第434回:ちょい乗りレクサスLFA in 横浜
〜スーパーカーはやっぱりナショナリズムだ!
2011.09.14
小沢コージの勢いまかせ!
第434回:ちょい乗りレクサスLFA in 横浜 〜スーパーカーはやっぱりナショナリズムだ!
いったいなんなんだろうこのスゴさ
やっと乗れましたよ、「レクサスLFA」! といっても横浜みなとみらい周辺でほんの30分程度(笑)。つまり真価が分かった! とかしゃぶり尽くした!? なーんて全く言えないんですけど、乗れば乗ったで感じるところありましたわ。これはこれでスゴいクルマだと。
というのもぶっちゃけ、LFAって少々“顔が見えない”存在だったと思うわけですね。レクサス初のスーパーカーっつうか、久々の日本発スーパーカーで、「トヨタF1」マインドあふれる4.8リッターV10をフロントミドに積み、ボディは65%がハイテク素材のCFRPで残りはアルミとか、エンジンは560psで最高速325km/h以上とか、そういう基本的スタイルやスペックのスゴさはよく分かる。
でも「日産GT-R」みたいなフルタイム4WDの“全天候型スーパーカー”とか超ジャパネスクデザインをまとってるわけではなく、いわゆるクリーンなFRスタイル。しかも強烈なうたい文句や思想を語る言葉はそこになく、先日ドイツのニュルブルクリンクで市販車最速タイムをたたき出したわけだけど、ことさら「ニュル伝説」を強調する風もない。
V10エンジンだって技術的にはスゴいが、既にBMWもランボルギーニもアウディもやってるし、どちらかというとモリゾー社長がこれでレースに出たことの方が有名になったかも……みたいな。
でも乗ってみてちょっと分かったなぁ。これはこれで日本っぽく、ある意味“作り込み”の塊なのだと。同時につくづくスーパーカーとは“国の代表”なのだと。
マジメなV10サウンド
中に座ってまずシビれたのは囲まれ感の強さ。FR車だけあってインストゥルメントパネルが目の前に切り立っているだけでなく、センターコンソールもレクサスならではの操作系満載で切り立っており非常にタイト。造形もダッシュボードとその下が平行になった“2段棚”的構造で、包まれるというより「小さな部屋」に入った感じ。ある意味「茶室」的な落ち着きすら覚えるとでも言いますか。
それからディテールの作り込みだ。ドアノブやレバー、スイッチ類は本当に精緻(せいち)で剛性感も高く、さすがはLFA! 3750万円の価格も納得だけど、実はチタン風パーツの素材は、リアルチタンではなく、その辺りはヨーロッパ車的な本物志向とは全く異なる。
一方、メーターや操作系はヤケにハイテクで、ドライバー前は全体がデジタルモニターになっていて、中央にはデカく1万回転(!!)まで刻まれたアナログ表示のタコメーター、中に分数みたいな、分子部分に時速、分母にギアポジションを表示するデジタル表示が備わり、周りに油温、油圧、ガソリン残量、水温と並んで非常に分かりやすい。このあたりはGT-Rとは違うが、日本のハイテクカルチャーを感じる。
それと走りよね。とにかくシートポジションが低く、ロールは少なく、走り始めから地面をはうよう。だけどその割に乗り心地は良くって、ステアリングフィールもシャープだし、切ったなりに正確に曲がるんだけど過剰なダイレクトさは全く無い。
さらに例のV10よ。とにかくそのサウンドは「裏のスピーカーから鳴らしてんじゃないの(笑)」ってくらいにキモチ良くって、甲高いメカニカルサウンドが、クォォォォォォォン〜♪と全身を突き抜けるんだけど、決して開放的ではない。決定的なのは排気音とのバランスで、最近のV8フェラーリにしろ“走る管楽器”と言いたくなるほど、プォォォォォォォォ〜♪と排気音が響きわたるのにLFAはそれがメカノイズを絶対に超えない。
それはV10の複雑な特徴を出そうとした結果なのかもしれないけど、俺は「マジメな音作りだなぁ」と感じてしまった。きっとメカはメカ、その音を出すのが本来あるべき姿だと思ったのではあるまいか。だけどさぁ……。
素直な思いがカタチになった
さっき言ったダイレクト過ぎないハンドリングや囲まれ感の強いインテリアにせよ、悦楽的とか享楽的っていうのとはちと違っていて、禁欲的。どちらかというと速くなった分、重荷を背負っているという感じすらあり、個人的にはLFAに乗ってると“甲冑(かっちゅう)を着る”というか“鎧(よろい)をまとう”ような気分になってしまった。
エクステリアもそう。確かに低くて広くてカッコいい。でも、これ見よがしなディテールとか、押し出しの強さはあんまり無いじゃない。どちらかというと少年の夢の延長線上にあるような……。
だからつくづく思ったな。スーパーカーってのは、一部ブランドを除くと本当に会社のポリシーというか、作り手の思想が出てしまうもので、LFAにはトヨタのマジメさというか、指向性がジワジワにじみだしていると。
LFAの場合、ボディはほぼ内製で、エンジンはヤマハ担当だそうだけど、大きく見ればチームジャパン。そのスケール感が透けて見えているようだ。
おそらくLFAは、いま日本が持てる技術でカッコいいものを出そう、スゴいモノを出そう、と思っただけなのだろう。そこに妙なハッタリや思想はなく、本当に素直な思いのみがある。
逆に言うと、ナンの変哲もない大衆車を作っただけで「コレは世界一カッコイイです」とか「技術的には他に絶対負けません」と平気で言い切る欧米メーカーにそこが負けているのだ。
レクサスだってわかってない!?
正直、今回乗ってみて、こんなにスゴいモノを作ったのに、これを語る作り手の言葉がなく、マスコミ試乗会もほとんどやらない姿勢は本当にもったいないと思った。レクサスの姿勢でも、エコでも美しさでもなんでもいい。なにか言えばいいじゃない。特にLFAは売って儲けるつもりにはあまり見えないし、となるとますます主張をとがらせるべきでは……。
それと同時に今回俺は驚いたのだ。LFAのあまりの注目度の高さに。たまたま試乗会場の隣がホテルで、デカい会議の直後だったからかもしれないが、平日夕方なのにびっくりするくらいの人だかり。
「これってスーパーカーですよね……スゴいわ」と一様に響いてて、つくづくクルマ、それも普通じゃないクルマの集客力って捨てたもんじゃないんだなぁって思った。
ただし、何人かに聞いたけど、コレが“レクサス”だって分かってる人がほとんどいないのはがっかり。「スゴいけど……外車ですか、これ?」と。「L」マークだけでは地味すぎて誰も気づかないのだ。
要するに日本人、特にプロダクト界、今一番必要なのは「言葉」であり「ハッタリ」なのだ。まあどうでもいい政治家発言の揚げ足取りで無駄に税金使ってるような国だから、慎重になるのも分かるけど、これだけスゴいクルマを作ったんだからもっとデカいクチたたいてもらいたい! 大きめの夢を語ってもらいたい! つくづくそう思ったわけですよ、レクサスさんでありトヨタさん。
ホント、沈黙は美徳……はやめましょうね!!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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