メルセデス・ベンツE300クーペ(FR/9AT)/E400 4MATICクーペ(4WD/9AT)
華やかなる伝統の継承者 2017.03.30 試乗記 セダン、ステーションワゴンに続き、「メルセデス・ベンツEクラス クーペ」がいよいよ最新世代へとフルモデルチェンジ。W114以来の伝統を誇る、スリーポインテッドスターのミディアムクーペの実力を、スペイン・カタロニアで試した。メルセデス製クーペの“顔”
怒涛(どとう)のラインナップ拡大を続けるドイツ系御三家にあって、メルセデスはC・E・Sクラスと、クーペ&カブリオレのラインナップをとうとうフルコンプしてしまった。いくらブランド・ロイヤルティーが高いとはいえ、それでなくても狭いマーケットで果たしてどう売り分けようというのか。はたで見ているこっちが心配になる。
もっとも、メルセデスの側にも言い分はあるだろう。ウチが直球のクーペ作らんと、どこがやるんですかと。
恐らく会社の片隅にあるだろうその自負を裏付けるものとして、彼らにはセダンベースのクーペを単なる部品工数削減の廉価版でなく、スペシャルなものに仕立ててポジションを確立したという歴史がある。
例えば「ミディアムクラス」のクーペは68年のW114系から6代にわたって続いてきたシリーズものだ。途中、「Cクラス」のプラットフォームがベースとなったり「CLK」などと違う名前で呼ばれたりもしたが、「Sクラス」からクーペが途絶えた70年代は、W123系のそれが市場での存在感を支えてきた。
ラグジュアリーという視点でみれば「Sクラス クーペ」には当然かなわない。それは「BMW 6シリーズ」とも一線を画し、ベントレーやロールスと対峙(たいじ)するハイエンドモデルだ。が、継続という視点でみれば、真ん中の「Eクラス」こそがメルセデスのクーペの顔だろう。
大人4人がしっかり乗れる
新型Eクラス クーペは、先に触れたメルセデスのフルライン戦略にのっとり、純粋にEクラスをベースとしたアーキテクチャーへと移行した。それに伴い車格はひと回り大きくなり、それこそかつての「CLクラス」辺りに近いほどのたたずまいとなっている。程よい車格感に引かれていた向きには「Cクラス クーペ」がありますよ、という寸法だろう。
単なる大小関係だけが差別化ではない……ということで、新型Eクラス クーペで力が注がれたポイントのひとつが後席居住性だ。Eクラス セダンに対してホイールベースは67mm短いものの、それでも前後席間はフル4シーターとして十分なところを確保できる。その上で前席背面や後席座面形状、ルーフライナー形状にも工夫を加え、大人4人がしっかり座れる空間とし、遮音材の適切配置で静粛性にも気が配られたという。
実際、後席に座ってみるとその意気込みは十分に感じ取れる仕上がりとなっていた。乗降性はさすがにそれなりだが、おさまってしまえば181cmの巨漢をして、頭まわりは背筋を伸ばしてもギリギリのクリアランスが保たれている。前後席間もくつろがせてもらうに不足はない。何より、後軸付近に座っているとは思えない突き上げのまろやかさや静粛性の高さには驚かされた。時折後席に人を乗せることを考えて、自分の嗜好(しこう)であるクーペをちゅうちょしていたという向きにも、これなら十分検討に値するだろう。
“シンプル仕様”でも十分に快適
新型Eクラス クーペのラインナップのうち、現状日本に導入予定となっているのは「E300」と「E400 4MATIC」の2グレードのもようだ。前者に搭載されるのはセダンの「E200」にも搭載される2リッター4気筒直噴ターボのハイパワーバージョンで、その出力は245ps、0-100km/h加速は6.4秒と“十分”と評される以上のパフォーマンスを備えている。そして後者に搭載されるのは3リッターV6直噴ツインターボで最高出力は333ps、0-100km/h加速は5.3秒と余裕の動力性能だ。組み合わせられるトランスミッションは両車共に「9Gトロニック」ゆえ、高速巡航の燃費もそれなりに期待できるだろう。が、個人的には音・振動といった快適要素も高レベルでまとめられた「E220d」の導入も検討に十分値するのではないかと思う。
モノレートダンパー、アダプティブダンパー、そしてマルチチャンバー式エアサスと、新型Eクラス クーペには仕様に応じて大きく3種類のサスペンションが用意される。今回は日本仕様で最もベーシックな組み合わせとなるだろうモノレートの18インチと、その真逆にあたるエアサス&20インチというペアを試したが、乗り心地的な面でいえば前者もかなりのレベルにあることが確認できた。昨今のメルセデスはなぜか日本の路上で乗るとランフラットタイヤの縦バネ特性が鋭利な突き上げとして表れることが多いが、Eクラス クーペについてはよほどの凹凸でもなければそれを感じることはない。このままのフィーリングが日本仕様でも再現されれば、その立ち位置にふさわしい快適性を備えることになるだろう。
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メルセデスならではのスポーティネス
ダイナミクスについてはクーペの成り立ちに沿った軽快感を備えてはいるが、刺激的といえるほどのドラマはない。操舵応答性やゲインの立ち上がり感などはあくまで他のメルセデスの延長線上にあり、ライバルに比べればスロットルもブレーキも、すべての操作量が大きめに取られている。気張らずともゆったりと走れて、その気になればスッと優しくドライバーの意思に応える、先代、先々代と代々のモデルが受け継いできたちょうどいいスポーティネスは、新型でもしっかりと受け継がれていた。
個人的には何より、クオーターウィンドウがしっかりと開閉するBピラーレスのキャビンデザインを守ってくれたことがうれしい。全長はやや長めだが、そのぶんリアデッキの存在感が高められるなど、スタイリング的にもCクラス クーペとはひと味違う優雅さをたたえている。窓を開け放ってのクルージングはこのクルマならではのぜいたくなひと時だが、ヘタなオープンカーより目立ってしまうのが玉にきずだろうか。ともあれ、新型Eクラス クーペはメルセデスの華やかな伝統を受け継ぐものとして、きっちりとその役割を果たしている。
(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE300クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4826×1860×1431mm
ホイールベース:2873mm
車重:1685kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:245ps(180kW)/5500rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1400-4000rpm
タイヤ:(前)225/55R17/(後)225/55R17(標準サイズ)
燃費:6.4リッター/100km(約15.6km/リッター、EU複合モード)
価格:4万9051.8ユーロ(ドイツでの車両本体価格、付加価値税19%を含む)/テスト車=--ユーロ
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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メルセデス・ベンツE400 4MATICクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4826×1860×1438mm
ホイールベース:2873mm
車重:1845kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:333ps(245kW)/5200-6000rpm
最大トルク:49.0kgm(480Nm)/1400-4000rpm
タイヤ:(前)245/45R18/(後)245/45R18(標準サイズ)
燃費:8.1リッター/100km(約12.3km/リッター、EU複合モード)
価格:6万4807.4ユーロ(ドイツでの車両本体価格、付加価値税19%を含む)/テスト車=--ユーロ
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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