ただいま街で増殖中!
新型タクシーの素顔に迫る
2018.02.09
デイリーコラム
ベースはコンパクトミニバン
タクシーは、いわば都会の顔。街を行き交うタクシーがまとう“色”が風景の濃淡を作り出す。ニューヨークのイエローキャブは、その代表例。“ブラックキャブ”とも呼ばれるロンドンタクシーは、独特の形と黒い塗装が印象的で、タイのバンコクならショッキングピンクを中心とした派手な装いが目に焼きつく。
日本ではどうかというと、ボディーの色は黒が多く、白や黄色、緑の組み合わせや、個人タクシーの白地に青ラインも目に付く。「トヨタ・プリウス」やいわゆるミニバンが増加しているものの、ボディータイプはセダンが基本。大手のタクシー会社のクルマは、トヨタの「クラウン」をはじめとする角ばった車両がほとんどだ。
そんな中、最近都内で急速に目につき始めたのが、黒に近い深い藍色に塗られ、小ぶりながら丸々とした新型のタクシー。トヨタが22年ぶりに投入したタクシー専用車「JPN TAXI」(ジャパンタクシー)だ。入れ替え需要が増えて、2017年末までに1000台以上が世に出回ったため、突然見かける機会が増えた印象があるのかもしれない。
どこかロンドンタクシーに近いイメージをもつジャパンタクシーの元となったのは、同社のコンパクトミニバン「シエンタ」。実は、同じ開発担当者がジャパンタクシーも手がけている。今回、Toyota Compact Car Company(トヨタ・コンパクトカー・カンパニー)のTC製品企画ZPチーフエンジニアである粥川 宏氏に話を聞いたところ、タクシーならではの特殊な事情や苦労が見えてきた。
この先20年活躍するタクシー
ジャパンタクシーでは、同時並行で開発作したシエンタをベースとしているものの、そのまま利用できる要素は、フロアパンを除いてほぼ見当たらなかったという。
「スライドドアは共用でしょ?」と思われるかもしれないが、世界の多くのタクシーは前ヒンジで開け閉めする“スイングドア”を採用しており、開発時にもその使い勝手を検討したという。とはいえ、最終的には利便性でスライドドアが勝ったとのことだ。なお、シエンタが両側スライドドアを備えるのに対して、ジャパンタクシーは左側のみ。子供の飛び出し防止など安全面を考慮して右側にはドア自体が要らないのではないかという意見すらあったという。
一方、タクシー会社がタクシー専用車両に望むのは、耐久性と燃費の良さだ。主なタクシー車両の燃料であるLPG専用の1.5リッターエンジンとシエンタ用ハイブリッド機構を使ったメリットは大きく、燃費はJC08モードで19.4km/リッターと良好。LPGの価格は、首都圏でリッター当たり90円前後とレギュラーガソリンの約7割におさまる。街中でタクシーが酷使しがちなブレーキについても、ハイブリッド車は機械式ブレーキだけでなくモーターのエネルギー回生ブレーキも使えるため、効きと耐久性が向上したという。
サスペンションは前がマクファーソンストラット式とシエンタと共通ながら、後ろのトーションビーム式はシエンタからリジッドの車軸式3リンクに替えて耐久性を向上させている。考えてみてほしい。ジャパンタクシーの先代といえる「クラウン コンフォート/セダン」は、デビューした1995年から22年もの間生産されてきた。それだけの期間、基本性能を変えずに商品性を維持するには、酷使に耐えうる中身の質実剛健さが欠かせない。「20年はもたせたい」という粥川氏の言葉は、切実な願いに違いない。
細かな気配りが感じられる
もうひとつ、タクシーで忘れられない伝統の装備が“フェンダーミラー”だ。ドアミラーのほうが見栄えがよく、ミラーの曲率を変化させてまで視野を確保できたとしても(その分、ミラー鏡面の外側の像のゆがみは避けられない)、タクシードライバーのほぼ満場一致の意見が開発時に反映されて、視線の移動量が少ないフェンダーミラーが採用されたという。
チーフエンジニアの粥川氏が口にする、「2020年のオリンピックに対するおもてなし」の話はやや“耳タコ”だったのだが、このジャパンタクシーの装備は本気のおもてなしが実感できるもので、お年寄りや体の不自由な方への気遣いに満ちあふれている。
例えば、病院の正面玄関で腰をかがめてセダン型タクシーへの乗り込みに苦労しているお年寄りの姿を見るとなんとかならないものかと思うし、クルマ椅子で乗り込めるワンボックス型のバリアフリー車も最近は増えつつあるものの、街中で気軽に拾うには数が少なすぎる。その点ジャパンタクシーは、乗り込む際ネックになる床の高さを抑え、シートの高さも細かく吟味して乗り降りのしやすさを実現している。ユニバーサルデザインやバリアフリーといったカタカナ文字だけでは伝わらない人への優しさが、触れてみて感じ取れるのだ。
ところで、開発時のリサーチで、運転手と乗客の両方からカイゼンしてほしいと要望があったのが「臭い」だそうだ。ドライバー側からすれば乗客の食事後の焼き肉臭、乗客はキャビン内の加齢臭がNGなのだとか。どちらも悪気あってのものではなかろうが、避けられないからやっかいだ。その解決策としてジャパンタクシーでは、イオン脱臭の「ナノイー」機能を、前席の運転席側と助手席側に搭載した。一日中フル稼働するのは耐久性の面で厳しいので、左右交互に使う工夫をしているそうだが。
使う者への配慮が行き届いた誠実な商品は、どんな時代でも評価されるべき。まずはこの新型タクシー、あなたも一度乗ってみてもらいたい。乗れば、きっとほかにもわかることがあるはずだ。
(文と写真=岩尾信哉/編集=関 顕也)

岩尾 信哉
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