トヨタ・ヴィッツ ハイブリッドU“Sportyパッケージ”(FF/CVT)
遅れてきたハイブリッド 2017.04.07 試乗記 「トヨタ・ヴィッツ」に、マイナーチェンジでハイブリッドモデルが登場。デビュー7年目のBセグメントコンパクトに、大幅改良が施された“理由”とは? 新たに誕生したハイブリッドコンパクトの出来栄えとともにリポートする。Bセグでもハイブリッドが必須に
なぜ今ごろ?――というのが最初の感想だった。2017年1月の部分改良で追加されたトヨタ自動車「ヴィッツ ハイブリッド」のことである。すでにヴィッツの欧州仕様である「ヤリス」にはハイブリッド仕様が以前から用意されているのだが、国内には同じBセグメントにハイブリッド専用車の「アクア」があり、これとバッティングするということで、エンジン車はヴィッツ、ハイブリッド車はアクア、というすみ分けが、トヨタ車の中ではできていた。ヴィッツを販売する「ネッツ店」でもアクアは扱っているから、それで十分、という判断だったのだろう。
現行型のヴィッツは、発売からすでに6年が経過している。歴代のヴィッツが5~6年で全面改良していたことを思えば、モデル末期と考えても差し支えないだろう。そのモデル末期に、わざわざハイブリッドモデルを追加する必要がなぜあったのか。一つには、ヴィッツが属するBセグメントでも、ハイブリッド仕様の設定が、もはや必須になっていることがある。
2010年12月に現行型のヴィッツが発売されたとき、Bセグメントのハイブリッド車はホンダの「フィット ハイブリッド」しかなかった。しかし現在では、日産自動車の「ノートe-POWER」があり、スズキも新型「スイフト」にマイルドハイブリッド仕様を設定している。ハイブリッドシステムを搭載していないのはマツダの「デミオ」くらいだが、デミオには低燃費のディーゼル仕様がある。ガソリンエンジン仕様しかないヴィッツがこれらの競合車に対抗するにはハイブリッドを設定する必要があった。
デザイン、車体も大幅変更
二つ目の理由は、ヴィッツの全面改良が遅れていることだ。先ほども触れたように、現行型ヴィッツは本来なら、すでに全面改良を迎えてもいいころだ。このタイミングで部分改良をしたということは、少なくともあと2年ほどは、現行型を販売し続けるという意思表示と考えていいだろう。なぜそれほどまでに、ヴィッツの全面改良はずれこむのか。
理由として考えられるのは、開発リソースの問題だ。トヨタは現在、クルマづくりを一新する「TNGA(Toyota New Global Architecture)」の導入を進めており、Cセグメントでは2015年12月発売の現行型「プリウス」、Dセグメントではこの冬に北米で発表された新型「カムリ」、高級車向けの新世代プラットフォームは新型クーペの「レクサス LC」から、それぞれ採用を始めたところだ。
TNGAは、エンジン、変速機、車体、シャシーのすべてを一新する巨大なプロジェクトであり、トヨタといえども、すべてのセグメントで同時に進めるのは難しいだろう。現に、同様の改革を進めているドイツのフォルクスワーゲンは、新世代モジュールプラットフォーム「MQB」を2012年発売の7代目「ゴルフ」から採用し始めたが、Bセグメント車では依然としてMQBの採用が始まっていない。次期ヴィッツにはBセグメント向けのTNGAが導入される見込みだが、開発に時間がかかることは想像に難くない。今回のハイブリッドの導入は、延命のためのテコ入れ策という意味合いも大きい。
テコ入れはハイブリッド仕様の導入だけではない。フロントグリルやバンパーの形状が全面的に変更されているのは驚かないが、異例なのはリアのデザイン変更である。通常ならテールランプのレンズを変えるくらいですませるところが、テールゲートのプレス部品まで形状を変更し、テールゲート上にもレンズを配置した横長のデザインとしたのだ。部分改良でリアのプレス部品にまで手を入れるというのは極めて異例である。見た目だけではなく、車体はスポット溶接箇所を増やしたほか、インストゥルメントパネル周辺の補強材の厚みを増し、車体剛性を向上させている。さらにダンパーの構造も変更し、走行安定性と乗り心地を両立したとしている。
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アクアのシステムを改良して搭載
ヴィッツ ハイブリッドに搭載されたハイブリッドシステムの中身は、基本的にはアクアそのままなのだが、エンジンの改良によって燃焼効率を改善したほか、エンジン内の摩擦も減らしている。さらに、電池に電流を出し入れするときの制御も改良することで、アクアよりもシステム全体の効率を改善しているという。それでは肝心の走りはどうだろうか。
まず一般道路を走りだして気づくのは、意外と乗り心地が硬いということだ。道路の凹凸をかなり直接的に伝えてくる感じで、硬めのシートもその印象を強くしている。ヴィッツは女性ユーザーが多いクルマというイメージがあったのだが、この乗り心地はどう受け止められるのだろうと、余計な心配をしてしまった。
溶接点を増やすことで向上させたという車体剛性だが、残念ながらこの硬めの足まわりからのショックを受け止めきれていない感じで、大きなショックが伝わると細かい振動が残る。この、車体剛性と乗り心地のバランスという点では、同じBセグメントで最新のプラットフォームを採用したスズキの新型スイフトのほうが確実に上だ。設計年次の差が6年もあるから、横並びの比較は酷かもしれないが。
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中身の進化は次期モデルに期待
高速道路では、一般道路から印象が好転する。低速域で感じた足まわりの硬さも、速度を上げていくと安定感のある乗り心地に変化する。ちょっと褒め過ぎかもしれないが、車格に似合わないどっしりとした乗り味だ。ステアリングを切り込んでいったときの車体の反応も遅れが少なく、車両をコントロールしやすい。日本のBセグメント車では少ない、欧州的な乗り心地を目指して足まわりをセッティングしているのかもしれない。
動力性能は必要にして十分だし、踏み込んでいけばモーターのトルクを生かした加速力を得られるのだが、基本的には燃費を重視したセッティングのため、アクセルを軽めに踏んだときの加速は他車と比べて控えめで、街中を走っていてあまり軽やかな感じはしない。また新型スイフトとの比較になってしまうが、アクセルを踏むとすっと前に出るスイフトに比べて、軽快感という点では劣る。マイルドハイブリッド搭載のスイフト(ハイブリッドML、FF仕様)の車両重量が900kgなのに対して、ヴィッツ ハイブリッド(ハイブリッドU)は1110kgと200kg以上重いから、その影響もあるかもしれない。ただし燃費は優秀で、今回の試乗では156kmの走行で、燃費計の読みで19.8km/リッター、満タン法で20.2km/リッターという値を示した。
ヴィッツ ハイブリッドは今回の部分改良で、デザイン的には大幅に若返ったと思うのだが、中身がそれほどに進化していないのが残念だ。基本は6年前に発売された車種の改良版であり、抜本的な進化は、TNGAを採用した次期モデルの登場まで待たなくてはならないだろう。
(文=鶴原吉郎/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタ・ヴィッツ ハイブリッドU“Sportyパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3945×1695×1500mm
ホイールベース:2510mm
車重:1110kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:111Nm(11.3kgm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:169Nm(17.2kgm)
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマdB E70C)
燃費:34.4km/リッター(JC08モード)
価格:223万7760円/テスト車=279万6120円
オプション装備:SRSサイドカーテンエアバッグ<運転席・助手席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>(4万3200円)/LEDランプセット<Bi-Beam LEDヘッドランプ[オートレベリング機能付き・スモークメッキ加飾]+LEDクリアランスランプ+リアコンビネーションランプ[LEDライン発光テールランプ]&6灯LEDストップランプ>(8万6400円)/ナビレディセット<ステアリングスイッチ[オーディオ操作]+6スピーカー&バックカメラ>(3万5640円)/フロントフォグランプ(1万0800円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビ 9インチモデル DCMパッケージ(30万5640円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビ連動タイプ(3万2400円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)/工場装着バックカメラ用ガイドキット(1万1880円)/フロアマット<デラックス>(2万2680円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1806km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:155.8km
使用燃料:7.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.2km/リッター(満タン法)/19.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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