第3回:実力チェック! ボルボのSENSUS
使い込むほどよくなじむ 2017.12.08 徹底検証! ボルボXC60 第2世代へとスイッチした、ボルボのプレミアムSUV「XC60」。新世代のプラットフォームや高効率なエンジンも注目されるが、今回はインフォテインメントシステムを含めたHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の領域にフォーカスし、その使い勝手を確かめた。ボルボの装備は一味違う
ナビゲーションやネットワークとの接続などを可能にするボルボのインテリジェントテクノロジー「SENSUS(センサス)」。新世代モデルの第1弾として、新型「XC90」から搭載され始めた最新のインフォテインメントシステムには、通信デバイスを介してインターネットに接続できる「SENSUS CONNECT」も含まれる。
XC60にはさらにアップデートされた仕様が搭載されていて、基本となる構成要素は以下の3つ。ドアを開けると目に飛び込んでくる9インチのセンターディスプレイ、4つの表示モードを切り替えることができる12.3インチのドライバーディスプレイ、そして速度やナビの誘導情報をフロントウィンドウに表示するヘッドアップディスプレイ。これらを連携させることで、ドライバーが必要とする情報を効率的に伝えることができる。またヘッドアップディスプレイによる視線移動の少なさは安全運転にも寄与する。
……と、ここまでは昨今のプレミアムカテゴリーで採用されつつあるシステムのようだが、XC60を含む新世代ボルボのSENSUSはひと味違う。
まずセンターディスプレイ。最大の特徴は“縦型”ということだ。テスラの17インチ、「トヨタ・プリウスPHV」(最近では標準の「プリウス」にも設定がある)の11.2型など、徐々にではあるが縦型ディスプレイはトレンドになりつつある。
では縦型のメリットは何か? やはり大きいのがカーナビの画面表示における「その先」の情報を取得しやすいことだ。もともとカーナビには自車より先を広く見せる「ヘディングアップ」と呼ばれる表示方法があるが、これまでのDINをはじめとする横型のナビ画面では進行方向の渋滞情報などを把握する場合、縮尺を広域側に切り替える必要があった。しかし縦型ディスプレイの場合、その頻度は少なくなる。縮尺を変更しなくても、より多くの情報を確認することができるのである。
手袋をしたままでOK
XC90から採用されたこのディスプレイではあるが、「V90/S90」の導入時にホーム画面のアイコンのデザインや配置、さらにナビゲーションメニューを左側に配置するなどのアップデートが行われている。実際、日本のユーザーはナビのUI(ユーザーインターフェイス)への要求レベルが高く、これらの声に対し真摯(しんし)に応じた点は好感が持てる。
そうした細かな改良を行った最新仕様となるXC60のSENSUSだが、そのディスプレイ自体にも画期的ともいえる工夫が施されている。カーナビやわれわれの生活に根付いているスマートフォン(スマホ)には「静電容量方式」と呼ばれるディスプレイが採用されているが、この方式の場合、手袋をしていたり、画面にしっかり触れなかったりすると、作動しないことがある。しかしSENSUSでは、赤外線を使って指の動きを感知するディスプレイが採用されているため、前述したようなタッチミスはほとんど起きることがない。
このシステム自体のメリットは、タッチした位置の精度が極めて高く、また温度変化にも強いことにある。これらを動かすマイクロコントローラーや、指先の位置を特定するフォトダイオードと呼ばれる部品はコストが高いのが難点だが、ボルボは操作性向上のためにあえて採用している。この方式自体は今後増えていく可能性が高いといわれているが、その点でも先駆けとなるボルボの英断は評価していい。
CarPlayとAndroid Autoに標準対応
標準装備のナビ自体の性能は必要にして十分である。ETC2.0も標準装備されているので、渋滞回避なども期待はできる。
しかし、昨今のテレマティクスの進化に照らし合わせるともうひと声、高機能化に期待したいという本音もある。もちろん将来的なアップデートで進化はするはずだが、現状では予測しきれない。そこで注目すべきはスマホとの連携である。具体的にはAppleの「CarPlay」とGoogleの「Android Auto」のナビ機能。ボルボのSENSUSはこの両方に標準対応している。
CarPlayとAndroid Autoは、それぞれが得意/不得意とする機能があるが、今回、ナビ機能にフォーカスしてテストも行ってみると、Android Autoとの連携には魅力が感じられた。
スマホを使っている人ならすぐにわかるだろうが、Google Mapsのメリットは地図の更新タイミングの早さだ。
実際、標準装備のナビにタイミングが悪く収録されていない、延伸した有料道路の情報などもAndroid Autoの場合はすでに地図データとして収録済み、という状況になった。結果としてその道路データを使い、最も早いルートを探索し案内してくれたのはAndroid Autoだった。一方、CarPlayの場合はそもそもマップ機能の延長線上という位置づけなのでやや貧弱という印象を受ける。音声案内のタイミングや地図データ自体もAndroid Autoに比べると不足感は否めない。
SENSUSの名誉のために言っておくと地図の鮮度に関しては「Map Care(ナビゲーションの地図更新)」が年2回行われるので、それほど心配することはない。またインターネットに常時接続をする(パケット代は発生するので注意が必要)ことで専用のネット地図を使うこともできる。
感動が味わえるオーディオ
一方、スマホを活用する両システムとも、XC60のディスプレイを介しているときはナビ画面の縦表示が現状できないので(スマホ単体では可能)、せっかくの大画面を生かしきれないというジレンマも生じる。
最初に記したように、通常は標準装備のナビで十分である。ただ「道路データが無い時や、代替案を確認・利用してみたい時はAndroid Auto」といった使い分けをするのが、現状では賢い活用法だと思う。
AV機能に関しては地デジやBluetoothオーディオ、昨今注目の定額制の音楽配信サービスなど、いま求められるものはほぼ搭載されている。それでも「ほぼ」と記したのは、現在普及しつつある、AM放送の音声をFMの高音質で楽しめる「FM補完放送」というサービスにXC60は対応していないからだ。
オーディオに関しては標準で330W+10スピーカーのハイパフォーマンスオーディオが装着されるが、ここはやはりオプションのBowers & Wilkinsのプレミアムサウンド・オーディオシステムをチョイスしたい。これは1100W+15スピーカー+サブウーファーという超ド級システムだが、音の繊細さなども含め、久々に“しびれる”ほどの感動を味わった。
クラシックを聴く際にベストのチューニングを施した特別なモードもある。スウェーデン(ボルボのホームタウン)にあるイエテボリ・コンサートホールの、ゴールデンシートと呼ばれる「席番号577」で聴く音を再現するものだ。実際に試してみると、弦の響きや残響感などが非常に新鮮。価格は42万円高と確かに高額だが、プレミアムSUVたるXC60のキャラクターを考えるなら、装着すべきオプションであると確信するほどの出来なのである。
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デザインと機能を両立
かくいう筆者は、カーナビその他のディスプレイと、エアコンの吹き出し口との位置関係にもこだわっている。ディスプレイが吹き出し口の下にあればドライバーの視線移動は増えるし、ディスプレイが上にきた場合、エアコンの風はどうしても下から体に当たる格好になってしまう。その点XC60は、ディスプレイを縦型にしたことで(必然的に)吹き出し口の配置が両サイドになっており、同時にデザインの良さまで両立させているのも理にかなっている。
ここまでSENSUSの機能などについて触れてきたが、実際XC60のオーナーになった場合、このシステムはユーザーに対し、どのような優位性を持つのだろうか。これだけ多機能になってもスイッチやボタンの数は8個と少ない。必要な機能のほとんどは、ディスプレイを指で上下左右にフリックすることでアクセス、操作することができる。
所有してから使い込んでいく中で、自分にとって必要、あるいは不必要な機能なども出てくることもあるはずだ。その点では、画面の表示をカスタマイズできる機能が魅力的だ。これを使って画面上のボタン類の位置変更や削除、アプリの追加などをすれば、自由度はさらに高まり、利便性は一段と向上する。
短時間でもその良さはわかるが、実際にオーナーになって使うなら、使い込むほどに体がなじむシステム。それが今回SENSUSを使ってみて一番強く感じたことである。
(文=高山正寛/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)

高山 正寛
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