トライアンフ・ストリートスクランブラー(MR/5MT)
思わず夢中になっちまう 2019.02.16 試乗記 堅牢なオフロードスタイルとファッション性、そして多用途性を併せ持つ、トライアンフのネオクラシック「ストリートスクランブラー」。またがってむちを当てるや、ライダーは気軽にどこでも行きたくなる自由な気分に満たされるのだった。フィーリング重視のツインエンジン
スクランブラーとは、本格的なオフロードバイクがなかった時代、ロードバイクにオフロード用のタイヤ、マフラー、ハンドルを取り付けたモデルのことだ。昨今のネオレトロのムーブメントとともにまた人気となりつつあるのだが、その主たる理由は走りや機能ではなく、そのスタイルにある。ところがストリートスクランブラーに乗ってみて、ロードモデルとは少し違った走りのテイストがあることに気づかされることになった。
ストリートスクランブラーで走りだして最初に感じるのはその乗りやすさだ。ハンドリングもエンジンの特性も非常に扱いやすく、ライダーが神経を使うようなことがない。搭載されている「ボンネビル」系の900ccエンジンは、低回転から非常に力強いトルクを発生し、スロットルを開けると車体を力強く押し出す。しかし、過敏さはまったくない。フライホイールマスが非常に大きなエンジンだからである。
効率や性能を追求してフライホイールマスを小さくしたエンジンは少なくない。最新のマネジメントシステムがあれば、それでも乗りやすい特性にできる。ところがストリートツインはそういったやり方をせず、エンジンそのもので特性を作り込んでいる。回転力がクランクとフライホイールにため込まれ、スロットルを開けた瞬間にエンジン自体のトルクとともに車体を押し出すから、力強く、滑らかな加速感が生まれるのだ。
270度という不等間隔の爆発は、低中回転で歯切れが良い排気音とツインらしい鼓動感を作り出す。前述した大きなフライホイールマスのおかげでアイドリング付近の超低回転からのスタートも容易だから、低い回転でクラッチをつなぎ、ツインのドコドコという鼓動感とともに速度が上がっていく感じを存分に楽しむことができる。回転が上がっていくと鼓動感は弱くなってしまい、振動も出てきてしまうのだけれど、高回転まで回さなくても十分にパワーがあるから、ストリートや高速道路の巡行では、気持ちの良い回転域をキープして走ることができる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
まるでスニーカーのように
ストリートスクランブラーは、同じトライアンフの「ストリートツイン」をベースにしているのだが、乗り比べてみるとハンドリングが異なる。オフロードタイヤを装着するためフロントタイヤがワンサイズ大きな19インチになっているからだ。大きなフロントタイヤが生み出すジャイロ効果のおかげで、バイクがバンクした時もクイックにステアリングが切れていったりしない、ビッグバイクらしいユッタリとしたハンドリングになっている。ロードを軽快に走るのであれば、ストリートツインなどのロードモデルに採用されている18インチタイヤの方が総合的には優れているだろう。けれど、19インチタイヤの作り出すこのフィーリングもまた捨てがたいものだ。
このモデル、形だけのスクランブラーかと思いきやオフロードライディングも考慮されていた。モードセレクターをオフロードに切り替えると、トラクションコントロールがカットされる。とはいっても車体はそれなりに重いし、サスストロークもオンロードモデルと同じレベルだ。タイヤもそれほどオフを強く意識しているわけではないから、無理は禁物。そう自分に言い聞かせて走りだしてみると、これが予想をはるかに超えてよく走る。
オフで特に魅力が際立っていたのは力強いエンジンの特性。スロットルを開ければビッグバイクのトルクでリアタイヤは簡単に滑り出すのだけれど、過敏さがないエンジン特性に加え、不当間隔爆発独特のトラクション性能があるためにリアタイヤの流れ出しも緩やか。ハンドリングも安定感があるから、フラットなダートであれば不安なく走ることが可能。大きな車体を振り回して走るのは予想外に楽しく、最初は撮影のために少し走るだけにしておこうと思っていたのに気がつけば夢中で走り続けてしまったほどだ。
900ccもあるビックバイクでありながら気軽に走りだすことができるほどの乗りやすさ。普段着でマシンにまたがっても違和感なくなじむカジュアルな雰囲気。ストリートでの軽快な走りとその気になればオフも走れてしまう自由さ。それがストリートスクランブラーの特徴。ビックバイクでありながら走る場所や使い方を選ばない。スニーカーのように気軽に使うことができるバイクなのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2125×835×1180mm
ホイールベース:1445mm
シート高:790mm
重量:198kg
エンジン:900cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ
最高出力:65ps(48kW)/7500rpm
最大トルク:80Nm(8.2kgm)/3200rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:4.1リッター/100km(約24.4km/リッター、社内参考値)
価格:128万0100円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
NEW
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。