ボルボV60 T8 Twin Engine AWD R-DESIGN(4WD/8AT)
雪と氷が鍛えたワゴン 2019.02.19 試乗記 日本導入を間近に控えた「ボルボV60」の最上級モデル「T8 Twin Engine AWD」に、本国スウェーデンで試乗。前輪をエンジンで、後輪をモーターで駆動するパワフルなプラグインハイブリッド機構は、雪の上でどのような走りを見せるのか?北極圏の街でボルボのPHEVワゴンを試す
2018年3月のジュネーブモーターショーで世界初公開された、ミドルクラスワゴンの新型ボルボV60。半年後の同年9月には日本でも純ガソリン車が販売開始となり、さらにプラグインハイブリッド車(PHEV)の「T8 Twin Engine AWD」「T6 Twin Engine AWD」も間もなく発売の予定となっている。今回、ボルボのお膝元であるスウェーデン・ルーレオで、そのT8 Twin Engineに試乗する機会を得た。
……ん? ルーレオ? そうルーレオである。ボルボのふるさとイエテボリでも、スウェーデンの首都ストックホルムでもなく、ボスニア湾のドンつきに位置する北部の港湾都市。オーロラで有名なラップランドの玄関口だ。最低気温マイナス20度の世界で、普通の道はもちろん、凍った海や川をクルマで横断するという、なかなかに得がたい体験をさせてもらった。
状況説明はこの辺にしてT8 Twin Engineの話をさせてもらうと、これはパワーとエコの両立を標榜(ひょうぼう)する、V60の最上級モデルだ。モデル名の“Twin Engine”とは、前輪を2リッターの過給機付き直4ガソリンエンジンで、後輪を電動モーターで駆動するパワープラントに由来するもので、毎度の口上で恐縮だが、別にエンジンを2個積んでいるわけではない。出力&トルクは前者が303ps/6000rpmと400Nm/2200-4800rpm、後者が87ps/7020rpmと240Nm/0-3000rpm。システム最高出力は実に390psを誇る。
なお、数種類用意されるグレードのなかでも、試乗車に採用されていたのはスポーティーなキャラクターの「R-DESIGN」。ここで「ん?」と思った方はなかなかのボルボ通で、実は日本仕様のT8 Twin Engineには、今のところ上質さが旨の「インスクリプション」しか用意されていない。というか、現状ではV60全体でR-DESIGNの設定がない。読者諸兄姉におかれては、「今回の試乗車は、当面の日本仕様とはちょっと違う」という点に留意して、読み進めていただきたい。
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硬いといえば硬いけど……
それにしても、ラインナップ中最もパワフルな心臓の、しかもスポーティー仕様のクルマに冬のルーレオで試乗である。道はもちろん凍っているし、滑り止めの砂や砂利がばらまかれているし(それでも滑るし)、氷や、あるいは凍った雪で間断なくデコボコしている。ボルボ・カーズからしたら余計なお世話だろうが、取材前の記者は「これ、クルマと道の相性悪くね?」と勝手に心配していた。
そしてやはり、クルマが走りだして真っ先に抱いた感想は、「この道では、ちょっときついな」というものだった。記者の取材はいわゆる“後席試乗”から始まったのだが、その乗り味はゴツゴツしていて、路面のうねりやザラザラ、デコボコを、比較的正直にシリに伝えてくる。同時に試乗していた「V60クロスカントリー」から、フィルターを2、3枚はぐった感じだ。端的に言って揺すられた。どれくらい揺すられたかというと、決して立て付けの悪くないインテリアがキシキシと音を上げるくらいには。
ただ、繰り返しになるが、V60の中で最もパワフルでスポーティーな仕様に氷雪路で乗ってるんだから、そんなの当たり前である。それにゴツゴツはするものの、「うっ」と眉をしかめたくなるような鋭い類いのショックはない。不意の段差も「ゴン、ゴゴン」と丁寧にカドを丸めていなすあたりには、シッカリ系だけどちゃんと衝撃を緩和する=本分をおろそかにしない、足まわりのシゴトっぷりが感じられた。それに、当時のメモを振り返ってみると「19インチのタイヤがバネの先でぶるぶる暴れて~」などといった記載がない。足先のしつけの良さは、“デビュー1作目”である「XC90」のころから受け継がれる、SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)の美点だと思う。いやはや、もっとヒドいことになると覚悟していた記者にとって、この乗り味はむしろ拍子抜けだった。
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加速も減速もまことに自然
一方、こちらは予想通りというか、期待通りだったのが操縦安定性の高さ。制限速度110km/hの高速道路を人生初の“スタッドタイヤ”でぶっとばしても違和感なし。合流加速でグイっと踏んでも前にも横にも滑らない。タイヤの恩恵もあるのだろうが、複雑な4WDシステムと作りこまれた電子制御のなせる業は、まことアッパレである。カタコトの英語でそう感想を述べたところ、ボルボのエンジニアは「PHEV化で前後重量配分が良くなったのも効いてるのかもしれないね」と言っていた。多分。
ドライバビリティーも上々で、前後輪を別々の発動機で動かすという複雑怪奇なパワープラントのくせに、アクセルを踏み込んでいったときの加速フィールに“段付き”や“息継ぎ”はなかった。これはブレーキも同じで、エネルギー回生をしているにもかかわらず、その利き方は自然そのもの。おかげで、50km/h、70km/h、そして今度は30km/hと、目まぐるしく変わる制限速度に労せず車速を合わせられる。回生ブレーキについては“発電量・命”で制御を作りこむメーカーも少なくないが、もともとブレーキってのは減速したりクルマを止めたりするのがシゴトでしょう。これまた本分を忘れていないT8 Twin Engineのそれは好印象だった。
動力性能やPHEVとしての実力も試したい
公道での試乗の翌日は、凍結した海の上で(!)、普段は試せないようなやり方でクルマの挙動をチェック。スタッドタイヤを履くとはいえ、車速70km/hでのダブルレーンチェンジもそつなくこなすT8 Twin Engineに舌を巻いた。ただ同時に、「こういうシーンでの操作のしやすさは、やっぱりV60クロスカントリーに軍配だなあ」とも実感した。
もちろん、そんなのは当たり前の話であるし(そうじゃなかったらV60クロスカントリーの立つ瀬がない)、T8 Twin Engine単体で見た時の、「タフが身上の豪速ワゴン」という心証は揺るがない。このクルマは、いかにも雪国が鍛えたスーパーワゴンだ。わざわざ北緯65度の街で試乗した意義があったというものである。
だいたい、先ほどから本領ではないところでばかり批評されるV60 T8 Twin Engineにも言いたいことは多々あろう。今回の試乗は、街中の道や緩やかなカントリーロード、高速道路を含む100km余りの道のりで行われたが、複数のメディアでクルマをシェアする内容であったため、実走行でのEV走行距離や、モードに応じて駆動方式が変化するパワープラントの特性など、PHEVとしての見どころを確かめるにはいたらなかった。恐らくは400ps級と評していいだろう動力性能についても同じだ。
よろしい。だったらいろいろ試してみようじゃないの。読者諸兄姉が住まう、ここニッポンで。V60 T8 Twin Engine AWDインスクリプションの日本発売は2019年3月の予定。その時が来たらぜひ、今回は試せなかった自慢の動力性能や、PHEVとしての実力もお届けしたい。
(文=堀田剛資/写真=ボルボ・カーズ、webCG/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ボルボV60 T8 Twin Engine AWD R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4761×1850×1432mm
ホイールベース:2872mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:303ps(223kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2200-4800rpm
モーター最高出力:87ps(65kW)/7020rpm
モーター最大トルク:240Nm(24.5kgm)/0-3000rpm
システム最高出力:390ps(288kW)
システム最大トルク:640Nm(65.3kgm)
タイヤ:(前)235/40R19 96H XL/(後)235/40R19 96H XL(ノキアン・ハッカペリッタ8)
ハイブリッド燃料消費率:2.1-2.5リッター/100km(40.0-47.6km/リッター、WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:577km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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