【F1 2018 続報】第9戦オーストリアGP「ローラーコースター・レース」
2018.07.02 自動車ニュース![]() |
2018年7月1日、オーストリアのレッドブル・リンク(4.318km)で行われたF1世界選手権第9戦オーストリアGP。気温、路面温度が高まった決勝日、各陣営はタイヤのマネジメントやマシンの信頼性に苦慮することに。目まぐるしく変わる順位を尻目に、レース中盤からトップに立ったあの男が、劇的な勝利を飾った。
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来季に向けた、強豪同士のにらみ合い
F1史上初のトリプルヘッダーの2戦目はオーストリアGP。同国の名士で、レッドブルの創業者のひとりであるディートリッヒ・マテシッツの尽力(財力)により2014年に復活した、レッドブルのお膝元でのGPである。
先ごろ、2019年からホンダのパワーユニットで戦うことを決めたレッドブルには、ダニエル・リカルドとの契約延長という、もう1つの大仕事が残っている。チームは、この5年間でともに7回の優勝を勝ち取ってきたオーストラリア人ドライバーの残留を望んでいるといわれており、リカルドは、既に長期契約を結んでいる僚友マックス・フェルスタッペンとの待遇の違いさえなければとどまることに前向きと見られている。
そもそもリカルドがほかのトップチームに移籍することは難しい状況である。メルセデスは、ルイス・ハミルトンとの契約更新はまず間違いないといわれており、またバルテリ・ボッタスもこのままのパフォーマンスを維持できれば残留する可能性は高い。さらにメルセデス系ドライバーで、現在フォースインディアに乗るエステバン・オコンというカードも残っている。
フェラーリのシートは、キミ・ライコネンの去就次第。2007年にスクーデリアでワールドチャンピオンとなった現役最年長ドライバーは、同じマシンでセバスチャン・ベッテルが今季3勝しているのに対し未勝利のままで、調子を上げてきているとはいえ往時の輝きはない。フェラーリは伝統的に実績のあるドライバーを選ぶことで知られているが、今年ザウバーを駆り活躍中のルーキー、フェラーリ・アカデミー出身のシャルル・ルクレールを来季抜てきするのではとのうわさもある。また、ベッテルとリカルドがレッドブルに在籍していた2014年シーズンには、4連覇達成の王者ベッテルがリカルドに負け越したという事実もあり、このペアの復活は微妙との見方もある。
かように膠着(こうちゃく)状態の3強間のドライバーマーケットに関して「カギを握るのはメルセデス」とオーストリアGP前の記者会見で語ったのは、レッドブルのチームボスであるクリスチャン・ホーナーだった。ワールドチャンピオンになることを渇望しているリカルドも、万一、チャンピオンチームに空きができたら……と考えれば決断には慎重にならざるを得ない。レッドブルとて、リカルド移籍となれば、ルノーに貸し出し中のカルロス・サインツJr.を呼び戻すなどしなければならないし、フェラーリもその動きに影響を受けることもあり得るわけだ。
強豪同士の腹の探り合い、にらみ合いは、夏のうちに決着するのではと見られているが、果たしてどのようなかたちで落ち着くことになるか。
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ボッタス、得意のオーストリアで今季初ポール
1周4.3kmとカレンダーで4番目に短いコースに、最少の10のコーナーが配されたレッドブル・リンクは、約65%をフルスロットルで駆け抜ける高速コースであり、63.5mもの高低差と相まって「ローラーコースター・サーキット」とも称される。さらに海抜700mの山間部にあることから空気密度も低く、そのためか、強心臓を持つメルセデスが2014年のGP復活以来全勝していた。
そのメルセデスは、バージボードやサイドポッド、ウイングなど多岐にわたる今季最大級のマシンアップデートを実施。3連戦でハットトリックを達成すべく、万全の態勢でオーストリアに入った。その成果は予選で遺憾なく発揮され、シルバーアローは2戦連続、今年3回目の最前列ロックアウトに成功。ただし今回のポールシッターはハミルトンではなく、オーストリアのコースを得意とするボッタスだった。2014年に自身初表彰台を記録、2017年には初のポール・トゥ・ウィンを飾った同地で、今シーズン初、通算5回目の予選P1を獲得した。
2位ハミルトンに次いだのはフェラーリのベッテルだったが、セッション中にサインツJr.の進路を妨害したとしてペナルティーを受け、3グリッド降格の6番グリッドに。ライコネンが繰り上がって3番グリッドを得た。レッドブルのフェルスタッペンが4番グリッド、そして今季まだ無得点と苦境に立たされているハースのロメ・グロジャンが健闘し5番グリッドを獲得した。
レッドブルのリカルドは、チームメイトのフェルスタッペンと「どちらが前を走ってアタックするか」で意見が対立、憤まんやる方ない予選を終え7番グリッドにつけた。好調ハースのケビン・マグヌッセンは8番グリッド。その後ろにはルノーの2台が並び、サインツJr.9番グリッド、ニコ・ヒュルケンベルグ10番グリッドからレースに臨んだ。
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スタートでハミルトンがトップ、2位ボッタスは無念のリタイア
快晴の決勝日に、気温22度、路面温度は47度まで上昇。この高温下で各車はタイヤに手を焼くことになる。
メルセデスは中間のスーパーソフト、フェラーリは今回一番やわらかいウルトラソフトを履き、71周のレースがスタート。蹴り出し抜群のライコネンがメルセデスの間に割って入りターン1手前まで3台が横に並んだ。トップを取ったのはハミルトン、2位ライコネン、3位フェルスタッペン、4位にボッタスとなるも、ボッタスは瞬く間に2位まで挽回。一方のライコネンはラインをはらみ、またフェルスタッペンとの軽い接触もあり4位に下がった。オープニングラップは、1位ハミルトン、2位ボッタス、3位フェルスタッペン、4位ライコネン、5位リカルド、6位グロジャン、7位ベッテルという順位で終わった。
1-2を快走するメルセデスが後続を突き放そうとしていた14周目、ボッタスが突如スローダウン。油圧系のトラブルでコース脇にマシンを止めた。今シーズン、勝利を狙える位置にいながら度々不運に泣かされていたボッタスは、またしても無念のリタイアを喫した。
このタイミングで出たバーチャルセーフティーカーに合わせて、上位陣では1位ハミルトンを除く各車が続々とピットインしソフトタイヤに交換。ハミルトンの13秒後方に、1ストップ済みの2位フェルスタッペン、3位ライコネン、4位リカルド、5位ベッテルらが続いた。
ピットに入り損ねたハミルトンには、メルセデスから「トップを失わないためには、もう8秒稼いでくれ」との厳しい無線が飛ぶのだが、それはできない相談だった。26周目、リードタイムは13秒のままハミルトンはソフトタイヤに交換、4位でコースに戻ることとなった。
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リカルド、ハミルトンも戦列を去り、残ったのは……
メルセデスの失敗を受け、レースリーダーに躍り出たのはフェルスタッペン。リカルドとともにレッドブルが1-2フォーメーションを築き、ライコネンが3位でこれを追うかたちとなった。
しかし、レッドブル1-2も長くは続かなかった。レースの折り返し地点を迎えると、2位リカルドの左リアタイヤにはブリスター(火ぶくれ)が現れ、ペースが上げられない状態に。リカルドは38周目にライコネンに抜かれ3位に後退。その直後に新しいタイヤを与えられ挽回を試みるも、マシンの不調を訴え、戦列を去った。
次にレッドブル・リンクの餌食となったのは、ハミルトンだった。1位フェルスタッペン、2位ライコネン、3位ベッテルに続く4位を走っていたハミルトンにもタイヤの熱ダレが起きており、52周を終えて2度目のタイヤ交換を余儀なくされた。その10周後、燃料のプレッシャーを失ったことにより、ハミルトンは2016年マレーシアGP以来となるリタイアを喫した。
ライバルが続々と倒れる中、トップを守っていたのはフェルスタッペン。当初あった7秒のリードタイムは、残り10周で3秒台、ゴールまで3周の時点で2秒台、そしてファイナルラップに1秒台まで縮まるも、追うフェラーリとてタイヤに余裕はなかった。フェルスタッペンは、順位がめまぐるしく変わる、まさにローラーコースターのようなレースを制し、今季初優勝を飾ったのだった。
フェルスタッペンを頂点に、2位ライコネン、3位ベッテルが両脇を固める表彰台。実はフェルスタッペンがレッドブル移籍初戦で劇的初優勝を遂げた2016年の第5戦スペインGPと同じ順位、顔ぶれである。そしてあの時も、鉄壁の安定感を誇るメルセデスが2台ともリタイアしていた(2年前は同士打ちが原因だったが)。
チームの名を冠したサーキットでの初ホームウィン、しかもオランダから大挙して押し寄せたファンの目の前での劇的勝利に、この20歳のドライバーの「幸運の引きの強さ」を感じずにはいられなかった。
また、ベッテルにとってもラッキーな週末だった。グリッド降格ペナルティーから3位表彰台を引き寄せ、さらにはレース前にハミルトンとの間にあった14点のギャップが、1点のリードに変わったのだ。オーストリアGPは、2018年シーズンを象徴するかのような、意外性に満ちた一戦だった。
怒涛(とどう)の3連戦の最後は、“ハミルトンの庭”であるイギリスGP。決勝は7月8日に行われる。
(文=bg)