スバルXVハイブリッドtS(4WD/CVT)
これぞSTIの走り 2016.12.06 試乗記 富士重工業のモータースポーツ部門を担うSTIが手がけた「スバルXVハイブリッドtS」。オレンジが大胆に配された外観からはカジュアルな印象を受けるが、果たしてその走りの方向性は? “スバリスト”の筆者がリポートする。レース以外のSTIの“顔”
「なぜ、STIがポップでカジュアルなクルマを?」
古くからのスバルファンからはそんな訝(いぶか)しげな声が聞かれそうなほど、XVハイブリッドtSにはSTIのコンプリートカーとしては従来の路線から逸脱した印象を受ける。
しかし、STIは29年前の創設以来、スバルのモータースポーツ活動だけを担う戦闘集団のような存在であったわけではなく、スバルブランドの魅力を底上げする役目も担わされてきたことを忘れてはいけない。そんなSTIが、XVハイブリッドの持ち味を最大限に引き出す方向に力を入れて開発した結果、カジュアルさとポップさがさらに強調され、かつスポーツ性も際立つマシンとなったのである。
デザインのポイントは「内に秘めたる熱い思い」とされ、XVのイメージカラーのひとつでもあり、また人間の精神を高揚させる効果のあるオレンジ(XV純正ボディーカラーのタンジェリンオレンジよりも明るさを増した専用色)の使い方にある。ベタ塗り的に配置するのではなく、要所要所に散らすことで逆に際立たせることを狙ったという。
もちろん、シャシーにはSTIならではの乗り味を実現するためのエッセンスが注入されている。おなじみのフレキシブル系の補強パーツが装着されており、ステアリングギアボックスのクランプスティフナーも専用の強化品となっている。そして、今回のチューニングの肝はダンパー。減衰力の立ち上がり方を適正化し、微振動の低減を図ったことで、操安性だけでなく静粛性の向上にも寄与している。走らせてみると、操舵してからヨーが発生するまでのタイムラグが、体感的にはほぼゼロになっているかのような鋭敏さが実感できた。
「これぞSTIの走りだ!」と思わずニンマリさせられるが、計測データとしては、ベース車比でわずか0.02秒の短縮にすぎないという。しかし、人間の感覚を通すとこれだけでも別物感を覚えることに驚かされる。また、操舵時にフロントタイヤが動きだすよりも先に、リアタイヤの横グリップが立ち上がるかのように、グッと踏ん張った感触が伝わるところも、最近のSTIコンプリートカーの文法通り。これはフィジカルなスポーツで、アスリートが軸足で踏ん張りながらパワーを発揮させる動きそのもので、リアを中心としてフロントが回り込んでいくような感覚に陶酔できた。最小限の操舵量で最大限の動きを得られるSUVは稀有(けう)な存在といえる。また、タイヤの接地荷重が常に安定しているのもポイントで、荒れた路面の上や大きなうねりを通過しても急激な変化が起こらず、ただひたすらコーナリングが気持ち良かった。
開発をまとめたSTIの高津益夫氏は、2016年3月まで富士重工業で「スバルWRX」やXVなどの、いわゆる“インプレッサ系モデル”全般をまとめる立場にあった人物。ベースのXVハイブリッドを誰よりも熟知していたことも自然な仕上がりにつながったのではないだろうか。先般のXVのマイナーチェンジでは、WRX用のリアのクロスメンバーを採用するという大胆なシャシーの補強を実施したが、今にして思えば、それはSTIコンプリートカー作りへの第一歩だったようにも思える。
専用の内外装パーツに、STIチューンのシャシーが加わって約46万円高という価格は、コンプリートカーとしてはお値打ちといっていい。また、冒頭に挙げたようなXVハイブリッドtSに否定的な人も、ステアリングを握れば必ずや納得していただけることと思う。
(文=マリオ高野/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
【スペック】
スバルXVハイブリッドtS
全長×全幅×全高=4485×1780×1550mm/ホイールベース=2640mm/車重=1530kg/駆動方式=4WD/エンジン=2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ(150ps/6000rpm、20.0kgm/4200rpm)/モーター=交流同期電動機(13.6ps、6.6kgm)/トランスミッション=CVT/燃費=--km/リッター(JC08モード)/価格=332万6400円
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

マリオ高野
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
NEW
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。