ドゥカティ・パニガーレV4 S(MR/6MT)
底知れぬパフォーマンス 2018.02.24 試乗記 ドゥカティのスーパースポーツバイク「パニガーレV4 S」に試乗。伝統のV型2気筒エンジンに別れを告げ、新開発のV型4気筒を搭載したフラッグシップマシンの走りを、スペインのサーキットから報告する。MotoGPのマシンさながら
イタリア北部、ボローニャに拠点を置くドゥカティは深紅のボディーをコーポレートアイデンティティーに掲げ、レースに参戦することで名声を築いてきたメーカーだ。しばしばフェラーリが引き合いに出されるのはそういう出自ゆえだが、この両社は距離的にも近く、アウトストラーダを使えば30分ほどで行き来できる距離にある。
ラインナップされるスポーツモデルには例外なく高いパフォーマンスが与えられているものの、時折それらをかすませるとんでもないスペックのロードゴーイングレーサーを送り出すという点でも似ている。先ごろドゥカティから発表されたパニガーレV4 Sはまさにそういう一台である。
このモデル最大のトピックは、二輪レースの最高峰MotoGPに送り込まれているファクトリーマシン「デスモセディチGP」と相似形にあるエンジンが搭載されていることだ。水冷V型4気筒という基本形式はもちろんのこと、シリンダー挟み角やボア径、各気筒が不等間隔で爆発していく点火シークエンスまでもが同仕様ゆえ、それが発するエキゾーストノートはレース中のオンボード映像から聞こえてくるホンモノとそれほど大差ない。
そんなレース由来のエンジンがどれほどの最高出力を発生するのかといえば、1万3000rpmで214psをマークする。それに対する車重はガソリン満タン状態でも195kgにすぎないため、パワーウェイトレシオはわずか0.91kg/psというちょっと異常な領域に到達しているのだ。
もちろん、それをむき出しのままにはしていない。トラクションコントロール、スライドコントロール、ウイリーコントロール、コーナリングABS、エンジンモード、セミアクティブサスペンションといったありとあらゆる電子デバイスが詰め込まれ、そうやすやすと限界を超えないように車体にはセーフティー機能が張り巡らされている。
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誰でも乗れると思いきや
というわけで大型自動二輪の免許さえ持っていれば安心……と言いたいところだが、それは半分正解で半分不正解だ。取りあえずは誰にでも動かせる。車体にまたがってエンジンを始動し、クラッチをつないで走りだす一連の動作にコツや儀式は必要なく、オートシフターも装備されているため、発進と停止以外ではクラッチレバーの操作さえ不要だ。
しかも低回転域で見せる出力特性は穏やかと言ってもいい。エンジンモードを最もマイルドなSTREETに設定しておけばなおさらそれが際立ち、まろやかなトルクフィーリングに任せてクルーズすることも難しくない。
が、しかし。このモデルのすごみというか、容赦のなさを感じさせるのもまたSTREETモードだ。というのもエンジンの出力特性が切り替えられるこうしたデバイスの場合、おとなしいモードではパワーもカットされることが珍しくない。RACEモードでは214psを発生したとしてもSTREETでは180psというように緩急がつけられているものだが、パニガーレV4 SはRACE/SPORT/STREETという3段階のどれを選んでも最終的に214psに到達。そこに至る時間が多少遅いか早いかの差にすぎない。
そういう素性ゆえ、スロットルを全開にした時の加速感はどの量産市販車とも異なる。今回、試乗会が開催されたスペインのバレンシアサーキットはストレート長が876mと決して長くはない。にもかかわらず、車速は軽々と290km/h(メーター読み)に届き、しかもその時点でトップギアの6速を残している。文字通り「アッ」という間にストレートが過ぎ去るため、身も心も休まる時間がまったくなく、筋力と神経をフルに使っていないと車体から簡単に体が引き離されそうになるほどだった。
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走りを突き詰めたくなる
しかし本当にやっかいなのは、電子デバイスが洗練されすぎているあまり、恐怖感が極端に少ないところだ。エンジンがパワフルになればなるほど不穏な挙動を伴い、スロットル開度は甘くなりがちだがパニガーレV4 Sにはそれがない。
強烈過ぎるトラクションによってフル加速中こそフロント周りの接地感が希薄になるものの、ひとたび減速動作に入るとタイヤはピタリと路面を追従。旋回から立ち上がりに至る過程ではそれがさらに強まるため、ブレーキングポイントはより奥に、バンク角はより深く、スロットルを開けるタイミングはより早く……と、どんどん突き詰めたくなるのだ。
誰でも受け入れてくれるが、限界域はそう簡単に垣間見ることもできない。その底知れなさが恐ろしく、恐ろしいけれどのぞいてみたくなる。パニガーレV4 Sはそういうモデルである。
(文=伊丹孝裕/写真=ドゥカティ/編集=関 顕也)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1469mm
シート高:830mm
重量:174kg(乾燥重量)
エンジン:1103cc 水冷4ストロークV型4気筒 DOHC 4バルブ
最高出力:214ps(157.5kW)/1万3000rpm
最大トルク:124Nm(12.6kgm)/1万rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:328万円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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