイダーは540psのみとなる。これはこれで納得できる設定だが、初代はクーペにV8 4.2リッターとV10 5.2リッターがラインナップされ、スパイダーにはこのうちのV10 5.2リッターのみが搭載されていたことを考えると興味深い。なお、ギアボックスはDCTの7段Sトロニック、駆動系は油圧多板クラッチ式4WDのクワトロとなる。
サルーンもかくやの快適さ
バルセロナ空港で待ち構えていたR8スパイダーに乗り込み、早速試乗が始まる。R8スパイダーは基本的にモノグレードだが、試乗車は磁性体でダンパーの減衰力を可変させるアウディ・マグネティック・ライドを装着していた。現在、日本に導入されているR8クーペはすべてアウディ・マグネティック・ライド装着車だが、どうやらヨーロッパでは非装着車も選択できるようだ。そこで非装着車の試乗は翌日の楽しみにとっておき、まずは日本への導入が見込まれるアウディ・マグネティック・ライド装着車をチョイスすることにした。
市内の一般道や高速道路を走って感じるのは、初代R8にも通じる快適性だ。ご存じのとおり、アウディR8と「ランボルギーニ・ウラカン」は兄弟車の関係にあるが、低速域における足まわりのしなやかさはR8スパイダーが「ウラカン スパイダー」を凌いでいる。おかげで路面からのゴツゴツ感とは無縁の、スポーティーサルーン並みの快適な乗り心地が味わえる。この影響で、ウラカン スパイダーとの比較では路面からの情報量がやや少なくなったようにも感じられるが、それはあくまでも「比較すれば……」の範囲内で、R8スパイダーのインフォメーションが決して不足しているわけではない。むしろ、快適性とインフォメーションのバランスという意味では、あらゆるスーパースポーツカーのなかでもトップクラスに位置していると断言できる。
この乗り心地を支えているのが高剛性なボディーであるのは間違いのないところ。このしっかりとした印象は、金属系ボディーのオープンスポーツカーとしてはウラカン スパイダーとともにベストの存在だろう。オープンモデルでは、路面から大入力があった後にそれがボディーの振動として残って収束に時間がかかることがあるが、R8スパイダーはこの点でもウラカン スパイダーと並んで最上級に位置する。ただし、やはり大入力があったときに感じるステアリングの支持剛性だけはウラカン スパイダーのほうが上。もっとも、この差もごくわずかなものであることを申し添えておきたい。
エンジンがドライバーを刺激する
ワインディングロードに足を踏み入れると、新型R8スパイダーは期待どおりの猛獣ぶりを発揮した。こう書くと、コーナリング中にどこへ飛んでいきそうになるジャジャ馬なキャラクターを想像されるかもしれないが、決してそういう意味ではない。基本的にはロードホールディングが良好でスタビリティー感も高いので、安心してステアリングを握っていられる。ところが、初代R8では決して経験できなかったなんともいえない高揚感が全身を満たしていき、自然とアドレナリンがわき出てくるのである。
その理由のひとつはV10 5.2リッターエンジンにある。基本的には初代R8スパイダーと同じ成り立ちのユニットだが、高回転域の伸びやかさがさらに磨かれたうえ、迫力あるサウンドが繊細なバイブレーションとともにドライバーを包み込み、これが乗り手の魂を激しく揺さぶるのだ。エンジンの鼓動でドライバーを刺激するこの手法はウラカンとも共通するもの。いっぽう、初代R8はノイズやバイブレーションが厳格に抑制されており、これが初代特有の“クールさ”に結びついていたことが次第に思い起こされてくる。つまり、エンジンが生み出す官能性をスーパースポーツカーらしい手法で伝えることが、新型R8のキャラクターを生み出すうえで中心的な役割を果たしていたのだ。
「ウラカン」とはここが違う
足まわりについては、もう少し凝った手法が採られている。前述のとおり、低中速域では初代R8をほうふつとする快適性が確保されているのだが、その源となっているのは路面からの振動や騒音を抑え込む、ある種のフィルター効果だといえる。これがサスペンションやボディー構造から成り立っていることはいうまでもないが、初代R8に比べると、新型はこのフィルターがかなり薄めに設定されており、このためワインディングロードを飛ばし始めるとフィルター越しにさまざまなインフォメーションやある種の荒々しさも伝わってきて、これがドライバーを興奮させるひとつの原動力になっているように思われたのである。
ウラカンと新型R8の関係も、このフィルターという概念を用いるとうまく説明できる。ウラカンでは新型R8よりも一段と薄いフィルターを利用し、ドライバーをさらに強く刺激するように工夫されている。もっとも、両車の違いは官能性の部分だけにとどまらず、ウラカンが時にオーバーステア気味のステアリング特性を示すのに対し、新型R8は基本的に弱アンダーステアを保つという、シャシー設定の違いにも表れている。
一夜明け、翌日はアウディ・マグネティック・ライドの非装着モデルに乗ったが、こちらからは新型R8の特徴だと信じていた快適性や洗練をほとんど感じとれなかった。ウラカンにも同様のアダプティブダンパーが装着されているが、この足まわりが新型R8やウラカンの完成度を実現するうえでなくてはならない役割を演じていることがよく理解できた。
いずれにしても、日本仕様はスパイダーもアウディ・マグネティック・ライドが全車に装着されると見込まれる。つまり新型R8スパイダーの幸運なオーナーたちは、中低速域での圧倒的な快適性とワインディングロードでの強い高揚感を、爽快なオープンエア・モータリングとともに満喫できるのである。なんともうらやましい話ではないか。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=アウディ/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
アウディR8スパイダー 5.2 FSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4426×1940×1244mm
ホイールベース:2650mm
車重:1720kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:540ps(397kW)/7800rpm
最大トルク:55.1kgm(540Nm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y/(後)295/35R19 102Y
燃費:11.7リッター/100km(約8.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。
































