三菱eKクロスT(4WD/CVT)
カスタム顔に飽きたなら 2019.06.05 試乗記 派手なフロントマスクにばかり目が行きがちだが、「三菱eKクロス」は中身にもそこかしこに配慮の行き届いた、使い勝手のいい軽乗用車だ。気になる走行性能や先進運転支援システムの出来栄えなどをリポートする。「デリカD:5」と正反対の反応
三菱eKクロスの評判がいい。「eKワゴン」や「日産デイズ」もそこそこ好評なのだが、eKクロスを称賛する声が突出している。メカニズムや装備などはほとんど変わらないのだから、主に評価されているのはデザインなのだろう。同じような顔つきの「デリカD:5」はあれほど攻撃されたのに、正反対の反応である。
「ダイナミックシールド」というデザインコンセプトは「エクリプス クロス」でも使われていて、特に悪評は聞かない。デリカの場合、以前のデザインに愛着を持つ人から極端に嫌われてしまったということが考えられる。まっさらな目で見れば、三菱が主張するRobust(力強い)でDependable(信頼性のある)でFunctional(機能的な)という要素をうまく表現しているのだ。eKクロスは幅が狭いことからフロントマスクの「X」モチーフが強調される形になり、スタイリッシュさを感じさせるのかもしれない。
軽自動車のハイトワゴンやスーパーハイトワゴンが似通ったデザインになってしまったことで、ユーザーは少しでも違いのある形を求めているのだろう。少々価格が張っても「スズキ・ハスラー」を買いたいと思う人が多かったことからもわかる。優しげなノーマルモデルといかついカスタムの2種を用意するのが定番となったが、デザインはどのメーカーも似たり寄ったり。eKクロスぐらいアクが強いほうがアピールできるのだ。
開発を主導したのが日産であることはこれまでに伝えられているとおり。軽自動車を手がけるのは初めてだというのに、見事な仕事ぶりである。長きにわたって国内で新型車を発表していなかったので、エンジニアがたまっていたうっぷんを一気にぶつけたのだろうか。もちろん、製造を担った三菱の生産技術も称賛されてしかるべきだ。
コンパクトカーとがっぷり四つ
eKクロスは、「スズキ・ワゴンR」が切り開いたハイトワゴンというジャンルに属する。ほかにも「ダイハツ・ムーヴ」「ホンダN-WGN」などが居並ぶ激戦区だ。最近はさらに背の高いスーパーハイトワゴンが主流になっているものの、根強い人気を持つ。大きな自転車を積まなければならないといった事情がなければ、十分なスペースが確保されている。広さと実用性、運転のしやすさなどの条件をバランスよく満たすのがハイトワゴンだろう。
試乗車はターボエンジンを搭載する4WDモデル。最上級グレードであり、車両本体価格176万5800円といういいお値段である。もろもろのオプションを加えると230万円超。ハイトワゴンの上級バージョンは、今やそういう価格帯のクルマなのだ。登録車のコンパクトカーとがっぷり四つで勝負しなければならない。内外装の質感が高いのは当然だ。
試乗車は2トーン仕様で、アイボリーとオレンジメタリックの組み合わせがオシャレ感を漂わせる。モノトーンと合わせて11種類のボディーカラーが用意され、フロントとリアのガーニッシュは3種類あって選択の幅は広い。2トーンの境目はきれいに塗り分けられていて、テールゲートの裏側などの隠れた部分もしっかり塗装されている。価格の安さが売りの軽自動車とは別格だ。
試乗車にはオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」が選ばれていて、インテリアは合成皮革とファブリックでコーディネート。ちょっとレトロ感覚なストライプ柄シートは、汚れが目立たず実用的だ。助手席ドアトリムの車検証入れはアイデア賞である。取説と一緒にグローブボックスに入っていると、本当にジャマなのだ。うまく逃げ場所を見つけたおかげでグローブボックスは2段となり、上部にはボックスティッシュが入る。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
地味に働くマイルドハイブリッド
eKクロスには、ターボでも自然吸気でも、パワートレインにはマイルドハイブリッドシステムが付属している。減速時に発電したエネルギーを運転席下に設置したリチウムイオンバッテリーにため、加速時にモーターでアシスト。ただしバッテリーもモーターも小さいので、効果は限定的だ。強力な加速を体感するようなことはなかった。エネルギーモニターを見ていると、電力の出入りが激しい。裏で地味に燃費向上の役に立っているのだろう。
モーターの大きな協力が得られるわけではないので、動力性能は驚くほどのものではない。必要にして十分ではあるが、発進加速も中間加速も平均的である。それでも運転していて気持ちがいいのは、ボディーの剛性感が高いからだ。しっかりしていて、乗り心地は硬め。ちょっとドイツ車っぽい感触もある。ワインディングロードをキビキビと走れる安心感が感じられた。スーパーハイトワゴンに対するアドバンテージだろう。
フロントスクリーンが寝ているのも大きな違いである。スーパーハイトワゴンはこれを立たせているから、ドライバーからとても遠い。前に広がる空間が広すぎて、1人で乗っていると寂しい気持ちになる。空力的にも不利な気がするが、どのメーカーも同じような箱型にしているので意味のある造形なのだろう。eKクロスはフロントスクリーンが寝ているせいなのか、風切り音が小さかった。路面の悪いところではロードノイズが気になったが、これはエコタイヤのせいかもしれない。
eKクロスには全車に「e-Assist」と名付けられた運転支援システムが標準装備されている。衝突被害軽減ブレーキや踏み間違い衝突防止アシストなどをセットにしたもので、軽自動車でもこれらの装備はもはや必須と考えられているようだ。さらに、高速道路での同一車線運転支援技術「マイパイロット」がオプション設定されている。アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線維持支援機能を組み合わせたもので、日産の「プロパイロット」と同じである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
上出来なマイパイロット
マイパイロットの使用方法は、もちろんプロパイロットと同じ。ステアリングホイールに備えられたスイッチを使い、速度と車間距離を設定すればすぐにスタートする。軽自動車ではホンダの「Nシリーズ」が先行していたが、マイパイロット/プロパイロットには後発ならではのアドバンテージがある。NシリーズのACCが約35km/h以上の速度でなければ使えないのに対し、前走車に合わせて停止もできるのだ。渋滞の中でも利用できるわけで、この違いは大きい。
これまでに何度か「日産セレナ」のプロパイロットを試したが、正直言って期待はずれだった。レーンキープの精度が低く、ステアリング操作がぎこちなかったからである。eKクロスのマイパイロットは記憶の中のプロパイロットをはるかにしのいでいた。
ステアリング操作はスムーズで、前車に追随する動きも素早い。車線から外れそうになった時のアシストは強引なほどで、ここでもドイツ車的な印象を持った。プロパイロットがこの1年の間に進化したのか、それともミニバンより軽自動車との相性がいいのかはわからない。とにかく、きちんと使えるレベルになっていたのは確かである。
eKクロスの後席シートは、前端の角度がゆるやかになっていて膝裏に当たらない形状になっていた。リクライニングした時に楽な姿勢をとれるようにするための工夫である。デザインばかりが注目されてしまうが、ディテールに細やかな配慮が行き届いているのだ。いろいろあったが、日産と三菱が誠実につくった実直でマジメなクルマである。カスタム顔に飽きてしまった人には有力な選択肢になるだろう。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
三菱eKクロスT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1685mm
ホイールベース:2495mm
車重:950kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64ps(47kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:100Nm(10.2kgm)/2400-4000rpm
モーター最高出力:2.7ps(2.0kW)/1200rpm
モーター最大トルク:40Nm(4.1kgm)/100rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:22.8km/リッター(JC08モード)/16.8km/リッター(WLTCモード)
価格:176万5800円/テスト車=239万7166円
オプション装備:オプションカラー<ナチュラルアイボリーメタリック/サンシャインオレンジメタリック>(8万1000円)/ルーフレール(2万7000円)/プレミアムインテリアパッケージ<内装色:ブラック&タン、シート生地:合成皮革&ファブリック>(5万4000円)/先進安全パッケージ<デジタルルームミラー[マルチアラウンドモニター表示機能付き]、マルチアラウンドモニター[移動物検知機能付き]>(9万1800円)/先進快適パッケージ<MI-PILOT、電動パーキングブレーキ、ステアリングスイッチ[MI-PILOT]>(7万0200円) ※以下、販売店オプション オリジナル9型ナビゲーション(21万8808円)/オールウェザーマット(1万9785円)/ETC(2万5876円)/ドライブレコーダー(3万9657円)/三角停止表示板(3240円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3176km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:299.0km
使用燃料:21.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.7km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。



















































