ルノー・メガーヌ ルノースポール カップ(FF/6MT)
屁理屈とともに 2019.05.09 試乗記 新型「ルノー・メガーヌ ルノースポール(R.S.)」に、6段マニュアルトランスミッション(MT)とよりハードなシャシーを備えた限定車「カップ」が用意された。“MT車保存会の会員”を自認する下野康史は、その出来栄えをどうジャッジする?半年前に書いちゃいました
新型メガーヌR.S.の大きな魅力は、レスポンスにもマナーにもすぐれたゲトラグ製6段DCTである。そのため、『このクルマをMTで乗ってみたいとは一度も思わなかった』。
半年前、『webCG』の試乗記にそう書いたら、MTが出てしまった。100台限定で国内導入される“カップ”仕様だ。本国にはもちろんMTモデルもあるが、日本仕様はDCT(デュアルクラッチトランスミッション)でスタートした。メガーヌR.S.初にして待望の2ペダル変速機なのだから、当然だろう。しかしMT派フレンドリーなルノー・ジャポンとしては、引き続きMTモデルにもコミットしておきたい。そこで、シャシーカップ仕様との組み合わせでお取り寄せが実現したというわけだ。
2ペダルのDCTモデルに対して、バネ定数をフロントで23%、リアで35%アップ。ダンピングレートを25%高めるなど、ひとくちにサスペンションをさらに硬くしたのがカップ仕様である。
駆動系では、機械式のトルセンLSDを装備。ブレーキは、ディスクローターのハブ部分をアルミ化して、バネ下重量を1輪あたり1.8kg軽減している。279psを発生する1.8リッター4気筒ターボに変更はないが、主に変速機の違いで、車重は20kgマイナスの1460kgに仕上がっている。
価格は450万円。カップ仕様の付加価値と、MTによるコストダウンがほぼ相殺されて、DCTモデルのプラス10万円に収まる。
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40km/hから255km/hまで
メガーヌR.S.の6段MT。朗報はまずクラッチペダルがぜんぜん重くないことだ。どのくらいの足応えだったか、覚えていないくらいの重さである。
シフトフィールもワルくない。動きに多少の硬さはあるものの、ゲート感はしっかりしている。現行MTでサイコーといっていいくらい気持ちいい「ホンダ・シビック タイプR」のシフトフィールには及ばないが、でも、タイプRにDCTはないでしょ、というのがメガーヌR.S.の自慢である。
MTで味わうメガーヌR.S.は、予想したとおりDCTほど速くない。3ペダルのMT車は、自分で速くシフトしないと、速く走れない。どんなに速く走ろうとしたところで、DCTの電光石火シフトには勝てない。走りだした途端、思わず笑いがこみ上げてくるような速さと軽さは、このMTモデルでは感じなかった。
デフォルトのニュートラル(ノーマル)モードだと、レブリミットは6500rpmに規制される。それを知らずに初めてフル加速したとき、ターボキックの次の瞬間にはリミッターに当たり、加速が止まって驚いた。こんなことは、勝手にシフトアップしてくれるDCTでは、ない。ヘタだと、そのままヘタが出るのが、すべて“マニュアル”の特徴である。
スポーツモード以上だと7000rpmまで回るエンジンは、一方、おそろしく低速も効く。40km/hから6速トップ(800rpm!)のままアクセルを踏み込んでも、ジャダーなどいっさい起こさずに加速してゆく。つまり、このトップギアは40km/hから最高速の255km/hまでカバーするわけだ。低回転までよく粘る、ピーキーさとは無縁のエンジンだから、町なかであくせくシフトダウンする必要はまったくない。世界最速のFF車の1台でありながら、非常に乗りやすいMT車である。けれども、逆に言うと、そういうエンジンなら自動変速に任せたほうがいいのでは、という見方もできる。
硬くても乗り心地は悪くない
自分のウデでは、公道でとても限界になど踏み込めない。以前乗ったDCTモデルではそう感じたが、その足まわりをさらに固めたシャシーカップやいかに。ひと泡吹かせてみたかったが、行きつけの山道はあいにく季節外れのみぞれ模様で、満足に走ることはできなかった。
限界性能はともかく、この足まわりで最初から好印象だったのは、乗り心地が悪くなっていないことである。ちなみに、タイヤは以前乗ったDCT仕様と同じ「ブリヂストン・ポテンザS001」(245/35R19)である。先代メガーヌR.S.後期のハーダーサスペンション仕様には、ガチガチに硬すぎて、もはや実用には限界と思わせるモデルもあった。3代目メガーヌR.S.のサスペンションが、スポーツ性能と快適性との妥協点をより高いところへ引き上げたのは間違いない。これから出るハイチューンモデルも楽しみだ。
町なかでひとつ気になったのはアイドリング時のエンジン音である。燃料ポンプ系の音なのか、キーンという高周波音が耳につく。DCTでは感じなかった。出っぱなしならまだしも、アイドリングストップするので、再始動のたびに聴こえる。音に敏感な人には耳障りかもしれない。
昔から高性能ルノーの“あるある”だが、エンジンをきったあとの電動ファンも賑やかだ。音も大きいし、作動時間も長い。試乗したのは寒い日だったが、4分くらい回っていた。たまたま水温の巡り合わせが悪かったのかもしれないが、暑い時期に乗ったDCTではこの点も気にならなかった。
MTを弁護するための屁理屈
ドライブモードの選択はセンターディスプレイで行うが、ダッシュボード中央にあるR.S.ボタンを押せば、スポーツモードに直行し、アクセルレスポンス、エンジン音、操舵力、4コントロール(後輪操舵)などの設定がスポーティーになる。アイドリングストップもキャンセルされる。DCTモデルのような刺激的は速さはないので、少し乗り慣れてからは、試乗中ほとんどずっとスポーツモードで走った。スポーツからニュートラルモードに戻すと、ルノー・スポールとしてはちょっと物足りないと感じた。
2ペダルのDCTがこれだけよくできているクルマで、MTモデルを推すのはいよいよむずかしくなってきた。正直、それが今回の結論である。
MTを弁護するには、絶滅危惧種を所有するプライド&ジョイがあるとか、エンジンをより“生”で味わえるとか、エンストする自由があるとか、いろいろ屁理屈をこねないといけない。いや、このクルマには“エンジンストール補助機能”というのが付いていて、仮にエンストしても、すぐにクラッチを踏めば再始動してしまう。
それでもなお、病膏肓のMTファンはいて、限定100台はとっくにSOLD OUTだそうだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ルノー・メガーヌ ルノースポール カップ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1875×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:279ps(205kW)/6000rpm
最大トルク:390Nm(39.8kgm)/2400rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y XL/(後)245/35R19 93Y XL(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:450万円/テスト車=453万8880円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(3万2400円)/カードキーカバー(6480円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1707km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:460.6km
使用燃料:50.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.2km/リッター(満タン法)/11.0リッター/100km(約9.1km/リッター、車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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