第406回:トレンドはクロスオーバーと電動化!
上海ショーの会場から中国市場の今を読み解く
2017.04.25
エディターから一言
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世界最大の自動車マーケットである中国では、北京と上海で毎年交互にモーターショーが行われる。今年の開催は、4月19日に開幕した上海ショーだ。世界中のメーカーが鎬(しのぎ)を削る、世界最大市場の動向を反映するショーの様子をリポートする。
複雑な中国市場のメーカー事情
中国の自動車マーケットは世界一だ。2016年は2800万台もクルマが売れた。鈍化したとはいえ、前年比で約14%のアップ。「中国の成長は終わりだ」という意見もあるが、自動車マーケットに関していえば、まだまだ先進国とは別次元の勢いがある。そんな市場であるから、日本だけでなく欧州やアメリカからも自動車メーカーが参戦。地元の民族系ブランドもあわせて、世界最多のブランドが鎬を削る激戦区となっている。今年の上海モーターショーでは、自動車メーカーのプレスカンファレンスだけでも2日間で106も開催された。それだけのブランドが、このマーケットには存在しているのだ。
その中国市場のシェアは、地元民族系が45%ほど、欧州系が20%、日系が15%、アメリカ系が12%、残り8%が韓国ブランドとなっている。欧州ではドイツ系が圧倒的で、フォルクスワーゲンとアウディの人気が高い。日系では日産がトップで、2位をトヨタとホンダが争うという状況。アメリカは、GMのシボレーとビュイック、フォードが有力ブランドだ。ちなみに完全輸入となるフェラーリやポルシェ、ランボルギーニ、ベントレー、ロールス・ロイスという超高級ブランドも、中国市場は大のお得意さま。それぞれに大きなブースを構えており、一般公開日は恐ろしいほどの観客を集めるのだ。
また、地元資本のブランドにも2種類あるのが中国の特徴だ。実は外国ブランドが中国でクルマを生産するには、地元資本と提携しなければならない。しかも、地元資本は独自ブランドの自動車を生産しているところばかり。そのため、外国ブランド車は、そのブランドのブースだけでなく、生産を担当する地元資本ブランドのブースにも展示されていたりする。一方で、外国ブランドと提携せずに独自路線を進む民族系中国ブランドもある。提携ブランドは、第一汽車、上海汽車、北京汽車、東風汽車、広州汽車などの大手が中心だ。そして独自路線の民族系の代表格が、DYB(もともと電池メーカー)やジーリー(ボルボを買収した会社)、チェリーなどとなる。
欧州勢が仕掛ける“ワールドプレミア”攻勢
中国で人気が高いのがドイツ系。特にフォルクスワーゲンは、古くから中国市場に進出しており、中国人にも特に親しみの強いブランドだろう。そのフォルクスワーゲンが“ワールドプレミア”として持ち込んだのが電気自動車(EV)のコンセプトモデル「I.D.CROZZ(クロス)」だ。すでに発表されているハッチバックとミニバンに続くI.D.ファミリーの3台目は、流麗な4ドアクーペ風の上屋を持つクロスオーバーだ。フォルクスワーゲンは2025年にはEVを100万台販売するとぶち上げており、その主役となるのがI.D.ファミリーとなるのだろう。I.D.CROZZは2020年に中国と欧州で発売すると発表した。
一方、VIPや役人御用達として、中国で高いブランドイメージを持つのがアウディ。こちらの“ワールドプレミア”もフォルクスワーゲン同様の4ドアクーペ風クロスオーバーとなる「e-tronスポーツバック コンセプト」だ。一見、I.D.CROZZの兄弟車? とも思ったが、よく見ればアウディの方が2まわりも大きい。最高出力も370kW(約503ps)と性能も格段の差。こちらは2019年に市場投入するという。
メルセデス・ベンツは、あっと驚く「コンセプトAセダン」を発表。従来のハッチバックを基本としたものではなく、オーソドックスな3ボックススタイルを採用しており、次世代のコンパクトクラスの激変を予感させる。また、メルセデス・ベンツは「Sクラス」のマイナーチェンジモデルを、ここ上海でアンベール。BMWは、後席が広いクルマを好む中国市場で人気の、ロングホイールベース版の「5シリーズ」を発表している。
シトロエンは「C5エアクロス」の量産モデルを発表。2年前の上海ショーで発表したコンセプトのスタイルをキープしており、2017年中に中国での販売が開始されるという。
日系ブランドの新型車はSUVが中心
これに対し、日系ブランドは日産が「キックス」の中国導入を発表。キックスは昨年(2016年)秋にブラジルから市場投入がスタートしたコンパクトSUVの世界戦略車である。日産は、他にもマイナーチェンジした「エクストレイル」とピックアップトラックの「ナバラ」をあわせて投入することで、SUVラインナップを強化したのだ。
ホンダは「CR-Vハイブリッド」「アキュラTLX-Lプロトタイプ」の2台を発表。後者はアキュラブランドのミドルサイズセダン「TLX」を、中国市場向けにロングホイールベース化したものだ。
また、トヨタは「レクサスNX」のマイナーチェンジモデルを発表。さらに同社のクルマづくりの思想であるTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)を紹介するため、わざわざ中国人スタッフの手になる2つのデザインコンセプトを披露した。見た目は「C-HR」や「カムリ」とそっくりであるが、新たに中国向けに作り直した新作だという。
スバルも、トヨタと同じようにSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を紹介。スズキは「イグニス」の中国導入と、「SX4 S-CROSS」のマイナーチェンジ版を発表。マツダは「ロードスターRF」と「CX-3」の中国導入をアナウンスしている。三菱は昨年パリショーで発表した「GT-PHEVコンセプト」と2015年の東京モーターショーで発表した「eXコンセプト」の2台を中国で初披露した。
電化は進み、SUVはクロスオーバー風に
ドイツ系ブランドと日系ブランドの“ワールドプレミア”を並べてみれば、見事なまでにSUVばかり。メルセデス・ベンツのコンセプトAセダンとBMW 5シリーズのロングホイールモデル、アキュラのTLX-L プロトタイプを除けば、ほぼSUVなのだ。
しかも、スクエアなSUVではなく、クーペのようなルーフラインを持ったモデルが多い。走破性能をアピールするクロスカントリー車というよりも、都会派のクロスオーバーが目立つのだ。
「クルマを初めて購入する人はセダンを買いました。次にクルマを乗り換えるときは、同じセダンではつまらないからSUVにしようと思う人が多いようです」と現地ディーラーの営業マンが説明していたように、近年の中国ではSUVの販売が猛烈に伸びている。そして、次なるムーブメントとしては、4ドアクーペ風のSUVということになるのだろう。
ちなみに、プラグインハイブリッド(PHV)やEVも、最近の中国のトレンドだ。これは流行というよりも、中国政府の思惑が背景にある。「中国でビジネスをするときは、政府のバックアップがなければ、どうにもなりません。政府の方針に逆らった会社はつぶれてしまいます。ですから、中国の自動車メーカーが電化を進める政府の方針に沿うのは当然のこと。また、市民も同じように考えています」という現地販売スタッフの説明も聞いた。実際にPHVやEVには2~4万元(26~52万円)程度の補助金も用意されている。街を見ると、緑色のナンバーを付けた“環境車”もチラホラと見かけることができた。政府の方針が変わらなければ、中国で電化車両が普及するのは、時間の問題といえるだろう。
クロスオーバーSUVと電化。この中国でのトレンドを、今回の上海ショーでしっかりキャッチアップしていたのはどこか? それは、ずばりドイツ。フォルクスワーゲンとアウディだ。I.D.CROZZとアウディe-tronスポーツバック コンセプトは、中国のトレンドそのものではないか! ドイツブランドの力の入れようを見ると、中国における日系ブランドの将来が少々不安になってくる。そんなショーであった。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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