シトロエンC5エアクロスSUVシャイン(FF/8AT)
原点を思い出す 2019.07.09 試乗記 創立100周年を迎えたシトロエンが放つ新型車が「C5エアクロスSUV」だ。“ハイドロニューマチックの現代的解釈”をうたうサスペンションシステムや新開発のシートなど、「何よりもコンフォート性能を追求した」というモデルを支える装備の出来栄えをチェックした。グループ復活の立役者
プジョー・シトロエン(現グループPSA)といえば、2012年前後には「倒産もやむなし!?」とささやかれるほど経営状態が悪化した。その後、彼らは8000人規模の人員削減や工場閉鎖、創業家(=プジョー家)の経営からの撤退、そしてフランス政府や中国(東風汽車)からの資金援助などを軸にした大リストラ策を打ち出す。
カルロス・タバレス氏がルノーから電撃移籍して同社の会長兼CEOに就任したのは、リストラ真っ只中の2014年だった。以降のグループPSAはまさに快進撃。翌2015年に5年ぶりに黒字転換したかと思えば、続く2016年には米ゼネラルモーターズからオペル/ボクスホールを買収して、市場シェアでルノーを抜き去った。そして翌2018年には、早くもオペル事業も黒字化に成功するのだ。
タバレス会長の手腕が欧州で好評を博しているのは、リストラによる黒字化と並行して、きちんと魅力的な商品を発売したからだ。
タバレスPSAは、プジョーとシトロエン、そしてあえて独立させたDSといった各ブランドの分かりやすい差別化に成功すると同時に、プジョーの「3008」や「5008」、そして「シトロエンC3」といった明快なヒット作を欧州で連発してきた。だからこそ、タバレス会長は「次にオペル/ボクスホールをどう料理してくれるのか?」と期待されてもいる。
今回のC5エアクロスSUV(以降、SUVは割愛)は、そんなシトロエンの最新フラッグシップである。現在のシトロエンの商品づくりが2014年デビューの「C4カクタス」に端を発するのは明らかだ。これ以降のシトロエンがカクタスに通じるレジャー志向のクロスオーバーブランドに特化したことに加えて、デザインモチーフや“エアリー”な乗り心地など、「エアバンプ」に象徴されるカクタスのデザインや商品性の多くを踏襲している。
シトロエン=コンフォート
もっとも、最新のC5エアクロスにはC4カクタスからアップデートされた部分も多い。たとえば、レザートランクを思わせる内装デザインはカクタスの正常進化版だが、鮮やかな差し色をアクセントとする外装デザインはカクタスとは少しちがう。その昨今のスポーツウエア風の意匠アイデアそのものは日本の「トヨタ・シエンタ」にも似て……とか書くと、コアなファンは怒るかもしれない。
特徴的なエアバンプも、カクタス(やその後のC3)ではまさに衝撃吸収構造として、車体のどてっ腹に鎮座していた。しかしC5エアクロスではその半楕円形モチーフは生かししつつも、それをバンパー下部やサイドシルに追いやり、「ナイキ・エアマックス」を思わせるスポーツシューズ風デザインに転換させている。正確にいうと、C5エアクロスのそれはもはやエアバンプではなく、良くも悪くもただのグラフィックデザインでしかなくなった。
C5エアクロスの基本骨格はおなじみの「EMP2」プラットフォーム上に構築されており、パッケージ的には3008や5008に準じたものだ。もっというと、ホイールベースやシートレイアウトは「DS 7クロスバック」と基本的に同じである。
以前にも書いたように、創業100周年を迎えるシトロエンは“コンフォート(=快適性)”と自ブランドの強みを再定義して、それを特徴づける「シトロエン・アドバンストコンフォート・プログラム」という技術群を開発。それを「C4ピカソ」以降から順次市場投入して、このC5エアクロスではいよいよ本番……とばかりにフル採用されている。
PSAみずから“新世代のハイドロ”と称するサスペンション技術「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(以下、PHC)」はその最たるものだが、それ以外にも高密度フォームを使った新開発シートや構造用接着剤を使った高剛性車体、ハンズフリー電動テールゲートに高性能「アクティブカーボンフィルター」を備えた空調システム、そしてADAS(先進安全運転支援システム)もその一環という。
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PSAにあってルノーにないもの
私は個人的に、ルノーの新車をこれまで3台連続購入して、そのうち2台を現在も所有するルノーファンなのだが、わが最大の敵(!)であるPSAで素直にうらやましいのが、フランス車としてはあるまじき(笑)充実ぶりといえるADASである。
歩行者検知機能付き自動ブレーキや全車速対応渋滞追従アダプティブクルーズコントロール(ACC)をはじめ、レーンキープアシストや道路標識認識機能、ドライバー注意喚起機能など、いま考えられるADAS機能がほぼすべてそろう。それだけでもルノーとは雲泥の差である。その絶対的な機能レベルはBMWやボルボのような世界最先端とまではいわない。しかし、ACCの設定速度を速度制限標識にボタンひとつでマッチングさせる機能や、カメラの車線情報からふらつき運転を検知して休憩を促すなど、随所にPSA独自の機能が見えるのは、なんとも頼もしく、うらやましい。
もうひとつ、アイシン・エィ・ダブリュ製8段ATのおかげもあって、日本でもドンピシャに使いやすいディーゼルパワートレインが堪能できる点も、なんだかんだプジョー・シトロエン・ジャポンの美点である。いろいろいわれても、最新の欧州製ディーゼルが素直に魅力的なのは事実だ。
この2リッターディーゼルはうそのように静か……とまではいわないが、よくできたガソリンを思わせるスムーズな吹け上がりや、軽いブリッピングも駆使しつつエンジン回転計をスッスッと黒子のように上下させるアイシンATの緻密な変速マナーのおかげもあって、パワートレインはいい意味でディーゼルらしくない上品さが印象的である。
コンソールに用意された「スポーツ」ボタンを押しても、スロットルや変速機のスポーツ演出は「そういわれてみれば……」という程度の軽微なものでしかない。それでも、後述するソフトなフットワークにはカツが入るから、山坂道での扱いやすさは、わずかだが確実に増す。
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マニアを泣かせるディテールがたっぷり
ドライバーの眼前にあるメーターパネルは最近流行のフルカラー液晶である。表示項目やレイアウトは好みによる設定が可能だが、その最上段にはDS 7クロスバックと同様に、ボビンメーターを模した横回転速度計がひっそりと投影されており、往年のシトロエンを知る中高年マニアは感涙にむせぶ。
ただ、そのデザインはあくまで“ひっそり”であり、本来のスピードメーター機能はあくまで、それより何倍も視認しやすいデジタル計が担当するのが前提である。今によみがえったボビンメーターはいかなる基準をもっても、見やすいとはいえないからだ(笑)。
また、資料では“ふっかり”と形容される「アドバンストコンフォートシート」も中高年シトロエンマニア殺しアイテムという位置づけだろう。しかし、少なくとも今回の試乗車がレザーシート仕様だったこともあってか、その字面から想像するほど、これ見よがしに柔らかいわけではない。表層の肌触りはそれなりに柔らかくはあるものの、シート形状は想像していたよりもずっとフラットで、基本的にハリも強い。人間の身体を包み込むというよりも、しっかりと支える最新人間工学のイスである。
……と、一見すると最新流行を真正面から受け止めるクロスオーバーSUVでありながら、その実は中高年マニアが小躍りしそうなセリングポイント満載のC5エアクロスである。なかでもそのセールストークと実際のデキの両面で、あまりに濃厚な「らしさ」にあふれるのが例のサスペンション=PHCである。
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走り始めから独特の乗り味
PHCはサスペンションが縮みきった(あるいは伸びきった)最後の壁となるストッパー役にセカンダリーダンパーを使うことで、実際に使えるストローク長を拡大すると同時に、バネや減衰を通常構造のサスペンションよりも柔らかく設定できるのがメリットである。シトロエンでは、これを“ハイドロニューマチック/ハイドラクティブの現代版”という位置づけにしたいらしい。
その実際の乗り味は、クルマを受け取って都内有数の幹線道路である目黒通りを走り始めた瞬間から独特である。それほど荒れていない舗装路を、せいぜい50~60km/hで転がしているだけなのに、C5エアクロスはあからさまにフワフワとゆっくり上下しながら走る。そのいくらなんでも……な過剰演出に、いきなり笑ってしまった。
ただ、その乗り心地の奥に向後カメラマン(=webCG関係者でおそらく、もっとも乗り心地にうるさい)が「ダンピングが一瞬遅れる」というクセがあったり、上下動がすこぶる柔らかいわりに、路面の粒々を鮮明に拾いがちだったりするのは、試乗車がまだ1800kmしか走っていないド新車だったからか、あるいは意外に太くて偏平な18インチタイヤの影響があるかもしれない。
ただ、低速でこれだけ大げさにフワフワながらも、速度が上がるにつれて完全なフラットライドと化す……とまではいわずとも、上屋の動きが適度に落ち着いて、またロール角度そのものはあくまで現代のクルマらしく抑制されるのは、自慢のセカンダリーダンパーや空力性能の効果だろう。この瞬間がPHCってか?
また、低速での操舵力がハネのように軽いのも往年のハイドロ車を意識した味つけだろう。かわりに車速の上昇に合わせて明確にズシリと重くなるので高速での不安感はない。しかし、高速出口で速度を削いだ瞬間に、慣れないとたまらずステアリングを切りすぎてしまうほど振り幅の大きい速度感応制御は、少しばかりやりすぎ感がただよう。
思い出すのはハイドロというより……
PHCはそもそもラリーカー技術の応用というが、山坂道でのC5エアクロスはクリップを突き刺すようなターンインはしないし、基本的にアンダーステアカーである。しかし、一定のアンダーステアを延々とキープしながら、最後の最後に結局きれいに曲がりきる「速さはエンジンでなくアシで稼ぐぜ!」な伝統のフレンチテイストに、われら中高年マニアは身もだえるのだ。
もっとも、絶対的な車体姿勢は安定しつつ、海に浮いた大型船のように上下するC5エアクロスのフットワークは、なるほどハイドロ的ともいえる。ただ、ハイドロと決定的に異なるのは、これはあくまで金属バネであり、積極的な車高維持機能をもたないところだ。
ハイドロとはとどのつまりはエアサスであり、昔ながらのハイドロニューマチックではメカニカルに、その後のハイドラクティブでは電子制御で車高と姿勢を積極維持するのが特徴だった。結果として、その乗り心地は柔らかいのと同時に、良くも悪くも人工的、あるいは自分の意志があるかのような味わいが同居していた。
その点、PHCの柔らかさとフラットネスの両立点はアナログサスとしては異例なレベルにあるものの、路面の微細な凹凸にも突っ張らないしなやかさは金属バネならではの美点である。また、加減速やステアリング操作で小さくも確実に荷重移動するPHCのステキな味わいは、いい意味でハイドロとは別物の自然な挙動と接地感のたまものだ。
PHCによるC5エアクロスの乗り心地と操縦性はハイドロというより……と、アラフィフの私は自分の記憶をたぐる。このソフトだけどナチュラル、動きは小さくないが最後までネバる特性は、ハイドロではなく、文字どおり往年の金属バネのシトロエンそのもの。ここでいう“往年”とは1980年代後半から90年代にかけてのことで、具体的にはシトロエンの「AX」に「ZX」、そして「クサラ」など、プジョーと明確に異なる乗り味を醸成していた最後の時代である。そして、しいていえば、それはさらに遠く「2CV」にも通じる気がする。
まあ、いずれにしても、PHCは見事にシトロエンである。新生シトロエンの商品づくりはニクらしいほど巧妙だ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
シトロエンC5エアクロスSUVシャイン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1850×1710mm
ホイールベース:2730mm
車重:1670kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:177ps(130kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100V M+S/(後)235/55R18 100V M+S(ミシュラン・ラティチュード ツアーHP)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:424万円/テスト車=499万9684円
オプション装備:パールペイント(8万1000円)/バイトーンルーフ(3万円)/ナッパレザーパッケージ(36万円)/ナビゲーションシステム(23万2200円)/ETC 2.0(4万3740円)/フロアマット(1万2744円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1879km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:591.0km
使用燃料:43.2リッター(軽油)
参考燃費:13.7km/リッター(満タン法)/12.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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