ルノー・メガーヌ ルノースポール(FF/6AT)
最良にしてサイコー 2018.11.06 試乗記 FF市販車ニュル最速の座を奪還すべく、新たなエンジンやデュアルクラッチ式AT、4輪操舵システムなどを手にした新型「ルノー・メガーヌ ルノースポール」。富士山麓のワインディングロードで、その進化のほどを探った。「シビック タイプR」の記録に挑む
ノーマルの「メガーヌIV」の国内導入から10カ月。待望のルノースポール(以下R.S.)が日本に上陸した。メガーヌR.S.は、言わずと知れたメガーヌのトップガンである。と同時にニュルブルクリンクでFF市販車世界最速の座を賭けるのが近年のならわしだ。
ライバルは「ホンダ・シビック タイプR」。2017年9月に現行の新型「シビック」を国内導入したホンダは、シリーズのフラッグシップをタイプRと位置づけ、発売前にニュルブルクリンク北コースへ乗り込んで、旧型が持つクラストップのラップタイムをさらに7秒近く更新(7分43秒80)してみせた。「当分、ルノーさんもついてこれないでしょう」。担当エンジニアがそう語っていたのは、新型シビックのお披露目となった2017年5月の「シビックデイ」だった。
そんなル・ジャポン・アタックに反撃する新型R.S.のニュルチャレンジは、高性能仕様の「トロフィー」を使って2018年10月中に行われると予告されていた。
今回試乗したのは、新型第1弾の標準モデルである。エンジンは新開発の1.8リッター4気筒ターボで、279psを発する。2リッターターボで320psを出すタイプRからは見劣りするものの、変速機に初めて2ペダルの6段DCTを採用したのがライバルにはない武器である。そのほか、後輪操舵の「4コントロール」や、ラリーカー由来の油圧ダンパーなど、シャシーでも大いに戦闘力を高めている。
シビックタイプRの450万0360円に対して、メガーヌR.S.は440万円。シビックもメイド・イン・UKの“輸入車”とはいえ、新型メガーヌR.S.は価格の戦闘力も高い。
レスポンスのカタマリ
メガーヌR.S.で走りだしたのは、富士山麓のワインディングロードだった。いや、正確に言うと、ワインディングロードへ向かうために、駐車場を出た。しかし早くもそのあたりで、新型R.S.の魅力にノックアウトされていた。サーキットモンスターなんかじゃない。新生R.S.は、走りだすなり、眉間のシワがゆるむクルマである。
魅力の源は、“自在感”だ。全長4.4m、全幅1.9m近い5ドアボディーは、もはやコンパクトハッチとは言い難い。車重も1.5t近くある。にもかかわらず、身のこなしがすばらしく軽く、意のままに動く。
では、自在感の源はなんだろう。それはクルマ全体から伝わるレスポンスのよさだと思う。まずはこの直噴1.8リッターターボ+6段DCTのパワートレインがレスポンスのカタマリである。
DCTの変速は速く、しかもなめらかだ。基本的に同じパワートレインを使う「アルピーヌA110」は、レースモードだとメカノイズや変速ショックを感じることがあったが、そういう面でも洗練されている。
スポーティーな領域だけでなく、ロボタイズドMTではギクシャク感が出がちな車庫入れ時などの微速域のマナーも文句なしである。MT車保存会の会員なので、マニュアルには屁理屈を弄(ろう)してでも肩入れしたいところだが、このクルマをMTで乗ってみたいとは一度も思わなかった。ツッコミどころがないDCTである。
0-100km/hのメーカー公表値は5.8秒。「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」が6秒台半ばだから、やはりFF車としては別格の速さだが、かといって自分が置いていかれるような、疎外感を覚える速さではない。それも自在感のおかげである。
ファミリーカーとしても(ぎりぎり)イケる
専用開発された245/35R19の「ブリヂストン・ポテンザS001」で路面を捉えるシャシーは、同じく4コントロールを備える「メガーヌGT」をさらに骨太にしたような印象だ。コーナーでがんばると、FFなのに後輪も路面を蹴っているように感じることがある。それが後輪操舵の恩恵なのか、よくわからないが、とにかく限界はおそろしく高い。
しかし、限界が高いからといって、つまらないわけではない。レスポンシブな操縦性は、低いスピードでも味わえるし、楽しませてくれる。
乗り心地もいい。もちろん硬めだが、旧型「メガーヌR.S.トロフィー」仕様のようなシンドイ硬さではない。ワイドトレッドでうずくまるような低さなのに、サスペンションのストローク感はたっぷりしている。アルカンターラでくるんだスポーツシートも快適だ。ぎりぎり、ファミリーカーとしてもイケるクルマである。
富士山の5合目へ上がる急坂でちょっと加速すると、前輪が接地を失ってダダダっとジャダーを起こした。以前、シビック タイプRで八ヶ岳へ向かう緩い上り坂を走ったときも、急加速すると前輪が暴れた。これだけパワフルなFFなのだから、上り坂で後輪荷重が増してそうなるのは仕方ない。トラクション(駆動)の物理的な限界を考えると、つい最近までFFは250psがリミットと言われたのだ。
ベース車のよさが生きている
ドライブモードは、コンフォートからレースまで4種類。モードをハードにするにつれ、エンジン/排気音も大きくなる。それがアフターファイア系のかなり“つくった音”で、走行中はいつもポコポコ、カポカポいっている。もう少しサウンドチューニングがうまくできなかったものか。コンフォートだとその音がまったく消えることがわかり、途中から多用した。
でも、史上最良にしてサイコーのメガーヌR.S.だと思った。メーカーの威信を賭けたタイムアタッカーなのに、まるで100psの自然吸気テンロクホットハッチのような楽しさがある。ドックンドックン血が通っている。フレンチロケットであるにしても、柔らかい。そのへんが実にフランス車だなあと感心した。
対するシビック タイプRは、もっとまじめで冷静なクルマだ。そこが“味”である。なんて言っても、この2台を二択で選ぶ人はいないと思う。どちらも指名買いだろう。
先日、メガーヌGTで長距離ドライブをした。いま欧州Cセグメントの実用ハッチバックを買うなら、ゴルフよりもこれだろう。新型メガーヌR.S.を知ったあとでも、205psのGTはいいクルマだなあと思った。というか、ベースがいいから、ルノースポールもいいのだ。つまり、通算4代目になる今度のメガーヌは傑作なのである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ルノー・メガーヌ ルノースポール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1875×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1480kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:279ps(205kW)/6000rpm
最大トルク:390Nm(39.8kgm)/2400rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y XL/(後)245/35R19 93Y XL(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:13.3km/リッター(JC08モード)
価格:440万円/テスト車=491万4080円
オプション装備:ボディーカラー<オランジュトニックメタリック>(15万6600円) ※以下、販売店オプション ナビゲーションシステム(28万0800円)/フロアマット(3万2400円)/ETC車載器(1万2960円)/エマージェンシーキット(3万1320円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:5635km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:399.2km
使用燃料:49.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/12.2リッター/100km(約8.2km/リッター、車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。