ボルボXC40 T4 AWDインスクリプション(4WD/8AT)
人に優しいブルドッグ 2018.12.03 試乗記 好評を博しているボルボのコンパクトSUV「XC40」。豊富なラインナップの中から、今回はベーシックな190ps仕様の上級グレード「T4 AWDインスクリプション」に試乗。東京-愛知を往復するロングドライブを通して、その出来栄えを体感した。想像していたより大きく見える
午前5時30分に、都内某所でwebCG編集部のH氏、カメラマンのA氏と合流。クルマ業界の朝は早い。でも早起きが苦にならなかったのは、業界内で絶賛の嵐となっているボルボXC40に初めて試乗できるから。「あまりに気に入って買おうと思ったら、納車待ち半年だと言われた」とボヤいていたジャーナリストがいたけれど、ホントにそんなにいいクルマなのか?
街路灯に照らされたボルボXC40 T4 AWDインスクリプションは、190ps仕様の2リッター直列4気筒直噴ターボエンジンを積む4WDモデル。パッと見、想像していたよりもひとまわりデカく感じた。理由はふたつ。まず、全長4425mmはコンパクトSUVと呼ぶにふさわしいけれど、全幅は1875mmとなかなかに立派だからだ。小柄だけれど骨太な方、という印象である。
もうひとつ、このサイズとしては結構な大きさのラジエーターグリルと切れ長のヘッドランプの組み合わせが、ただでさえ立派な横幅をさらに強調しているのだ。顔つきも生意気で、そういえばボルボのデザイン陣が、同社のフラッグシップSUVである「XC90」はライオン、末弟のXC40はブルドッグのイメージだと言っていたのを思い出す。なるほど、そういわれればXC40はブルドッグに見えないこともない。
ブルドッグに乗り込むとインテリアはすっきりモダン。スイッチ類をできるだけ少なくして、9インチのセンターディスプレイにタッチすることで空調やオーディオ、車両セッティングなどをコントロールさせる。スイッチ類が少ない一方で、センターコンソール、前席下、ドアポケットなどなど、収納スペースは豊富。モノ入れをたくさん作って使い勝手をよくしながら、ぬかみそ臭さがが出ないあたりのデザインがうまい。
本日の目的地は、とある別件の取材のために愛知県豊田市。編集部H氏のGoogleマップ検索によると、片道4時間の行程になるという。というわけで、早朝の都心を出発進行!
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
乗り心地のよさは1000万円級
市街地を走りだしての第一印象は……、実はあまり記憶に残っていない。2リッターの直4直噴ターボはアイドル回転付近から十分なトルクを発生して車体を引っ張り、アイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATがシームレスに変速する。つまり、何の気遣いも要らなければストレスも皆無、かといって特別に加速感やレスポンスが心に残るというわけでもない。おいしい水や空気が5分後にはあたりまえに感じるように、ボルボXC40 T4 AWDインスクリプションのドライブフィールも清らかで、そのために心に強烈な印象を残すことはない。
けれども首都高速に上がってからは、強烈な印象が残った。数々のクルマが馬脚をさらした悪名高き首都高速3号線のつなぎ目を、北欧からやって来たブルドッグは軽やかに駆け抜けたからだ。クルマによっては「ズシン」とか「ガキン」とか、とにかく濁音で表現したくなるショックが伝わるのに、ブルドックの四肢はきれいに伸び縮みして衝撃を吸収し、「タン、タン、タン」とメトロノームのように規則正しくリズムを刻む。
全長4425mmといえば、日本車で言うとトヨタの「カローラ スポーツ」よりほんの5cmだけ長いサイズ。そのクルマがこれだけ見事な乗り心地を見せるのはスゴい! そう思って、助手席に座るwebCG編集部のH氏に感動を伝えると、H氏はつぶらな瞳をしっかりと閉じてお休みになっていた。仕方がないので後席に座るAカメラマンにその感動を伝えたところ、後席も路面からのショックが抑えられた、良好な乗り心地だという。
2018年もいろんな新型車で首都高速3号線を走ったけれども、この快適さは「メルセデス・ベンツCLS」とほぼ同等ではないか。CLSがエアサスに電子制御式サスペンションを組み合わせた1000万円クラスの高額モデルであることを考えると、ボルボXC40 T4 AWDインスクリプションには「首都高3号線・段差・オブ・ザ・イヤー」を進呈したい。なんの権威も副賞もありませんが。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ロングドライブが楽しいクルマの条件
ボルボXC40 T4 AWDインスクリプションは西へ向かう。
クルマには2種類あって、それは淡々と距離を刻むのが苦痛なクルマと、特にドラマがなくてもロングドライブをするのが楽しいクルマだ。このクルマは間違いなく後者。その理由として、まず前述した乗り心地のよさがある。乗り心地にもつながるけれど、ボディーがいかにもがっしりしている印象で、ガタピシしないのもリラックスできることにつながる。
そしてもうひとつ、ステアリングフィールがよいことも、のんびり走っても楽しめる大きな理由だ。重すぎず、軽すぎず、適度な手応えのステアリングホイールは、タイヤと路面とがどのような関係にあるのかを、リアルに伝えてくれる。タイヤがどっちを向いているのか、路面はどんなコンディションなのか、といった情報量の密度が濃いから、常にクルマと対話しているように感じられる。だから、飛ばさなくても楽しい。
センターディスプレイで車両セッティングのページを呼び出し、「コンフォート」から「ダイナミック」に切り替えてみる。ちなみに、ほかに「エコ」と「オフロード」、そして自分にあったセッティングにできる「インディビジュアル」のモードが用意される。
「ダイナミック」を選ぶと、アクセル操作に対する反応がシャープになり、8段ATも高回転まで引っ張るように特性が変わる。けれども、高速道路をクルーズするような乗り方では、特にありがたみは感じない。「コンフォート」でも十分楽しく、快適に走ることができる。
「ダイナミック」が本領を発揮したのは、高速道路を降りてちょっとしたワインディングロードに差し掛かってからだった。
運転支援システムに見る“一日の長”
首都高速3号線で驚いたのと同じように、ワインディングロードでもボルボXC 40 T4 AWDインスクリプションにはびっくりした。乗り心地のよさを損なわないまま、安定したフォームでコーナーをクリアするからだ。といってもライトウェイトスポーツのようにカツン、カツンと曲がるわけではなく、適度にロール(横傾き)をしながら曲がるわけだけれど、このロールがいい。例えば左コーナーに入ると、外輪、つまり右のタイヤが沈み込む。この時、右前輪と右後輪がバランスよく、シンクロナイズドスイミングのペアのように息を合わせて沈み込むのだ。
そしてここで「ダイナミック」が活躍する。コーナーの出口に向かってアクセルペダルを踏み込むと、鋭いレスポンスで応え、シフトアップせずにエンジンは高回転域まで吹け上がる。正直、回したからといって音や回転フィールにシビれてアタマの中が真っ白になるような官能的なエンジンではないけれど、スポーツドライビングを楽しむには十分だ。高速といい、ワインディングロードといい、絶賛の嵐の理由がよくわかった。
そして取材を終えて、夕刻、今度は東へ向かう。多少はくたびれていたので、全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)のスイッチをオン。これはXC40に限らず、ボルボの最新モデルに共通であるけれど、運転支援装置のインターフェイスが素晴らしいと思う。ACCはステアリングホイールを握る左手親指のワンアクションで設定可能。車線維持支援機能も簡単に起動できる。また、この手の装置にいち早く取り組んでいたアドバンテージだと思うけれど、追従する際の加速と減速が滑らかというか、人の感覚に近い。なるほど、パッと見は生意気そうだけれど、実は人懐っこいブルドッグだ。
そう伝えようとして助手席を見ると、webCG編集部のH氏は、そのつぶらな瞳をしっかりと閉じてお休みになっているのだった。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ボルボXC40 T4 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1875×1660mm
ホイールベース:2700mm
車重:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4700rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/1400-4000rpm
タイヤ:(前)235/50R19 99V/(後)235/50R19 99V(ピレリPゼロ)
燃費:13.2km/リッター(JC08モード)
価格:499万円/テスト車=525万4000円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/パワーゲート<ハンズフリーオープニング/クロージング機構付き>(5万8000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2418km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:772.6km
使用燃料:66.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.7km/リッター(満タン法)/12.2km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。

















































