アストンマーティンの次世代フラッグシップ
「DBSスーパーレッジェーラ」の姿を読み解く
2018.04.30
デイリーコラム
アストンにとって特別な2つの名を冠したモデル
「DBS」のネーミング復活のアナウンスは、アストンマーティンファンにとって喜ばしくも衝撃的な出来事だったことだろう。しかもアストンの歴史を深く知る者にとってはさらに驚くべきことに、いにしえの名車たちと同様に「Superleggera」のバッジがエンジンフードに備わった写真が公開された。
正式名称「アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ」
そのアナウンスに前後して、欧州ではさまざまなウワサが流れ始めている。今年の第2四半期、つまり6月が終わるまでにあきらかにされる予定というDBSスーパーレッジェーラは、いったいどんなモデルとして登場するのだろう?
アストンから届いた短いプレスリリースをよく読み込んで考えてみると、なるほど、予想のためのヒントは幾つも隠されている。それらをひとつひとつ並べて考察する前に、少し歴史的なことを振り返ってみよう。
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2度にわたり登場したフラッグシップの名称
まずはDBS。
この名称が与えられたモデルが初めてアストンの歴史に登場したのは、1967年のことだった。「DB4」「DB5」「DB6」と続いた一連のモデルたちの後継的な役割を与えられたモデルで、それまでの1950年代の香りを残した丸みのあるスタイリングとは異なる、ややエッジを効かせたモダンなスタイリングをまとっていた。シャシーも新たに開発され、そこに搭載されたのは当初はDB6からキャリーオーバーとなった4リッター直6ユニットで、スタンダード版の284ps仕様のほか、オプションで「DB6ヴァンテージ」用の329ps仕様も用意された。また1969年にはかねてから開発が進められていた325psの5.3リッターV8が追加された。DBSはアストン史上最強のグランツーリスモであり、フラッグシップであった。
次にDBSの名を持つモデルが現れたのは、2007年。第1世代の「V12ヴァンキッシュ」の後継として登場した。当時のアストンは「DB9」という柱を中心にラインナップ構成が進んでいる最中で、この2代目DBSも、DB9をベースにして作られた。今日におけるアストンの造形部門のトップであり、副社長でもあるマレック・ライヒマンが、デザインのリファインを担当。フラッグシップにふさわしい印象的なルックスをまとうことになった。パワーユニットはDB9のものをベースにした5.9リッターV12で、パワーはDB9より50ps 以上も高い517psまで引き上げられていた。そして2012年、今度は第2世代の「ヴァンキッシュ」へとバトンタッチを果たす。
以上のことからもお分かりのとおり、DBSとはアストンマーティンのラインナップのフラッグシップ的役割を果たしてきたモデルであり、同時に最高峰レベルのパフォーマンスが与えられたモデルでもあるのだ。
得意の“超軽量”ボディーで一時代を築く
お次は、スーパーレッジェーラである。
スーパーレッジェーラとは、イタリア語の“超軽量”を意味するスーペルレッジェーラの英語読みだ。そのスーペルレッジェーラとは、1926年にイタリアのミラノに設立された、英国風に言うならコーチワーカー「カロッツェリア・トゥーリング」が特許を持っていた、独自の車体製造方法である。
細い鋼管を組み合わせて基本的な車体形状を作り、それを薄い軽金属の板で覆うことで補強していくこの製法は、軽くて剛性が高いのはもちろん、形状の構成の自由度が高く、そのためさまざまなデザインのクルマを作り出しやすかった。スーペルレッジェーラ製法は一部の自動車メーカーにライセンスで提供されたほか、トゥーリング自身が生産を請け負うケースも少なくなかった。アストンマーティンのDB4、DB5、DB6、そして「ラゴンダ・ラピード」もスーペルレッジェーラ製法で作られたモデルである。ところが自動車メーカーが自社で車体製作を行うのが当たり前になり、手間のかかるスーペルレッジェーラ製法が歓迎されなくなっていた1966年、トゥーリングは潔く活動を停止してしまう。
それから40年後となった2006年、トゥーリングの名称がいきなり復活を遂げる。ブランドの使用権と製法を受け継いだ企業が「カロッツェリア・トゥーリング・スーペルレッジェーラ」として、ミラノでコーチワーカーとしての活動をスタートしたのだ。現在はデザイン、設計、スケールモデルの製作、ワンオフや少量生産車の製造、かつてのトゥーリングが製作したクルマのレストレーションなどを行っており、もちろんスーペルレッジェーラ製法も脈々と続けている。
さて、そうした歴史的なバックボーンとアストンマーティンから届いたリリースを基に、近い将来に登場するDBSスーパーレッジェーラを想像してみよう。
発表済みの情報からその姿を推測する
リリースには、DBSが「次世代のフラッグシップ・スーパーGT」であり、「DBSスーパーレッジェーラの登場により、既存の2ドア・スポーツカー・モデルの刷新という野望が完成する」とあり、マレック・ライヒマンの言葉として「このクルマに独自のキャラクターを与え、この名称にふさわしいヘリテージと軽量構造を実現するために、パフォーマンスとデザインの限界を打ち破ります」とあることからも、これまでのDBSがそうだったように、フロントエンジンのアストン史上最強のパフォーマンスを持つフラッグシップとして登場する可能性が濃厚だ。
■アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラのティザー動画
すでに公開されているティザーの動画を見ると、ディテールに「おっ?」と思わされる違いはあるものの、「DB11」をベースに開発が進められたのではないかと考えられる。ハッキリと分かるのは、フロントのバンパーに“軽め穴”と思われる小さな孔(あな)が無数に開いているとおぼしきこと、そして何かの冷却のためなのか、両側のヘッドランプ下に開口部の大きなエアインレットが開いていること、そしてフロントのスプリッターがかなり大型であること、ぐらいだ。
また公開されている「Superleggera」のバッジの写真を見ると、エンジンフードにも大きなエアアウトレットが開いていることから、エンジンの発熱量はかなりのものであることが推測される。おそらくDB11の5.2リッターV12ツインターボをチューンナップしたと予想できるエンジンは相当にパワーアップが図られていて、これはヨーロッパの同業者が教えてくれた一説だが、かの地では「700psを超えているのではないか?」と見られているそうだ。
発表が待ち遠しくてならない
またヨーロッパではDB11に手を加えたとおぼしきテストカーのスパイショットやスパイムービーが出回り始めていて、それを見る限りでは、前後のフェンダーも拡幅されている印象で、サイドスカートやリアのディフューザー、リアスポイラーなどにも違いが見られるから、おそらく空力関連にも手が入ることだろう。
そしてエンジンフードに備わる“Superleggera”が示す意味合いだが、これに関してメーカー配布資料で触れられているのは、「トゥーリングの歴史的な超軽量構造テクノロジーに敬意を表して登場するモデル」という簡単な説明と、こちらは繰り返しになるが、先述のマレック・ライヒマンの言葉の中にある「軽量構造を実現するために」というパートのみ。ただし、アストンマーティンのプロダクションモデルは新VHプラットフォームだ。バスタブ型のアルミシャシーに軽金属製の押し出し材や骨格を接着してプラットフォームを組み上げ、そこにアルミやカーボンのボディーを架装する手法である。スーペルレッジェーラ製法とは親和性が高そうだとは思えないか? おそらく全面的にということはないだろうが、ボディーの一部にスーペルレッジェーラ製法を採用するのではないだろうか?
いずれにせよ、DBSスーパーレッジェーラが姿を現すのは2018年6月末までのどこかのタイミングと公式発表されている。その日が来るのが楽しみだ。個人的にはアストンに縁の深い、ル・マン24時間レースが開催されるタイミング辺りが濃厚なんじゃないかとにらんでいるのだが、どうだろう?
そして、ここまでお読みになり、「これまでフラッグシップだったヴァンキッシュはどうなるんだ?」と疑問に感じた方もおられるだろう。これに関しては全くのウワサの段階ではあるが、これまでとは異なる路線に名前が使われることになるのではないか? といわれている。ご存じの方も多いことだろうが、アストンマーティンは今、「ヴァルキリー」の弟分となるミドシップのスーパーカーを開発中だ。おそらく2021年にデビューするものと思われる。それがヴァンキッシュの名前を受け継ぐのではないかと見られているのだ。
アストンマーティンの攻勢は、まだまだちっとも鎮まる気配がない。
(文=嶋田智之/写真=嶋田智之、アストンマーティン、webCG/編集=堀田剛資)

嶋田 智之
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