メルセデス・ベンツE400 4MATICクーペ スポーツ(4WD/9AT)
万能グランドツアラー 2017.08.03 試乗記 スリーポインテッドスターにとって最新の2ドアモデルである、新型「メルセデス・ベンツEクラス クーペ」。「W114/W115」時代から受け継がれてきた伝統のピラーレスハードトップがもたらす開放感に浸りながら、メルセデス自慢の先進装備の出来栄えを試した。今や希少な2ドアハードトップ
日産自動車の「スカイラインクーペ」も今はなく、あとはトヨタ自動車の「レクサスRC/LC」を残すのみと、日本メーカーのものは“絶滅危惧種”となりつつある高級2ドアクーペだが、メルセデス・ベンツはいまだに主力セダンの「Cクラス」「Eクラス」「Sクラス」のすべてにクーペタイプの車種をそろえている。そのクーペシリーズの最新作が「Eクラス クーペ」だ。ただし、メルセデスのクーペの名称の変遷は少々ややこしい。メルセデスではSクラスのクーペを「CL」、Eクラスのクーペを「CLK」と呼んでいた時代があったが、Eクラスでは先代から、Sクラスでは現行型から、それぞれ名称が「Eクラス クーペ」「Sクラス クーペ」に改められた。また2011年には一クラス下に「Cクラス クーペ」も設けられ、主力セダンすべてにクーペがそろった。
Eクラス クーペを目の当たりにしてまず異彩を放っているのは「2ドアハードトップ」であることだ。ハードトップとは、センターピラーのない車体構造のことで、このEクラスのドアはサッシュレスであるうえにセンターピラーもない。さらにドアウィンドウもサイドウィンドウもすべて開閉可能なので、窓を下げると非常に開放感のあるドライブを楽しむことができる。これに対して、Cクラス クーペはセンターピラーを持つ構造なのが異なる(ちなみに上級のSクラス クーペもハードトップである)。
内装はまるで「Sクラス クーペ」
デザインの差が大きかった先代のCクラス、Eクラス、Sクラス(のセダン)に対して、現行型はC、E、Sクラスとも、よく似ている。クーペでもフロントまわりやテールランプのデザインはよく似たデザインになった。それでも、セダンよりも各モデルを見分けやすいのは、リアピラーの形状がそれぞれ異なっているからだ。Cクラス クーペはリアピラーの根本でウエストラインが切れ上がっているし、Eクラスは水平基調で、大きなリアクオーターウィンドウが設けられている。そしてSクラスはなだらかに上昇するウエストラインでそれと判別できる。
特にEクラス クーペは、先代はセダンのデザインを反映してリアのホイールを強調するプレスラインが設けられており、テールランプのデザインもセダンと似た角ばったデザインだった。これに比べると新型Eクラス クーペはプレスラインの少ないシンプルでスリークな造形となり、丸みを帯びたグリル形状やヘッドランプデザインも相まって、見るものにより洗練されたイメージを与える。
一方で、新型Eクラス クーペの内装は、Eクラス セダンとほぼ共通である。もともとEクラスのインストゥルメントパネルのデザインはかなりSクラスライクなものなので、Eクラス クーペも同様にSクラス クーペライクなものとなっている。ただし、Eクラス クーペで独自のデザインとなるのが、空調の吹き出し口のグリル形状である。セダン、およびSクラス クーペではルーバーの形状が横基調なのに対して、クーペでは放射状の、よりスポーティーなデザインとなっている。これだけでも雰囲気がずいぶん違うから不思議だ。
試乗車のインストゥルメントパネルは水色の本革をあしらったぜいたくかつ個性的なもので、質感に文句があるはずもない。ただし、そこに張られた黒色の樹脂製パネルについては、改良の余地ありと感じられた。表面に木の導管のような模様を付けてあるのだが、本革の箇所と比べるとやはり見劣りするのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
速くて快適、かつ実用性も持ち合わせる
Eクラス クーペで何といっても魅力なのが、冒頭でも触れたように、現在では貴重になった「ハードトップ」であることだ。サイドウィンドウを開け放つと、最近ではめったにお目にかかれない広い開口部が現れる。さらに試乗車は大きなグラスルーフを備えていたので、室内、特に後席からの眺めはクーペという名称からは想像もできないほど開放感にあふれていた。
意外と実用性に優れているのもEクラス クーペの特徴だろう。全長が4830mmもあるのだからある意味当然かもしれないが、流麗なデザインに似合わず、後席には大人の男性2人が座れるスペースが確保されている。トランクスペースも乗車定員分の荷物程度なら十分に積める容量が確保されており、しかもリアのシートバックが分割可倒式なので、長尺物の収容も問題ない。リアシート中央部のみを前に倒せば、大人4人が座りつつスキー板を運ぶこともできる。
試乗車は排気量3リッターのV型6気筒ツインターボエンジンを積み、四輪駆動機構を備える最上級車種の「E 400 4MATICクーペ スポーツ」である。このエンジンに、従来の7段から9段に変速段を増やした最新の自動変速機「9Gトロニック」を組み合わせる。サスペンションは、フロントがダブルウイッシュボーンのアームを上下とも2本にした4リンク式、リアがマルチリンク式で、これにエアサスペンションを組み合わせる。
その走行性能だが、正直に言って、最高出力333psを発生するこのエンジンの本領を日本の公道で発揮させるのは不可能だ。アクセルにのせた足に少し力を入れるだけで、1970kg(パノラミックスライディングルーフ装備の場合)の車体を猛然と加速させる。その際の騒音も低い。通常のクルーズ時の静けさは言わずもがなである。
最もパワフルな高性能グレードであるにもかかわらず、エアサスの威力で乗り心地は快適だ。高速道路の段差乗り越えはもとより、多少路面の荒れた一般道路でも、柔らかくいなすようにこなしていく。ただ、センターピラーのないハードトップボディーゆえ、当然ながらボディー剛性はセダン並みとはいかない。サスペンションからの衝撃が車体に加わったときの振動はセダンよりも大きく伝わってくる。ただしその振動の伝わり方が、いかにもメルセデスらしいのが不思議だ。乱暴な例えだが、同じ音色が少し大きいボリュームで伝わってくるというところか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
運転支援機能に見る信頼感
最後に、最新の運転支援機能「ディストロニック&ステアリングパイロット」を試してみよう。Eクラス クーペのシステムは、中・長距離用のミリ波レーダーと、近距離監視用の5つのミリ波レーダー、ステレオカメラを主たるセンサーとして用いている。さらに周辺監視用の超音波センサーが12個と、合計で20個ものセンサーを備える計算だ。
自動操舵機能である「ステアリングパイロット」の特徴は、カメラで白線を検知して車線を維持するだけでなく、白線が認識できないときでも、ガードレールや先行車両などを認識することで、極力車線を維持しようとすることだ。実際、車線が消えかかっているようなところでも、確かに車線を維持し続けることができ、そのハンドルさばきには安心して操作を任せられる感触があった。
ただし、やや気になったのは、ときどきステアリングに手を添えているのに「ステアリングを握ってください」という警告表示が出ることだ。こういうときは、ステアリングを左右に少し振ってやると、センサーがそのトルクを確認し、警告表示は消える。
このシステムは、自動でステアリングを動かすときの抵抗値で、ドライバーが手を添えているかどうかを判別している。直線が続くとステアリングをまわす機会が少なくなり、その確認ができなくなることから、こういう警告が出る頻度が高まる。将来的にはステアリングにタッチセンサーを備えるようなことも検討課題になりそうだ。
総じて言えば、新型Eクラス クーペは、より洗練された内外装デザインと、大人4人とその荷物に対して実用的なスペースを備えたグランドツアラーだといえる。新たに装備された運転支援機能を駆使することで、長い距離の移動も苦にせずこなすことができそうだ。これからのバケーションシーズンに、まさにふさわしい一台といえるだろう。
(文=鶴原吉郎/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE400 4MATICクーペ スポーツ
全長×全幅×全高=4855×1860×1430mm
ホイールベース:2875mm
車重:1970kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:333ps(245kW)/5250-6000rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgm)/1600-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y XL/(後)275/35R19 100Y XL(ミシュラン・プライマシー3 ZP MOE)※ランフラットタイヤ
燃費:10.7km/リッター(JC08モード)
価格:1037万円/テスト車=1084万1240円
オプション装備:メタリックペイント<カバンサイトブルー>(9万円)/エクスクルーシブパッケージ<パノラミックスライディングルーフ[挟み込み防止機能付き]+ブルメスター・サラウンドサウンドシステム+エアバランスパッケージ[空気清浄機能+パフュームアトマイザー付き]>(27万円) ※以下、販売店オプション フロアマットプレミアム(9万1800円)/プレミアムラゲッジカーペット(1万9440円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2194km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:262.9km
使用燃料:31.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
ポルシェ911ターボS(4WD/8AT)【試乗記】 2026.9.29 「ポルシェ911」シリーズのなかでも最上位に位置するモデル「ターボS」。ポルシェ独自のハイブリッドと2基の電動ターボチャージャーを得た最新モデルは、どのような走りを備えているのか? 最高出力711PSのハイパフォーマンスモデルの実力に触れた。
-
NEW
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
NEW
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
NEW
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。


















































