第468回:“躍度”とは一体何者だ!?
マツダの雪上試乗会に参加して
2018.01.11
エディターから一言
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マツダが北海道剣淵試験場で開催した雪上試乗会に参加。雪を蹴散らしてド派手なドリフト……というシーンはなく、今回のテーマは「躍度(やくど)」。なにやら聞きなれぬこの言葉を重視する、マツダのクルマづくりの姿勢とは!?
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躍度をコントロールしやすいのが“心地よいクルマ”
マツダが近ごろ自動車メディアを通じてユーザーに知らしめようとしているのは躍度という言葉だ。躍度に躍起になっている。躍度とは単位時間当たりの加速度の変化率を指す。同社がわれわれを相手に躍度を説明する場合、たいていパワートレイン開発本部の井上政雄さんが出てきて説明してくれるのだが、そのなかでわかりやすいのは公共の乗り物の例。路線バスも新幹線も発進する際に発生する加速度は0.1G程度なのだそうだ。ただ、乗員が受ける印象は異なる。路線バス内で立った状態で発進されると体を支えるのにつり革が必要だが、新幹線内で立った状態で発進されても特に支えは必要ない。この差が躍度の差だという。同じ0km/hから50km/hに達する加速でも、時間をかけて加速すれば加速度の変化率、つまり躍度は低く、逆に急激に加速すれば躍度が高いということになる。
これを乗用車の運転に当てはめると、ドライバーがアクセルペダルを踏み込む量で加速度が決まり、踏み込む勢いで躍度が決まる。当然躍度は加速時のみに発生するわけではなく、減速時にも旋回時にも、あらゆる挙動において存在する。そして乗員にとって心地よい躍度の範囲が存在し、運転中、その躍度の範囲を保ちやすい(躍度をコントロールしやすい)クルマこそが、心地よいクルマというのがマツダの考え方だ。つまり躍度を使った説明は、マツダが昔から理想として掲げる “意のまま”とか“人馬一体”という表現を、躍度の考え方によって定量化、見える化しようという試みだろう。
発生させたい躍度は時々刻々と変化する
では心地よいクルマ=躍度をコントロールしやすいクルマとは具体的にどういうものか。マツダは運転計画・運動計画の通りに走らせることができるクルマがそうだという。運転計画とは、ドライバーがA地点からB地点まで、どのくらいのペースで、どういうルートで到達するかという計画。例えば、片側2車線の道路を走行中に車線変更して前のバスを追い越して元の車線に戻ろうという計画や、高速道路でETCゲートを通過するためにいったん速度を落とし、再び加速しようという計画だ。この運転計画を実現するためにドライバーは次に運動計画を立てる。どのくらい加速・減速し、どのくらい操舵するかというのが運動計画だ。
できるだけ勢いよく加速し(て気持ちよくなり)たいという運転計画を立て、それを実現すべくアクセルペダルを可能な限り深く、勢いよく踏み込むという運動計画を立てる場合もあれば、乗員に不快な揺れを感じさせることのないように、できるだけマイルドに車線変更したいという運転計画を立て、それを実現するためにステアリングホイールをじんわりと切るという運動計画を立てる場合もあるだろう。つまり躍度は低ければよいわけでもなく高ければよいわけでもない。発生させたい躍度は状況に応じて時々刻々と変化し、それを自在にコントロールできるのが心地よいクルマというわけだ。
当たり前といえば当たり前なのだが、それを可能とするクルマは意外と少ないというのがマツダの主張。それを説明するため、今回マツダは、発進時にアクセルペダルを踏んでもすぐに反応しないクルマ(某社のデュアルクラッチ式トランスミッション採用車を想定していると思われる)や、アクセルペダルの操作に対して過敏な反応を見せるクルマ(低出力なのを隠そうとする低価格モデルに多い)、それにブレーキサーボ量を落とし、減速にかなりの踏力を必要とするクルマなどを用意し、われわれに雪上で運転する機会を設けてくれた。雪上は低速度でも挙動の差が出やすいので違いを感じ取るには打ってつけだ。
運転しやすさと車格は比例させない
アクセルペダルの操作に対して一定時間無反応なクルマや過敏に反応するクルマは当然ながら乗りにくい。けれども1回目より2回目のほうが、2回目より3回目のほうが意のままに操ることができる(躍度をコントロールできる)ようになる。ドライバーがクルマの特性を理解し、その特性に合わせた運転をするようになるからだ。つまり躍度のコントロールは運転の上手、下手に左右されるということになる。「ならばクルマの良しあしはさほど関係ないのでは?」とエンジニアに問うと、「確かに上手な人ならどんなクルマでも躍度をコントロールできるかもしれません。しかし上手な人であっても日によって調子が悪いときもありますし、長時間運転して疲れると下手な人と同じ状態になり得ますから、長い目で見ると絶対に躍度をコントロールしやすいクルマのほうがよいのです」という答えが返ってきた。なるほど。
ブレーキのサーボ量を落とし、踏力の必要なブレーキのクルマに関しては、コントローラブルで運転しやすいと感じた。特に停止寸前にブレーキを抜いて“カックン”をなくす操作は明らかにやりやすかった。けれど、アクセルペダルの踏力やステアリングホイールのアシスト量との関係がちぐはぐなので、スラローム走行などの総合的な操作となると、ブレーキングが遅れたり操作量が不十分になったりした。
これらを試した後、マツダの現行モデルで同じコースを試すと、なるほど躍度のコントロールがしやすく、ドライバーが心地よいと感じる運転も、乗員を不快にさせない運転もしやすかった。マツダがクローズドコース内に設定したルートのみならず、一般道の走行でもそれは感じられた。また、同じような運転しやすさを「CX-8」でも、相対的に安価な「CX-3」でも感じられた。価格の差はサイズや装備、あるいはエンジンパワーの差に対するものであり、運転しやすさ、心地よさは同等のものが得られるべきというのがマツダの主張。これは幅広い層のユーザーやファンを生み、ロイヤリティーを高めるだろう。
マツダの現行モデルは社内的に第6世代商品群という呼ばれ方をするが、次の第7世代は2019年発売の次期「アクセラ」から始まる。昨秋、SPCCI(火花点火制御圧縮着火)技術を採用したSKYACTIV-X(スカイアクティブX)エンジンを搭載し、新世代の車体構造である「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー)」を投入した次期アクセラのプロトタイプをサーキットで試乗した際に感じたのは、突出した運転の心地よさ、楽しさだったのだが、それをどう表現してよいかイマイチわからなかった。あれこそが躍度を自在にコントロールできる心地よさ、楽しさだったのだろうと今になって思う。
後顧の憂いのないクルマづくりが好結果に
当然、他のメーカーも運転の心地よさ、楽しさを追求しており、そう感じさせるモデルも少なくないが、求める心地よさ、楽しさの内容や方向性がどのモデルでも共通しているのがマツダ車だ。それは心地よさ、楽しさの定量化、見える化に最も熱心だからではないだろうか。マツダの規模と車種ラインナップだからできることかもしれないが。
2015年5月、マツダとトヨタは「クルマが持つ魅力をさらに高めていく」ことを念頭に、互いの経営資源の活用や、商品・技術の補完など、相互にシナジー効果を発揮し得る、継続性のある協力関係の構築に向けた覚書に調印した。協議を積み重ね、2年後の17年5月に基本合意に達し、8月に正式に資本業務提携を結んだ。内容は「米国での完成車の生産合弁会社の設立」「電気自動車の共同技術開発」「コネクティッド・先進安全技術を含む次世代の領域での協業」「商品補完の拡充」の4つを推進し、マツダはトヨタの株式の0.25%を、トヨタはマツダの株式の5.05%をそれぞれ取得(いずれも約500億円程度)するというもの。
この提携が、このところのマツダの実にのびのびとしたクルマづくりに大きく影響していると想像する。結局、堅い言葉が並ぶこの合意書の真の意味は、トヨタからマツダへの「安心して内燃機関(IC)をやり尽くしてほしい。世の中が決定的に他の方向へ進むとなったら、電気自動車でもプラグインハイブリッドでも水素自動車でもなんでも供給するか(会社ごと引き受けるか)ら」という保証書になっているのではないか。
中規模自動車メーカーにとって、目下最大の将来不安は次代のパワートレインの方向性が定まらないことのはず。一番の不安が取り除かれたからこそ、得意とするIC開発にまい進することができ、その空気がシャシー、デザインの開発にもよい影響を与えているはずだ。もちろんマツダが決定的に優位性のあるICを開発したらトヨタも使うのだろう。クルマ好きとしては、財務状況が改善しても片方あるいは両方が個性を失うような提携は残念だが、この2社のようにワクワクさせてくれる提携はウエルカムだ。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

塩見 智
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