ポルシェ・パナメーラ4 E-ハイブリッド スポーツツーリスモ(4WD/8AT)/パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ(4WD/8AT)
意欲的なチャレンジャー 2017.08.12 試乗記 ポルシェの4ドアサルーン「パナメーラ」から派生したワゴンタイプの新型車「パナメーラ スポーツツーリスモ」にカナダで試乗。既存のパナメーラとの違いを含め、その走りや使い勝手を報告する。周到に考えられたデザイン
当時としてはまだ珍しかったプラグインハイブリッドシステムとの組み合わせで、パリのモーターショーに「パナメーラのワゴン」のプロトタイプが出展されたのは、2012年秋のこと。それからちょうど5年。いよいよ実車をテストドライブできる時がやってきた。
2017年3月のジュネーブモーターショーで正式発表された、パナメーラ第2のボディータイプであるこのパナメーラ スポーツツーリスモ(以下、スポーツツーリスモ)の全長とホイールベースは、既存の標準ボディー車と変わらず。ちなみに、ショーファードリブン用途も踏まえたロングボディー仕様は、現時点ではスポーツツーリスモには設定されていない。
「Bピラー以降を新設計した」と開発陣が語るスポーツツーリスモのボディーは、パナメーラよりもラゲッジスペースのローディングハイトを低めたり、容量そのものを後席使用時で20リッター、後席アレンジ時には50リッター増加させるなど、より高いユーティリティー性を確保すると同時に、「サルーン以上に個性豊かなルックスを求めるユーザーも意識した」というデザインをまとう。先ほど便宜的に“ワゴン”とは記してみたものの、開発陣としてはきっと、いま風に“シューティングブレーク”とでも紹介された方がうれしいのかもしれない。
そんなスポーツツーリスモのフロントセクションの造形が、既存のサルーンと同様なのは当然として、印象的な4灯式のブレーキランプを内蔵する横長のレンズや下部に「PORSCHE」のロゴを配した水平のライトストリップなど、新デザインが与えられたリアビューを構成する要素も、恐らくは「ファミリーらしさ」を強調するのが目的。意図的にサルーンと共通のイメージでまとめられている。
「カイエン」や「マカン」などの“新参者”と同様に、歴史ある「911」に最大限のオマージュがささげられるスポーツツーリスモ。拡大されたルーフを生かして「ポルシェ車で最大」というスライディングルーフを設定したり、その後端に2段階で動作するリトラクタブル式のアクティブスポイラーを搭載したりと、新たなトライへの意欲が見られるのも、このモデルが新市場を開拓すべく用意された挑戦者であることを象徴するかのようである。
ちなみにポルシェでは、「全パナメーラの中でスポーツツーリスモが占める割合は、グローバルで20%ほど。ヨーロッパでは30~40%になる」と予想しているという。
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「乗り降り」や「積み込み」は向上
インテリアのしつらえも、基本的にはサルーンと同じデザインを踏襲。当然ながら、フロントシートに腰を下ろしている限りは、「サルーンと何ひとつ変わるところはない」と言えるのがスポーツツーリスモのキャビンである。
一方、スポーツツーリスモならではのトピックは、パナメーラとしては初めて、5人乗りが設定されたことだ。実際のところ、そんな仕様の後席に大人3人が横並びになると、「とても実用的とは言いかねる狭さ」というのが正直な印象。だが、兎(と)にも角にも合法的に5人が乗り込めるという点については、食指が動くという人も少なくないかもしれない。
何となれば、これまではパナメーラに興味を示しつつも、「5つ目のシートが存在しない」という理由から諦める人が少なくなかったという。そんなわけで、現状ではスポーツツーリスモのみに用意されるこの5シーターインテリアは、遠からずサルーンにも設定されるのではないかと予想する。
パッセンジャーとしては、ひとたび乗り込んでしまえばサルーンと変わるところはないというのは、短時間ながらチェックできた後席での印象。もっとも、4ドアクーペ風のルーフラインを描くサルーンに比べると、ドアの開口部の形状に対して影響が少ないだけに、わずかながら乗降性は優れていると感じられた。
一方のラゲッジスペースは、地上から63cmというローディングハイト+傾斜角の強いテールゲートの組み合わせにより、「上方から、低めのフロアに荷物を積み込める」という点で、確かにサルーンのそれよりも使いやすい。
ちなみに、スペック上はサルーンより大きな値となるスポーツツーリスモの車両重量だが、「装備品の違いによるところが大きく、ホワイトボディーそのものの重さは変わらない」というのが、ボディー担当エンジニア氏から得られた回答だった。
乗り心地は極めて快適
カナダはバンクーバー郊外で開催された国際試乗会でテストドライブを行ったスポーツツーリスモは、「パナメーラ4 E-ハイブリッド スポーツツーリスモ」と「パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ」という2グレードがメイン。“史上最強のパナメーラ”として同タイミングで発表された、ツインターボ付きの4リッターV8エンジンにモーターを組み合わせた「パナメーラ ターボS Eハイブリッド」は、現在のところはサルーンのみの設定。それ以外のモデルは既存のサルーンに準ずるというのが、スポーツツーリスモのバリエーションだ。
まずはハイブリッド仕様でスタートを切ったものの、同じパワーユニットを搭載したサルーンとの走りのテイストの違いは、かなり意地悪く探してみても「思い当たらない」というのが正直なところ。
車両重量は2.2t級だが、8段DCTと組み合わせて構成されるハイブリッドトランスミッションのモーター最高出力が136ps、同最大トルクが400Nmと強力なので、デフォルトで選択されるモーター優先となるドライブモードでは、日常シーンでの大半をモーターでのスタートからこなすことになる。
その先もやはり、通常走行における加速シーンの大半で、エンジンを必要としない。モーターのみで走行した際の最高速が140km/hに達するので、バッテリーが元気なうちは限りなく“ピュアEVフィーリング”となるのが、このモデルの走りなのだ。
3チャンバー式エアサスペンションを標準とするフットワークのテイストにも、サルーンのそれと明確な違いは感じられなかった。さらなる重量物を積載する可能性を踏まえ、全バージョンでブレーキディスクのサイズをアップするなど、足まわりの強化が伝えられるスポーツツーリスモだが、快適性はサルーン同様にすこぶる高い。
ちなみに、テスト車は標準比で2サイズアップの21インチシューズやセラミックコンポジットブレーキ、リアアクスルステアなどをオプション装着していた。最後のアイテムは高速安定性を向上させるだけでなく、最小回転直径を11.9mから11.4mへと縮小させる効果もある。日本ではなかなか実用的な装備かもしれない。
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完成度で選ぶなら「ターボ」
一方、そんなハイブリッド仕様から乗り換えると、率直なところ「こちらの方が完成度が上だな」と実感させられたのがターボだった。
462psという強力なシステム最高出力を誇るハイブリッドに対しても、さらに圧倒的に高い出力(550ps)を発生する、4リッターのツインターボ付きV8ユニット。もちろんモーター無しの8段DCTと組み合わされたこちらのパワーパックは、全力走行時に怒涛(どとう)の速さを披露するのみならず、日常シーンでもゆとりにあふれており、すこぶる上質な動力性能を提供してくれることになった。
自動的に行われる走行中のエンジン始動時を含め、時にわずかなショックが感じられる場面もあるハイブリッドモデルに比べると、やはり走行シーン全般においてより滑らかで、多気筒エンジンモデルらしい上質さに満ちている。わずかなアクセル開度でも、ほとんどエンジンに負荷を掛けずに「ヒューッ」と一瞬にして加速をする様は、余裕のある心臓の持ち主ならではの特権だ。
回生協調制御の影響かコントロール性にわずかに違和感を覚えたハイブリッドのブレーキに対して、こちらは剛性感豊かなペダルタッチと、コントロールのしやすさがさらなる好印象をもたらした。図らずも、そんな2種類の乗り比べになってしまった今回のテストドライブは、ハイブリッドにとってはちょっと気の毒な舞台設定であったかもしれない。
それはそれとして、こんなパナメーラの新バリエーションが、これまでのポルシェがカバーしきれなかった新たな顧客層に対して、強い魅惑のメッセージを放つことができるのは確実。単なるボディーバリエーションの追加にとどまらない、秘めた野望を持つニューカマー……それが、満を持して登場したスポーツツーリスモの真の姿である。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラ4 E-ハイブリッド スポーツツーリスモ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5049×1937×1428mm
ホイールベース:2950mm
車重:2190kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:330ps(243kW)/5250-6500rpm
エンジン最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1750-5000rpm
モーター最高出力:136ps(100kW)/2800rpm
モーター最大トルク:400Nm(40.8kgm)/100-2300rpm
システム最高出力:462ps(340kW)/6000rpm
システム最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1100-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21/(後)315/30ZR21(ピレリPゼロ)
燃費:2.5リッター/100km(40.0km/リッター、NEDC複合モード)
価格:1521万3000円/テスト車=--円
オプション装備:--
※車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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ポルシェ・パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5049×1937×1432mm
ホイールベース:2950mm
車重:2035kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(404kW)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21/(後)315/30ZR21(ピレリPゼロ)
燃費:9.5-9.4リッター/100km(約10.5-10.6km/リッター、欧州複合モード)
価格:2453万3000円/テスト車=--円
オプション装備:--
※車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。