メルセデス・ベンツEQC400 4MATIC(4WD)
特別感なき特上モデル 2019.06.04 試乗記 今後日本国内にも導入される、メルセデスのピュアEV「EQC」。ひと足早く海外でステアリングを握ってみると、EVとしての先進性よりむしろ、“極上のメルセデス”ともいうべき乗り味に驚かされることになった。EVの時代はすぐそこに!?
2018年9月にスウェーデンの首都ストックホルム近郊で発表されたメルセデス・ベンツEQCのプレス向け国際試乗会は、同じく北欧、ノルウェーのオスロで開催された。
最初の驚きは、試乗のスタート地点となったオスロ空港の駐車場の光景。そこにはずらりとEV用の充電器が並び、そのほとんどにテスラの「モデルS」に「モデルX」、「日産リーフ」と「BMW i3」、さらには少数ながら「ジャガーIペース」「アウディe-tron」といったEVがつながっていて、まさに駐車場を埋め尽くすような勢いだったのだ。
実際、先日のニュースでは2019年4月の新車販売上位10台のうちEVが8台を占めたという報道もあった。水力発電で国の電力のほとんどを賄うこの国は充電インフラが充実しており、手厚い補助金などの政策も加わり、EVシェアがどんどん高まっている。電動化に急速にかじを切っている欧州プレミアムメーカーにとっては、近い将来こうなればいいのにと願う姿がそこにはある。未来はこうだよというアピールの場としては、確かにうってつけかもしれない。
いつものデザインに独自の機能
プラクティカルなSUVとSUVクーペの中間だという空気抵抗の低減を狙ったフォルムと、ブラックパネル化されトーチ状のイルミネーションをアクセントとしたフロントマスクが特徴とされるEQCのエクステリアだが、その姿はEVであることを強く主張するようなものではなく、メルセデスファミリーとして違和感がない。
全長4761mm×全幅1884mm×全高1623mmという「GLC」より長く、そしてやや低いボディーは、まさにそのGLCなどと共通のプラットフォームを用いて生み出されている。生産もドイツ・ブレーメン工場の、やはりGLCなどと同じラインで行われる。
ホイールベース間の床下には専用の強固なアルミ製フレームで守られた容量80kWhのリチウムイオンバッテリーが敷き詰められている。電気モーターは前後アクスルに各1基ずつの計2基で、合計最高出力は408ps、最大トルクは760Nmに達する。
航続距離はNEDCサイクルで445~471km、WLTPモードでは400kmを少し超える程度だという。もちろん、これは最大の数値だが、EQCの場合はバッテリーのSOC(充電率)が変更可能になっている。例えば普段は街乗りが主体だからと満充電でも50%しか入らないようにしておけば、バッテリー寿命を延ばせる。一方、いざ必要な時にはワンタッチで100%まで増やせるから、ロングドライブの際でも不安なしというわけだ。
室内も、各部のカッパーのアクセント、リサイクル素材の活用など、EQシリーズ独自のディテール、哲学を採り入れてはいるものの、基本的には最新のメルセデス・ベンツの文法通りのデザインといえる。標準装備のMBUXには、EV専用のきめ細かな充電管理、現時点の充電量と目的地までの距離から途中の充電まで計算に入れたルート設定等々、多彩な機能が盛り込まれている。
自動運転のような新感覚も
走りだすのに特別な儀式は要らず、ステアリングコラム右側のセレクターレバーをDレンジに入れて、アクセルペダルを踏み込めばいい。その瞬間、分かっているつもりでもうならされるのがその力強さ、滑らかさで、約2.5tにもなる車重を意識させることなくスッとクルマが動きだし、シームレスに速度を高めていく。踏み足した際のレスポンスも遅れ感は皆無。メルセデス・ベンツの美点が電気モーターによってさらに研ぎ澄まされた。そんな印象である。もちろん、室内は高速域に至るまで静かなまま。EVのメリットをたっぷり享受できる。
十分な力があるので、通常走行はCOMFORTモードではなくECOモードを選んでも不満を感じさせることはない。一方でSPORTモードにすれば、クルマとの一体感がさらに高まる。面白いのはEV専用のMAX RANGEモード。ECOと同様にパワーが抑えられるだけでなく、無用な加速に対しては「インテリジェントペダル」と呼ばれるアクセルペダルが重さを増してそれをいさめて、最大限の電費を引き出すのを助ける。
ステアリングホイール左右に付けられたパドルは変速用ではなく回生ブレーキの調整用だ。通常の「D」レンジは緩い回生が行われるが、左側パドルを1度引くと回生が強まる「D-」を、さらに引くとワンペダルドライブも可能になる「D--」を選択できる。対してDレンジから右側パドルを1度引くと回生を行わずコースティングする「D+」に入り、さらにもう1度引くと地図データや標識、走行状況から判断して回生の強さやコースティング状況を自動制御する「D Auto」モードが選択される。前走車が居ない状況でアクセルを戻せばコースティングし、そこで速度規制標識を確認すると回生により速度を落とすなど、まさに状況に応じた最適な減速力を引き出すことを可能とするのだ。
これらを組み合わせて走らせていると、ディストロニックを使っていなくても、半自動運転的と言っていい走行が可能になる。感覚的に慣れない部分は確かにあるが、これに慣れると人とクルマの関係、また少し変わってくるかもしれない……などと思えたのだった。
メルセデスらしさの極み
フットワークにも感心させられた。まずは乗り心地が非常にしなやか。リアだけエアスプリングを使ったサスペンションのセットアップに、その車重も貢献しているのだろう。いかにもメルセデス・ベンツらしい上質な快適性が実現されている。しかも、クルマ自体は重いにも関わらず、低めの重心と良好な前後バランスが効いているのか操舵応答性が非常に高く、素直に向きが変わり大舵角までしっかり追従してくれる。これもまたEVの美点といえるだろう。
走りだす前には、まさにオスロ空港の駐車場に止まっていたような先行するライバルに対して、メルセデス・ベンツがEQCに、EVとして一体どんなテイストを込めてくるのかと考えていたが、実際にステアリングを握ってみると、EQCはあえて何か違うことをするのではなく、EVという素材のうま味を生かしてメルセデス・ベンツらしさを一層突き詰めたクルマになっていた。
率直に言って、新鮮な何かを期待し過ぎると肩透かしを食らうかもしれないが、間違いなくその出来栄えは“特上級のメルセデス・ベンツ”そのものと言い切れる。
ダイムラーのディーター・ツェッチェCEOはEQCを「100%EV、100%メルセデス・ベンツです」と評していた。乗ってみると、それをしかと実感できる。目下の課題は、やはり充電環境だろう。実際に今回オスロでも試したが、欧州では出力110kWの急速充電ネットワークであるIONITYのチャージャーが、一拠点につき6基もあったりするから、まだいい。しかしながら日本の現行のCHAdeMO(多くは20kW~50kW)頼みで使うのは、さすがに厳しい。かといって、自宅や職場で充電できる人はまだ少数だろう。まして、これだけの大容量バッテリーだと、自宅の普通充電では満充電までもっていくのも大変だ。
もちろん、価格も気になる。日本仕様の値付けは1000万円を超えるか超えないかという辺りで攻防している様子だから、誰にでも薦められるものとは言い難い。
しかし、その高いハードルの向こうには極上のメルセデス・ベンツ体験が待っていることは保証できる。日本には2019年内ギリギリか2020年初頭までには導入がかないそうとのことである。
(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ日本/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツEQC400 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4761×1884×1623mm
ホイールベース:2873mm
車重:2495kg
駆動方式:4WD
モーター:非同期モーター
フロントモーター最高出力:--ps(--kW)/--rpm
フロントモーター最大トルク:--Nm(--kgm)/--rpm
リアモーター最高出力:--ps(--kW)/--rpm
リアモーター最大トルク:--Nm(--kgm)/--rpm
システム最高出力:408ps(300kW)/--rpm
システム最大トルク:760Nm(77.5kgm)/--rpm
タイヤ:(前)235/50R20/(後)255/45R20(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
一充電最大走行可能距離:445-471km(NEDCモード)
交流電力量消費率:20.8-19.7kWh/100km(NEDCモード)
価格:--円
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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