2040年には内燃機関はサヨウナラ!?
世界的EVブームの裏事情
2017.09.04
デイリーコラム
“現地”でさえEVブームの雰囲気なし
今夏、日本の各種報道はEVブームといった雰囲気だ。
そのキッカケとなったのは、フランスとイギリスの両政府が相次いで発表した“2040年政策”である。2040年までにガソリンとディーゼルエンジンの国内販売を禁止するというもので、表向きは石炭発電の廃止や、原発への依存度を下げるなど、CO2削減による地球環境へのプラス要因を強調している。
ここで疑問なのは、欧州内での技術的な議論が行われていないことだ。こうした一気に電動化するとの考えを発表するためには、フランスとイギリスはもとより、欧州全体での技術領域における“事前のすり合わせ協議”をするのは当然だ。
しかし、両政府が発表を行った7月、筆者はフランスのストラスブール市で開催されたITS欧州会議を丸一週間、現地でじっくりと取材したが、EVなど電動化に関わる議論は極めて少なかった。それよりも議論は自動運転とコネクテッドカーを融合した、CAD(コネクテッド・オートメイテッド・ドライビング)に集中した。しかも、乗用車向けではなく、長距離トラックによる自動縦列走行(プラトゥーニング)が主な対象で、議論の中で度々登場したキーワードが「クロスボーダー(国境を越える移動)」だった。
EVの議論においても当然、クロスボーダーが必然であるのだが、欧州各国、そして欧州を取りまとめる立場にあるEC(欧州委員会)からも総括的なEV政策についての話は出なかった。
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ドイツの狙いはあくまでも中国
さて、筆者は今、本稿をドイツのベルリンで執筆している。ベルリンに滞在している目的は、欧州最大級の家電見本市である「IFA 2017」の取材だ。この手の展示会では、米ラスベガスで開催される「CES」が有名で、最近では自動運転やEVなど自動車メーカーが多数参加している。しかし、こちらIFAでは自動車メーカー色はほぼゼロだ。
ドイツでは、メルケル首相がドイツ国内での次世代車のロードマップを発表しているものの、数値目標を達成する可能性は低いというのが一般的な見方だ。さらに、一連の英仏政府による発表に対して、ドイツ政府とダイムラーは英仏政府の考え方に同調しないとの見解を明らかにしている。
だが、来週に控えたフランクフルトモーターショーでは、ジャーマン3はこぞって新型EVを出展し、それぞれが近年中にEVラインナップを一気に拡充することを表明している。彼らの狙いはたったひとつ。中国でのNEV法(ニューエネルギービークル規制法)に対する対応だ。
中国政府は米カリフォルニア州が1990年に発効したZEV法(ゼロエミッションビークル規制法)について、中米政府間での技術的な協議を進めて、中国版ZEV法の策定を進めてきた。これが2018年中に発効される可能性が高い。NEV法の詳細については割愛するが、要するに各メーカーの販売台数に応じてEVや燃料電池車、またはプラグインハイブリッド車の販売比率を義務付け、それをクリアできない場合は巨額の罰則金を科すというものだ。
アメリカのZEV法はあくまでも州法であり、いくつかの州がZEV法に準拠する姿勢を示しているが、連邦政府としての総括的な法律ではない。一方、中国は世界最大の自動車生産および販売国であり、その国の販売台数全数を対象としたNEV法はZEV法に比べて自動車メーカーに対するインパクトは極めて大きい。
そうした中にあって、中国におけるフォルクスワーゲングループの販売台数の多さや、欧州志向が強い高級車市場におけるメルセデスとBMWのブランド価値を考えれば、ジャーマン3が“中国の政策ありき”のEV事業戦略を立てるのは当然だ。
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顧客にとっての必然性は?
このような世界図式の中で、日本政府と日系自動車メーカーは風見鶏のような振る舞いを続けている。
EVなどパワートレインの電動化技術では、日本はこれまで世界をリードしてきた。ハイブリッドを世に広めたトヨタ、大手自動車メーカーとしてEVの大量生産に先鞭(せんべん)をつけた日産と三菱。国内市場におけるハイブリッド車の急伸に対応し、電動パワートレインの技術開発を加速させてきたホンダ。さらには、これら自動車メーカーとの資本関係を結ぶなど強固な関係を築いてきた日系電池メーカーの存在は大きい。
だが、EVを売る場として日本を見ると、たとえ充電インフラが整ったといっても、現行の内燃機関車からEVへの大きなシフトが起こるとは思えない。なぜならば、顧客にとってEVでなければならない必然性が見当たらないからだ。
こうした必然性のなさは、欧米や中国でも同じだ。いまのEVブームとは、あくまでも中国とアメリカの政策によるものであり、国内にZEV法のような強制力のある法律を持たない日本は、当面の間、世界の情勢を見守ることになる。
(文=桃田健史/編集=堀田剛資)
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桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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