第493回:THE FRONT ~オートバイの正面にフォーカスした身勝手な考察~
2018.03.30 エディターから一言![]() |
「東京モーターサイクルショーに行って、何か書いてください」 これがwebCGホッタ青年のオファー。「何か」って何だという話だけど、そこは食べ盛りの子供のために手際よく何品かの料理をつくり上げる母親の気分で応じるほかにない。しかし、何を書けばいいのだろうか。「何が食べたいの」と聞かれて「何でもいい」と言われた母親の面倒くささがこの段になって身に染みる。すまなかった、母ちゃん。
そんなこんなで、ショーとは見比べるものという観点を軸にして、ちょっと気になっていたポイントを勝手に掘り下げることにした。それが「THE FRONT」。つまりオートバイの正面。それっぽいテーマを絞り出したけど、さてどうなることやら。
独創の3DSF系×伝統のロボットアニメ系
乗り物の最前部に配置されるライトの類いは、二輪であれ四輪であれ、正面のデザインを決定づける重要な要素だ。LEDの登場以降、顔の造りに自由度が増したのは、これまた二輪も四輪も同じ。ただし二輪の場合、THE FRONTを顔と呼ぶにはヘッドライトの周囲にそれ相応の面積を持つカウリング等のパーツが必要になってくる。そのカウリング込みの正面デザイン、海外と日本では考え方というか嗜好(しこう)というか、かなり明確な違いがあるように思う。
題して、3DSF系×ロボットアニメ系。3DSF系とは、CGを駆使しながらも実写とするSF映画に出てくる乗り物のイメージ。例えば『スター・ウォーズ』のミレニアムファルコンや『バットマン』のタンブラー。あるいは『インターステラー』の宇宙船もそう。共通項をざっくり言えば、意外に地に足の着いた大人っぽいデザインということ。
対するロボットアニメ系は、つまるところ『機動戦士ガンダム』のモビルスーツ由来。どことなくボリューミーというか形状の厚着というか、いずれにせよアニメを想起させる点において、個人的には幼さを感じる。って言ったら炎上必至かな。いやまぁアニメは世界に誇る日本文化の象徴でもあるので、そこはひとつ穏便に。
ぐたぐた語るより写真をどうぞ。まずはKTMの「1290 スーパーアドベンチャーS」。最近のKTMは、およそこんな昆虫顔。「これはロボットだろう」という意見もあるだろうが、アニメだった『トランスフォーマー』をCG化した感じと言えばご理解いただけますか。それにしてもこの顔は、夢に出てきそうなくらい強烈なデザインだ。
よくもこんなデザインを……!
3DSFで時折見かけるすっとんきょうなキャラを思い出させたのは、「ヴァイルス986 M2 Moto2ストラーダ」。ヴァイルスは、ビモータの元エンジニアによるテーラーメイド式の二輪ブランドだ。この986 M2はハブステアリングの「ビモータ・テージ」をベースにしたモデルで、お値段も約710万円からという超高級車。で、この顔。余計なおしゃべりをし始めたところでスイッチを切られたドロイドみたいな表情が愛らしい。よくもこんなデザインを二輪に施したもんだと感心せずにはいられない。
いよいよ国内販売するらしいヤマハの3輪車「NIKEN(ナイケン)」も、ギリギリこの系統に入れたい。前2輪という特異な機構がこういう顔を生んだのだろうけど、現行モデルの「MT-09」をベースにしたことで、顔以外はSFっぽくないのが惜しい。
では、日本が誇るロボットアニメ系。筆頭は、カワサキの「ニンジャH2 SX」。ガンダムを例に挙げながらも実は機種に詳しくないのだが、前かがみの盛り込み具合やフィンの配置などは、やっぱりそれ系でしょ。ちなみにこのニンジャH2 SXのエンジンはスーパーチャージャー付き。昨今のカワサキの時代錯誤感には腹をくくった潔さを覚える。忍者は死なないんだな。
最後はヤマハの「MT-10」。同社が誇るスーパースポーツ「YZF-R1」のプラットフォームを使ったこのモデルは、ロードスポーツのMTシリーズのフラッグシップ。ゆえにMTはみな同じ顔をしているが、アクの強さもモリモリ感もMT-10が頂点。それでいてヤマハらしいクールな印象が保たれているけれど、たぶんバットマンは違う形が好きかもしれないと思ってしまった。
好きなのは目玉おやじ
この原稿のタイトルを『THE FACE』ではなく『THE FRONT』としたのは、そもそも二輪に顔なんてあったっけ? という疑問が拭えなかったからだ。個人的にもオートバイは丸い1個のヘッドライトをドンと据えた、顔とも目ともつかない鬼太郎の目玉おやじ的スタイルが好きだし。
そんな単眼式も、LEDによってかなり個性を表現できるようになったみたいだ。ハスクバーナの「ヴィットピレン」と、ホンダの「CB1000R」は手法が同じ。確認していないが、どちらも光る外輪はポジションランプに相当するのだろう。
でもってハスクバーナが披露したヴィットピレンは、なかなかに気になるモデルだ。これも最近はやりのネオレトロ・カフェレーサーに属するらしいが、各社の中でも極めて斬新。今回のショーで最も乗ってみたい一台だった。
カツラでオシャレした目玉おやじ系で紹介したいのが、ハーレーダビッドソンの「スポーツグライド」。ビキニとは言い難いがショートパンツくらいの頼りなさがむしろセクシーなカウリングがすてきだ。しかしこの単眼もLEDを上手に使っていて、決して侮れないハーレーデザインの手だれを感じる。
孤高の美を放つ顔
「ドゥカティ・パニガーレV4 S」。これは自分のつたない分類作業ではカバーできないモデルだった。美しき三白眼。人相学では凶相だが、確かに近寄る者を容赦なく斬りつけそうな危ない輝きを放っている。しかもドゥカティ初のV4エンジンをその腹におさめているのだ。実物に触れるなんてめっそうもない。ポスターを眺めるだけでイケちゃうくらいの存在だ。
そんなわけでお届けしてきた『THE FRONT』。果たしてオートバイは正面で選ぶのかと問われたら、そこはそれ、必死にひねり出したお題であるからして大目に見てご容赦願いたいわけですが、今回のショーは昨年を上回る人出だったそうで。
二輪の展示会が素晴らしいのは、実際にまたがって「今の暮らしにコイツがあったなら」とそれぞれが個別のイメージを抱けるところにあると思う。そんな想像をしている方々の顔を見るのは本当に楽しかった、というオチで締めますが、ホッタ青年、いかがでしょう。
(文と写真=田村十七男/編集=関 顕也)

田村 十七男
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