ポルシェ・パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ(8AT/4WD)
あきらめる理由がない 2018.06.20 試乗記 「ポルシェ・パナメーラ」に、ワゴンボディーを持つ派生モデル「スポーツツーリスモ」が登場。テストに供されたのは、最高出力550psを誇るトップパフォーマンスモデル。最高速300km/hオーバーのスペシャルなワゴンの実力とは!?勢いが止まらない
2009年に初代がデビューし、2016年に2代目に進化したパナメーラは、ポルシェのラグジュアリースポーツサルーンとして、すっかりメジャーな存在となった。ポルシェのラインナップにおいても、いまやなくてはならないモデルであり、2017年の販売台数は対前年比83%増の2万8000台に達し、ポルシェの成長を支える要因となっている。
そんなパナメーラの勢いをさらに加速させるのではないかと期待を抱かせるのが、2017年3月のジュネーブショーで追加された新バリエーション、スポーツツーリスモだ。パナメーラがいわゆる“4ドアクーペ”であるのに対し、パナメーラ スポーツツーリスモはルーフラインを後方に伸ばし、より広く使いやすいラゲッジスペースが与えられたステーションワゴン。最近流行の“シューティングブレーク”という響きが似合うかもしれない。
個人的な好みをいうと、標準のパナメーラよりも、このパナメーラ スポーツツーリスモのほうに魅力を感じる。ハッチバックやステーションワゴンを乗り継ぎ、その使い勝手の良さが当たり前になってしまった私は、もうセダンには戻れない。しかし、買えるかどうかは別にして、ラグジュアリークラスにはステーションワゴンの選択肢が見当たらなかった。そんな状況下で新たに投入されたパナメーラ スポーツツーリスモに期待が高まるのは当然のことではないか。しかも、他のステーションワゴンとは一線を画するスポーティーなフォルムがたまらないのである。
まずはテールゲートを開けてみる
いつもならまずは運転席をのぞくのだが、このクルマの場合、真っ先に開けるのはテールゲート。スイッチを操作すると、決してバカでかくはないが、使いやすそうなスペースが広がっている。4ドアクーペボディーのパナメーラも、実はテールゲートを持つハッチバックで、495リッターのラゲッジスペースの容量を確保している。対して、スポーツツーリスモは520リッターと、カタログの数字はほぼ同じだが、開口部に高い敷居のあるパナメーラと異なり、スポーツツーリスモのそれはラゲッジフロアとほぼ同じ高さまで段差が削られたおかげで、大きな荷物や重い荷物の積み降ろしが格段に楽になった。トノカバーより上のスペースにも余裕があるため、かさばる荷物を載せるときに助けられることもあることを考えると、スポーツツーリスモを選んでおいて損はない。
標準のパナメーラに対するもうひとつのアドバンテージが、2+1のリアシートが用意されることだ。試乗車は4人乗り仕様だったが、2+1の5人乗り仕様を選べば、いざというときに後席中央にもう1人乗車させられるのだ。ただ、リアシートまでつながるセンターコンソールのために、足の置き場に困り、極めて実用性に乏しいのが惜しい点だ。一方、リアの左右は、着座位置がやや低めだが、収まってしまえばヘッドルームもニールームも十分なスペースが確保されており、大人でも窮屈な思いをすることはない。
ハンドリングが気持ちいい
そんなパナメーラ スポーツツーリスモの中から、今回はトップパフォーマンスモデルの「パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ」を借り出した。搭載されるエンジンは、最高出力550ps、最大トルク770Nmを誇る4リッターV8ツインターボで、これに8段のデュアルクラッチギアボックス「PDK」が組み合わされている。モデル名に「4」の文字はないが、フルタイム4WDを採用する。
早速走りだすと、大排気量エンジンに期待したとおり、すでに1000rpmほどの低回転から、スムーズで力強い加速が味わえる。アクセルペダルを軽く踏むだけでスッとスピードを上げるので、街なかでも実に扱いやすい。さらにアクセルペダルを深く踏み込むと、2140kgという車両重量を忘れてしまうくらい素早い加速を見せる。特に4000rpm手前あたりからの勢いは圧倒的だ。そんな状況でも、涼しい顔でアクセルペダルを踏み続けられるのは、4WDシステムのポルシェ・トラクション・マネジメントシステムのなせるワザだ。
一方、100km/h巡航時のエンジン回転数はわずか1200rpmに抑えられており、高いスタビリティーも手伝って、長距離のドライブもお手の物だ。かといって、パナメーラ スポーツツーリスモのハンドリングが退屈というわけではない。エンジンに負けず劣らず、気持ちのいいハンドリングを見せてくれるのである。
ボディーサイズを忘れてしまう
コーナーの入り口でステアリングを切ると、思いのほか軽快に向きが変わる。全長5m超、ホイールベースがほぼ3mの巨艦を操っているとは思えない反応だ。もともと高いシャシー性能に加えて、ロール制御システムのポルシェ・ダイナミック・コントロール・スポーツやアダプティブエアサスペンション、そして、リアアクスルステアが装着されることで、この軽快さが生まれるのだろう。オプションのリアアクスルステアの動きに不自然さはなく、Uターンをせざるを得ないような場面でも、小回りが利くのはうれしいところだ。乗り心地は少し硬めだが、落ち着きのあるフラットな挙動は、ラグジュアリークラスのパナメーラにふさわしい仕上がりといえる。
ところで、標準のパナメーラ同様、このスポーツツーリスモのセンターパネルにも、12.3インチのタッチスクリーンと、操作用のタッチパネルが搭載されている。機能が整然と配置されるタッチパネルは、慣れると案外使いやすく、また、ナビゲーションなどのディスプレイとして機能するタッチスクリーンも、最小限の操作が物理スイッチで行えることから、運転中でも安心して操作することができた。それでいて、見た目がすっきりしたのも好ましい点だ。
高速道路を中心に200km以上走行した際の燃費は車載計の表示で7.3km/リッター。そのパフォーマンスを考えるとむしろ予想以上の数字になった。とはいうものの、いまの時代、多少後ろめたさを感じるのも事実。そんな人にはプラグインハイブリッド車も用意されているわけで、このラグジュアリーでスポーティーなシューティングブレークをあきらめる理由は見つからないのだ。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5049×1937×1432mm
ホイールベース:2950mm
車重:2140kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(404kW)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
タイヤ:(前)275/40ZR20 106Y XL/(後)315/35ZR20 110Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:9.4-9.5リッター/100km(約10.5-10.6km/リッター、欧州複合モード)
価格:2453万3000円/テスト車=3020万7000円
オプション装備:ボディーカラー<バーガンディレッドメタリック>(0円)/インテリアカラー<サドルブラウン/ルクソールベージュ>(13万円)/スポーツエグゾーストシステム<ブラッシュ仕上げステンレススチールスポーツテールパイプ>(56万円)/リアアクスルステアリング<パワーステアリングプラスを含む>(32万5000円)/スポーツクロノパッケージ(38万2000円)/ポルシェ クレスト ホイールセンターキャップ(3万円)/ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(162万3000円)/PTVプラスを含むポルシェダイナミックシャシーコントロールスポーツ(85万4000円)/8wayリアコンフォートシート(37万4000円)/シートベンチレーション<前席>(19万3000円)/エクステリアミラー<塗装済み>(8万2000円)/LEDマトリックスヘッドライト<PDLSプラスを含む>(19万3000円)/ナイトアシスト(42万4000円)/トラフィックジャムアシスト付きアダプティブクルーズコントロール(50万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:5121km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:236.8km
使用燃料:34.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
NEW
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。














































